森山直太朗、コロナ療養期間に問い直した生きる意味 「僕の心が変わったから世界が素晴らしく思えた」

 デビュー20周年を迎えた森山直太朗から、ニューアルバム『素晴らしい世界』が届けられた。2020年のコロナ禍の状況を色濃く反映した「最悪な春」、映画『心の傷を癒すということ 《劇場版》』主題歌「カク云ウボクモ」、代表曲を再録した「さくら(二〇一九)」「花(二〇二一)」、さらに新曲「素晴らしい世界」「愛してるって言ってみな」などを収めた本作は、前作アルバム『822』以降の軌跡、そして、この2年間で経験した出来事や森山自身の変化が生々しく刻まれている。

 これまで以上に“人間・森山直太朗”がダイレクトに映し出された本作『素晴らしい世界』。この作品に至るまでの道のりを彼自身の言葉で語ってもらった。(森朋之)【最終ページに読者プレゼントあり】

コロナ療養期間は「闇のなかで溺れるような感覚」

森山直太朗

ーーニューアルバム『素晴らしい世界』がリリースされます。この2年間の世界の変化、直太朗さん自身の変遷がリアルに反映された作品だと思いますが、手ごたえはどうですか?

森山直太朗(以下、森山):「できたぞ! やった!」という感じですかね。山頂まで登ったような気分というのかな。晴れやかではあるんだけど、これからプロモーションという名の下山が待ってるので、膝が気になります(笑)。

ーー(笑)。前作アルバム『822』(2018年8月)の最後の曲が「時代は変わる」。その後、世界は本当に変わってしまったわけですが……。

森山:そうですね。元号が令和になって、コロナという天変地異が起きて。

ーー今回のアルバムに収録された「すぐそこにNEW DAYS」は、アルバム『822』を引っ提げた全国ツアー『人間の森』でも披露されていましたが、“NEW DAYS”はなかなか来ず。

森山:確かにそうなんだけど、だからこそ今回のアルバムに入れられたんだと思います。「すぐそこにNEW DAYS」は、“兆し”みたいなものだし、“新しい日々、新しい時代がやってくる”とはひと言も歌っていないんですよ。目の前にあるものをずっと追いかけている状態というか、手が届かない夕雲みたいなものなので。そのあたりは厳密に言葉をチョイスしていますね。

森山直太朗「すぐそこにNEW DAYS in Blue Note Tokyo」

ーー決して手に入らないものの象徴でもあると。

森山:そう。“もうここにNEW DAYS”と言えたらいいのかもしれないけど、そうは言い切れないご時世ですからね。というか、生きてくってそういうことじゃないですか? いつだって、求めているものはちょっと先にあるし、それを追いかけながら人生が終わっていくんだと思う。こう言うとネガティブに捉えられがちだけど、じつはそれが原動力になってるんですよね。好奇心とか、わからないものが進む力になるーーだって、未来のことは誰もわからないから。

ーーこの2年の出来事も、誰も予想してませんでしたからね。

森山:うん。でも、みんな徐々に忘れていってませんか? 2020年の3月くらいの戦々恐々とした状態を。「罹ったら自分も死ぬかもしれないな」という危機感だったり、生に対する執着だったり。

森山直太朗 - 「最悪な春」 Music Video

ーー「最悪な春」には〈最悪なこの春をずっと 僕は僕らは 忘れないだろう〉という歌詞もありますけど、確かにあの時期の怖さは薄れてるような気がします。

森山:そうなんですよね。人間の生死に対する倫理みたいなものを考えることが多かったじゃないですか、あの頃って。自分にとって何がいちばん大切なのか、人間の本当の豊かさについても考えざるを得なかったし、あの感覚ってこの先、なかなか味わえないと思うんですよ。ただ、はっきりしたことはわからないですけどね。それこそ「すぐそこにNEW DAYS」で歌ってるように、答えは風に吹かれているし、ずっと揺れているので。

ーーそういう本質的なことって、日々のなかでいつの間にか忘れちゃいますよね。

森山:生活しなくちゃいけないし、光熱費も払わないといけないからね(笑)。ただ、この社会で生きるためには“余白”が必要だってことはわかったと思うんですよ。それをどう作っていくかが、分かれ道なのかなと。

ーー直太朗さん自身も、生きるうえで大切なことが明確になった感覚があるんですか?

森山:うん、さすがに。僕自身、コロナを経験して……症状がちょっと重めで、「この先、歌えなくなるかもしれない」という不安もあって。今まで当たり前にあった生活とか環境、行為、活動みたいなものは全然当たり前じゃなくて、小さな奇跡が重なって成り立ってたんだなと、ようやくわかった。それはすごく貴重な経験でしたね。あと、病みから抜け出たときの「ただ生きている、ザッツオール。それ以上、何を求めればいいの?」という感覚も大きかったんですよね。その後の療養の時期にも内省の時間もすごくあったんだけど、「こうやって生きているんだから、まだまだやれることはたくさんあるな」と思えたんです。

ーーなるほど。

森山:社会からも世界からも分断された状況に身を置いたことで、孤独や不安、もっと奥にある闇のなかで溺れるような感覚も味わって。そのときは本当に苦しかったけど、それを含めて、今となっては貴重な経験だったと思います。ときどき「あのときの感覚、今の自分にあるかな」って立ち止まって問いかけることも大事じゃないかな。

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