adieu、ミニアルバム『adieu 1』『adieu 2』LP盤リリースの背景 音楽活動への思いがベースに

 上白石萌歌の音楽プロジェクト、adieuのミニアルバム『adieu 1』『adieu 2』のLP盤がプレスされ、3月30日にリリースされる。それぞれ、2019年11月27日、2021年6月30日にCDリリースされていた作品だが、なぜ、アナログレコードなのだろうか。

 現在、アナログレコードの生産数はというと、国内外を問わず過去10年以上伸びている。レアグルーヴを掘るアナログブームとは別軸で、音楽ストリーミングサービスが台頭してきたのと同時に、現在進行形の人気アーティストの最新作がアナログリリースもされるのがデフォルトのようになっており、そのブームは加速。昨年は、アデル、テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュら超ビッグネーム(しかも、アナログでも聴きたいアーティスト)のリリースもあってか、レコードプレス工場の生産が追いつかない事態が起きているほど、盛り上がっているのだ。しかしadieuのLP盤のリリースはこうした時流に乗ってというだけでなく、本人の音楽活動への思いがベースにあるように思う。

 俳優として“役を演じる”仕事で早くから活躍している彼女は、音楽活動を、その真逆の表現として、本来のアイデンティティ(素)を表すものとして位置づけている。adieuとして本格デビューとなった、2019年「強がり」(作詞作曲=小袋成彬、Yaffle)で、内省的な一面を見せ、以降、『adieu 1』『adieu 2』を通して、塩入冬湖(FINLANDS)、いしわたり淳治、澤部渡(スカート)、野田洋次郎(RADWIMPS)、君島大空、古舘佑太郎(THE 2)、カネコアヤノら、多彩な作家陣が参加するなか、いずれも、adieuと一体化する作品へと昇華する。

adieu [ 強がり ]

 彼女をデビュー当初からプロデュースするYaffle(※1)は、目下、藤井風、iriらを手がけ、日本の音楽シーンに新風を吹かせているが、最先端の欧米オルタナティブシーン(近年はオーバーグラウンドのポップシーンにも大きな影響を与えている)と呼応する現代的なセンスで、adieuのプロデュースワークに関しては、adieu自身の嗜好と、その歌声を大きな幹に、繊細な心象風景を曲にしてきた。

 2021年8月に開催したワンマンライブ『adieu First Live 2021 -à plus-』では、バンドサウンドでもアコースティックでも、どんな轟音でも関係なく、彼女の歌声がポーンと飛んできたのが印象的だった。『adieu 1』『adieu 2』を経て、どんな楽曲がきてもadieuになるという確信は、新たなチャレンジへと向いているのではないだろうか。実際、3月2日にリリースした最新シングル『穴空きの空』では、3曲ともにまったく異なるアプローチを見せ、そのアンテナの張り方には膝を打った。「穴空きの空」(MVはすでに250万回再生を突破)は、空音、Rin音ら新世代のラッパー&シンガーソングライター界隈で注目を集めるクボタカイ、「灯台より」は独特の世界観を持つシンガーソングライターの柴田聡子、そして、「旅立ち」は昨年アルバム『時間』が注目を集めたbetcover!!の柳瀬二郎による作詞作曲。特に「旅立ち」は“明るいネクラ感”という踊れるアプローチで、adieuも柳瀬二郎も、いったんフラットになった上で、ともに新境地を開いたような、実におもしろい化学反応が起きていて最高だった。

adieu [ 穴空きの空 ]

関連記事