TOMOOが音楽を生み出す原動力 活動のルーツから思考への影響まで……独自のクリエイティビティに迫る

 シンガーソングライターのTOMOOが、デジタルシングル『酔ひもせす/グッドラック』をリリースする。

 その小柄な姿からは想像もつかないほど豊かなアルトボイスと、70年代~80年代のポップス~ソウルミュージックから影響を受けたウェルメイドな楽曲、ピアノを弾き歌うライブパフォーマンスによって、音楽好きの間で着実に注目を集めてきた彼女。2021年にリリースした「Ginger」は、数多くのアーティストから絶賛され話題となった。そんなTOMOOによる今回の新曲も、これまでの彼女の作風を受け継ぐポップかつソウルフルなナンバーに仕上がっている。

 今回リアルサウンドではそんな彼女にインタビューを行い、新曲の制作エピソードはもちろん、彼女が影響を受けてきた音楽や、これから歌っていきたい歌詞のテーマなどその無尽蔵で独特なクリエイティビティに迫った。(黒田隆憲)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

友人からの一通の手紙に動かされた心

ーーTOMOOさんにとって、音楽が特別なものになったのはいつごろからでしたか?

TOMOO:物心がつく前から、ディズニー作品をよく観ていたらしくて。特に『ライオン・キング』が2~3歳くらいの頃すごく好きで、字幕版と吹替版を毎日交互に観るくらいだったんですね。それを全て「音」で覚えて歌ってみたり、一人で再現して遊んだりしていたのが「音楽」との出会いだったのだと思います。

ーー自分で曲を作るようになったのは?

TOMOO:小学6年生の頃には、特に形には残さない「その場限りの即興ソング」を歌いながらピアノを弾く、みたいなことはやっていました。ちゃんと形にして残しておくようになったのは、中1の夏休みが最初でしたね。ピアノを始めた最初の頃は、ディズニーやジブリ作品に出てくるようなインスト曲をメインに耳コピしていたのですが、小学校高学年になってくるとアニソンや当時流行っていたJ-POPをコピーするようになり、そのついでに歌も遊びでコピーしていたんです。そうしたら自然とオリジナル曲も浮かぶようになってきたというか。

ーー中学生の頃は、演劇部にも所属していたと聞きました。

TOMOO:高校生までやっていました。小学校6年生の頃、学芸会でたまたま独唱と演技を全校生徒の前で披露する機会があって。そのときにみんながびっくりしていた記憶があるんですけど、そこからステージに立つことが楽しくなったというか、興味を持つようになったんでしょうね。それで演劇部の活動を見学しに行ったんですけど、中学生の演劇部は小学生のものとは全然違ってものすごく本格的で。感情が本当にセリフに宿っていて圧倒されるような声の凄み、振る舞いや空気感にすごく感激したんです。かっこいい! って。

 当時は思春期で、そもそも内向的な性格の上に進学して環境が変わったことで、自分の気持ちを人に話したり、人から話を聞いたりすることができなくなって、どんどん心の中に蓄積していった気持ちを「演技」という手段で、全く自分とはかけ離れた役になり切って吐き出すことが楽しかったのだと思います。その頃は音楽と演劇部の活動の両方をやっていたんですけど、あるきっかけがあって音楽に専念していくようになりました。

ーーそれは、どんなきっかけだったのでしょうか。

TOMOO:今言ったように、もともと内向的な性格だったのですが、中学生になってこれまで誰にも話さなかったような自分の気持ちを話せるような友人ができたんですね。その子から、あるとき短い手紙をもらったんですけど、その内容に感激してしまって。「こんなふうに自分のことを理解してくれる人がいるんだ」と生まれて初めて思って心が動いたんです。

 それで返事を書こうと思ったら、文章よりも先に曲ができてしまって(笑)。ちょっと独りよがりかな……と思いつつ「聴いてくれない?」と言って、薄暗い音楽室でその友人に曲を披露したんです。そしたらすごく感動してくれて。「本気で音楽の道に進もうとは思わないの?」「もしやるなら、最初のファンは私だからね」と言ってくれたんです。その子にそうやって背中を押してもらったことは、自分にとってかなり大きな出来事でした。

ーーその時の曲は、今でも覚えていますか?

TOMOO:実はライブでもやったことがあるんですよ。もうしばらくやっていなくて、確か最後に演奏したのは19歳の頃だったかな。昔から応援してくださっている方たちは「あの曲、もうやらないんですか? 」と今でも言ってくれています(笑)。何かしらのタイミングで、また披露できたらいいなと思っていますね。

ーー先日ワンマンライブ(『TOMOO one-man live“YOU YOU”』)を観に行ったのですが、TOMOOさんの楽曲には主に70年代~80年代のポップミュージックのエッセンスがふんだんに散りばめられていると感じました。例えば「らしくもなくたっていいでしょう」はEarth, Wind & Fireの「September」、「Ginger」はJackson 5の「Never Can Say Goodbye」あたりを彷彿とさせるのですが、実際のところそうした音楽からの影響はありますか?

TOMOO:音楽活動を始めた高校生の頃、当時お世話になっていたある方から「もっと洋楽を聴いた方がいいよ」とアドバイスしていただいたことがあって。例えばキャロル・キングやジョニ・ミッチェル、ベン・フォールズ、The Beatles、Carpentersあたりを勧めてもらって聴いていた時期はありました。ただ、今おっしゃっていただいたような曲に関しては、5年くらい前に大江千里さんや岡村靖幸さんをはじめ、80年代~90年代の日本の曲をよく聴くようになって、そこに含まれている洋楽のエッセンスを、当時は間接的に受け継いだような感じだったのかなと思うんです。個人的に、The Doobie Brothersの「What a Fool Believes」あたりの70年代の洋楽と、80年代~90年代の邦楽ポップスにも共通して存在している、あの独特な弾むような軽快なリズムやポップなメロディは、なんていうか「シティ」ではなく「タウン」っぽいと感じたんですよ。垢抜けた都会ではなくて、開発されきっていない街。そういう風景が自分にはしっくりきた記憶はあります。

TOMOO - らしくもなくたっていいでしょう 【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ーーなるほど。それこそシュガーベイブ「DOWN TOWN」の元ネタとなった、The Isley Brothersの「If You Were There」とかですよね。確かに「タウン」という言葉はTOMOOさんの音楽を表す上ですごくしっくりきます。「シティポップ」ほど洗練はされていなくて、ちょっと下町っぽい親しみやすさが全体的に漂っていて。

TOMOO:ああ、確かに「下町」っぽさはあるかもしれないですね。自分が生まれ育ってきた環境や、目に映っていた景色のせいなのかどうかは分からないですけど、あまり洗練されすぎているものに昔から馴染めなくて。東京出身ではあるんですけど、割とほっこりとした景色の中で生きてきたので(笑)、音楽も音を削ぎ落としていくクールなものよりは、ちょっと泥臭くてマットなものの方が自分には合っているなと思います。

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