森山直太朗、朝ドラ主題歌「アルデバラン」の仮タイトルは「ミジンコ」だった AIや上白石萌音らへの提供楽曲制作秘話を聞く
森山直太朗の名前を出さずに朝ドラ主題歌に選ばれた「アルデバラン」
ーーAIさんに提供した「アルデバラン」は、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の主題歌として大きな話題を集めています。この曲、朝ドラのために書き下ろしたわけではないそうですね。
森山:そうなんですよ。ニュース記事などで「朝ドラのために」と書いてあるのを見ると、「やべえ」って思っちゃいますね(笑)。最初のきっかけは、AIさんのスタッフの方が、僕が山崎育三郎くんに提供した「君に伝えたいこと」を聴いてくれて、「AIにはこういう曲が合うんじゃないか」と思ってくれたこと。それが確か2020年の年末だったかな。
ーー直太朗さんは、AIさんの歌に対してどんな印象を持っていたんですか?
森山:マニアックなR&Bやヒップホップから、「Story」みたいな多くの人に共感を呼ぶ歌まで、何でも歌える人だなと。本場でも通用するセンスもそうだし、曲にちゃんと祈りがあるんですよね。それはたぶん、彼女がゴスペルを通して音楽を学んだことが大きく作用していると思うんだけど。そんな人に曲を作れるなんてすごいことだなって思ってたんだけど、その時点ではまだ口約束というか、僕がその気になってただけだったかも(笑)。「アルデバラン」の原型を作ったのが2021年の元旦だったんですけど、きっかけは、とある環境問題の映像を観たことだったんです。ミジンコのことを中心に、生態系が崩れていることを伝える映像だったんですけど、「ミジンコと仲良くなれんのかな」みたいな感覚から曲を作り始めて。なので仮タイトルも「ミジンコ」だったんですよ。
ーーえ、そうなんですか!?
森山:ええ(笑)。作っているうちにソウルフルなところも加わって、「これはAIちゃんだな」と。歌い手としてはノドから手が出るほど歌いたかったんだけど、AIちゃんの声が憑依して出来たところもあるし、ぜひAIちゃんに歌ってほしいなと。さらに歌詞を書いていると、ふと「アルデバラン」という言葉が出てきて。調べてみると、アラビア語で“後に続くもの”という意味だったんです。そこからいろいろ考えて……コロナになって、僕たちが担っている役割って、すごく大きいと思うんですよ。「この天変地異にどう対処するか?」ということなんだけど、そこには過去の災害や病気などを乗り越えてきた人たちの教訓も活かされてるし、僕らに後に続く人たちにも関わってくる。そういう大きな循環のなかにいるんですよね。
ーーそのイメージがAIさんの歌声と重なった?
森山:そうですね。AIちゃんの歌声には、先頭に立って「みんなで行こうよ!」というところもあるけど、「もし困ったことがあったり、くじけそうなときは、私が受け止めるよ」という強さも感じるんです。いちばん最後尾から「誰も置いていかないよ」というイメージで作っていたんですよね、「アルデバラン」は。曲をAIちゃんのディレクターさんに渡したら、「NHKの朝ドラの主題歌の候補に挙げていいですか?」と連絡があって。しかも、『カムカムエヴリバディ』のスタッフは、僕が主題歌(「カク云ウボクモ」)を担当させてもらったNHKのドラマ『心の傷を癒すということ』のスタッフとまるっきり同じだったんです。なので「この曲を僕が作ったと言ってもらったら、採用される可能性が高くなるかもしれません」とお伝えしたら、AIちゃんのディレクターさんが「そのつながり、すごいですね。でも、直太朗さんの名前は出さず、曲の良さで勝負したいです」と言ってくれて。その時点で「何この人、大好き」って思いました(笑)。
ーーすごい話ですね、それは。
森山:結果、『カムカムエヴリバディ』の主題歌に選んでもらったんですけど、当初はドラマの内容も知らなかったし、やっぱりAIちゃんの歌声に呼ばれた曲だと思います。でも、突き詰めて作った曲って、そういうことが起きるんですよ。思ってもみないような偶然を呼び込めるかどうかが、いい曲のバロメーターなんでしょうね。
ーー上白石萌音さんが歌唱した「懐かしい未来」(「第100回全国高校サッカー選手権大会」応援歌)はどうだったんですか?
森山:「“第100回全国高校サッカー選手権大会”の曲を作ってほしい」というお話をいただいたんです。僕はずっと高校サッカーが大好きなので、「よくぞ話を振ってくださいました」という感じでした。記念すべき100周年の楽曲はぜひ作らせてもらいたいし、今の高校生や若者に年代が近くて、しかも説得力がある歌手は誰だろう? と考えて、「上白石萌音さんしかいないな」と。もともと彼女の歌声に対しても、素晴らしいなと思っていたんです。ミュージカルの経験も豊富で、舞台度胸もあるし、音楽、ミュージシャンを専門にしている人とは違う新鮮さもあって。「懐かしい未来」は彼女が歌ってくれることになってから書きました。
ーー「懐かしい未来」の上白石さんの表現力、すごいですよね。
森山:AIちゃんもそうなんですけど、デモ音源に対する読解力が抜きんでてるんですよ。デモの段階では僕が歌ってるんですけど、そのイメージを越えてくる。どの曲もそうですけど、やっぱり歌い手の声、表現力に導かれることが多いですね、提供曲は。
■リリース情報
先行配信シングル「愛してるって言ってみな」
配信サイト:https://lnk.to/aishiterutte
20周年オリジナルアルバム『素晴らしい世界』
2022年3月16日(水) 発売
ご予約&購入:https://lnk.to/subarashii