GRAPEVINE、“ありふれた未来”に思いを馳せた日比谷野音公演 『新しい果実』からも新曲を初披露

GRAPEVINE野音、“ありふれた未来”への想い

 午前中には雨の予報が出ていた4月25日、午後になると予報は曇りに変わり、東京・日比谷野外大音楽堂の入口が開く頃には日差しが眩しいほどの好天になった。GRAPEVINE、運を持ってるバンドだ。午後5時過ぎ、『GRAPEVINE LIVE AT HIBIYA PARK』と題した約5カ月ぶりの有観客&配信ライブがスタートした。

 「こんにちはー、日比谷野音!」と伸びやかな第一声を響かせた田中和将(Vo/Gt)に、オーディエンスは立ち上がり、手を振り拍手を送る。オープニングナンバーは広い青空にぴったりの「FLY」。田中と西川弘剛(Gt)のギターが絶妙なアンサンブルを作り出し、亀井亨(Dr)のドラムが力強くビートを刻んでいく。この曲では高野勲(Key/Gt)もギターを弾き、音に厚みを加え、ヒゲを伸ばした金戸覚(Ba)はサビのコーラスを重ねる。サビの〈風 読め〉をマスクの中でこっそり歌いながら腕を空に向けて突き出せば、この24時間ぐらいの鬱々とした気持ちが吹っ飛ぶようだった。

 続いたのは、ヒリヒリするような緊張感のある「スレドニ・ヴァシュター」。この曲がこんなところにくると、今日のライブは楽しいけど手強いぜと言われているようで、かえって気持ちは高揚する。おおらかなサウンドで聴かせた「放浪フリーク」を歌い終わると、田中が言った。

「久しぶりの野音、そして何より久しぶりのライブに大勢さんお集まりいただきありがとうございます。お日柄もよく、このまま雨が降らないことを祈りつつ、そんな感じでやっていこうと思います。例によって我々は、『行くぜ!』とか、『みんなの声を』とか、そんな不謹慎なこと言いませんので、僕らがいい演奏してたら最大限の拍手を、そして最大限の無言で、マスクの下の笑顔で答えてください、よろしくお願いします。あと新しい曲も、もしかしたらやるかもしれないので、耳をかっぽじって聴いててください。最後までよろしく」

田中和将

 確かにGRAPEVINEはオーディエンスを煽るようなことはまずなく、ライブで歌うのは勝手だがシンガロングを求めることもない。オーディエンスもそれがわかっているから、ここは野外だが皆マスクをつけ入口で手消毒もして、立ったり座ったり踊ったり腕を上げたり自由に楽しんでいる。「Darlin’ from hell」「風待ち」と、ファンにはお馴染みのゆったりした曲を続けた後で、未発表の新曲「リヴァイアサン」が披露された。もちろん田中は曲名を告げたりもせず、不協和音めいたギターが重なるイントロから、オーディエンスの頭の上に「?」が浮かぶのも知らんぷりして、得意の単語を丸めて吐き出すような歌い方で曲を進めていく。こちらも初めて聴く曲だからとスルーなどせず全身で受け止め、すごい曲と出会った喜びを心にしまい込んで拍手を送った。

 先に書いてしまえば、このライブは5月26日にリリース予定のニューアルバム『新しい果実』を早くも下敷きにしていたようで、「リヴァイアサン」の他にも「阿」「さみだれ」、そして3月に配信がスタートしている「Gifted」が演奏された。これらの新曲とのバランスを考えたセットリストだったのだろう。「リヴァイアサン」に続いたのはTalking Headsを彷彿とさせる「Golden Dawn」で、「アルファビル」からエフェクトを効かせた西川のギターノイズが繋ぎ、金戸のベースが唸った「阿」は、スリリングなサウンドとアグレッシブな田中のボーカルが絡まる緊張感が見事。渦巻くようなグルーブに聴きながら体を揺らさずにいられない。その熱をゆったりした「弁天」で受け止めたが、この曲と「阿」は仏教的なワードを素材にしている共通点がある。そして「弁天」と同じく2019年リリースの『ALL THE LIGHT』に収録された「すべてのありふれた光」へと進んだ。

 何事もなければ「すべてのありふれた光」は長いツアーで数えきれないほど演奏されたはずだ。しかしご存知の通り、東京都では緊急事態宣言が発出され、このライブもどうなることかと思われたが、前日に行われることが発表された。さらに雨の予報で落雷の可能性もあった。批判や反論も覚悟で、この瞬間を“ありふれた未来”にするために、メンバーもスタッフも48時間ぐらい神経をすり減らしていたに違いない。黄昏に包まれ始めた日比谷野音に響く「すべてのありふれた光」は格別だった。

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