GRAPEVINE、濃密に音楽と向き合うバンドの底力 『新しい果実』の楽曲が彩った“洗練されたライブ空間”
6月12日の福岡・DRUM LOGOSからスタートした全国ツアー『GRAPEVINE tour 2021』。6公演を経て7月8日に東京・ Zepp DiverCityのステージにGRAPEVINEが立った。シンプルに『GRAPEVINE tour 2021』と題されているが、5月26日にリリースした最新作『新しい果実』を携えてのツアーである。この日を田中和将(Vo/Gt)がMCで「中締め」と言ったのは、ここで一旦休みを入れ、9月にツアー後半戦を行う予定だからだ。そのため本稿ではセットリストには触れないが、『新しい果実』収録の全曲に加え意外な曲や定番曲を演奏し、彼らならではのライブ空間を作り出したことを記しておきたい。
『新しい果実』についてのインタビューで田中は、「僕は結局バンドで音を出してるのが好きなんで、バンドがなければ曲も作りませんよ」(※1)と語っていたが、これはGRAPEVINEというバンドの基本姿勢であろう。曲を作りアルバムにまとめリリースしたらツアーで演奏する。そうすることが曲やアルバムの落ち着く先となっていく。そんな流れが当然となっている彼らにとってこのツアーは、『新しい果実』という作品の最初の着地点ということになろう。こちらとしても初めて生演奏で新曲を聴くのは新しい体験となる。
手を振りながらステージに現れた5人は、じわりと胃の腑を揺さぶるようなイントロが響いた幕開けの曲から、程よい緊張感のある演奏で空気を震わせた。この時代をシニカルに捉えた歌詞が妙にリアルに感じたのは、この日に東京都は4度目の緊急事態宣言の発出を決め、夏フェスの一つ『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021』の中止が発表されたからかもしれない。そんなことに触れもせず曲を進め、田中は明るく最初のMCをした。
「まさか聴いてない人はいないと思いますが、『新しい果実』というアルバムが出ておりましてですね。そのアルバムの曲を中心にやっていくので、聴いていない人は非常に肩身の狭い思いをして、自己嫌悪に陥ってしまうかもしれないですが、寝る人は寝る、座る人は座る、盛り上がる人は盛り上がる。そんな感じでご自由に、ごゆるりと過ごしていってください」
亀井亨のドラムが安定のビートを叩き出し、西川弘剛のギターが曲に句読点をつけていく。足でリズムを取ったり、時にはステップを踏みながら田中は飄々と歌うが緩急の効いたボーカルが曲を立体的に描き出し、時に力強いロングトーンで惹きつけた。シンセやオルガン、ギターも弾いて控えめながら曲に欠かせない色を加える高野勲、長身を揺すりながらぶっといベースを響かせる金戸覚とのコンビネーションは、このツアーでも最高だ。懐かしいシングルのカップリング曲なども演奏し、新曲にもライブならではの加味があったりもして、より曲のイメージが広がっていく。それを後押しするのがシャープに構成されたライティングだ。
CGや映像などを使わないGRAPEVINEのライブではライティングが大きくものを言うのだが、このツアーでは従来にも増して切れ味のいいライティングがステージのみならずフロアまで照らし出す。例えば先行配信された「ねずみ浄土」は客室清掃員に扮したダンサーがホテルの部屋や通路で踊るMVを思い出すが、曲に合わせてキッパリと切り替わるライティングが曲そのもののイメージを膨らませていった。このように緻密に計算されたアブストラクトなライティングもあれば幻想的な光が溢れる曲もあり、あるいは演奏と一体となってサイケデリックな空間を見せる曲もあった。