um-humが『steteco』で目指したポップとアンダーグラウンドの黄金比 激動の1年でバンドに起こった変化

 ソウル、ジャズ、R&B、ヒップホップ、オルタナティブロックetc……多岐にわたるジャンルを独自のバランス感覚で横断する得体の知れないグルーヴで、じわじわと注目を集める大阪発の4ピースバンド um-hum(ウンウン)。元々は1回きりのライブのための企画バンドのつもりで、ろんれのん(Gt/Key)が高校時代のジャズ研究会の後輩だったNishiken!!(Dr/Sampler)、セッションで意気投合したたけひろ(Ba)に声をかけ、さらに大学からの帰り道が偶然一緒になった同級生でバンド経験ゼロの小田乃愛(Vo)を、ノリで誘ったことからスタートした2019年の結成より約3年。昨年は、キャリア初のミニアルバム『[2O2O](トゥエンティツーオー)』が、タワーレコード「タワレコメン」に選出されたのをはじめ、J-WAVEやFM NORTH WAVE等でもチャートインするなど各地で同時多発的に話題となる中、「エイムズ」「凡能」「meme(ミーム)」を3カ月連続配信。溢れんばかりの才能と異端のポップセンスを感じさせた彼らが、2022年1月26日に満を持して2ndミニアルバム『steteco』をデジタルリリースした。

 そこで、バンドのソングライター/プロデューサーであるリーダー ろんれのんと、作詞からジャケットのアートワークまでを手掛ける小田乃愛に、この1年でバンドに起こった変化と新作の制作秘話をインタビュー。思いがけないエピソードも飛び出した、愛すべき超新星の現在地がここに。(奥“ボウイ”昌史)

この1年で変化したバンドの内部構造

――2021年は、バンドのコアな部分を見せた初のミニアルバム『[2O2O]』のリリースをはじめ、「エイムズ」「凡能」「meme」の3カ月連続配信、拠点の関西圏を飛び出した膨大な遠征ライブなど、濃い1年でしたね。

ろんれのん(以下、ろん):やることがあり過ぎて逆に覚えていないぐらい一瞬でした(笑)。ただ、3カ月連続配信の3曲は、『[2O2O]』とは全く違う方向性で作ったので、その分の反応はありましたね。今まで見えていなかったところが見えたし、今まで見せていなかったところを見てもらえたので。元々バンドの音楽性が複雑でハマるシーンがないんですけど、だからこそ「ハマったときに気持ちいい」とよく言われます(笑)。

――最初は自分たちの音楽を「うんうん」と何となく聴いていた人も、「ふむふむ」と納得するようになる……そんなバンド名の由来を地で行く充実した日々だったと。

小田乃愛(以下、小田):あと、今まではろんの考えを元に突き進んでいたんですけど、メンバー全員がちゃんと意識を持って、みんなで意見を出し合った1年でしたね。

ろん:4人が同じ意見にならないのが良くて、それぞれが考えるようになる=それ相応に反対の意見も出てくる。それは別に悪いことじゃなくて、むしろそれでum-humをより磨けるなら価値があるので。

――確かにこれまでは、ソングライターでありプロデューサーであるろんれのんの世界観をメンバーがどう表現できるのか? みたいな側面が大きかったですもんね。

ろん:全員が役割を持ったから、今はフラットなんですよね。例えば、たけひろは曲を誰より客観的に見てくれるので、僕が1人で担ってきたそういう役割を頼んだり。みんなのバンド歴が長くなっていく中で、俯瞰で見られる能力も高まってきました。

小田:同時に、2021年はum-humに環境の変化がいろいろあったからこそ、「バンドをどうにかしなきゃ」みたいなリーダーシップや責任感が、ろんにより出てきたのかなと思って。

ろん:自覚がないことほど真実だと思っているので、納得はしていますね。ただ、バンドとしての正解って一つじゃないと思うんですよ。その時々でバラバラな正解をまとめてくれる、重みのある真意を(小田が)言ってくれることもすごく増えたなと。そもそもバンドを結成して1年とかだと正直、そこまで本気じゃない人も多いと思うんですよね(笑)。現にum-humも最初は遊びだった。(関西最大級の音楽コンテスト)『eo Music Try 19/20』で優勝して初めて、「ちゃんとやってみようかな?」と思ったぐらいなので。でも、コロナ禍もあって心がグラついて、その中で『[2O2O]』を作った。そこである程度の評価はされて、まだ全然つかめてはいない感じでしたけど、ステップアップ自体は感じられましたね。

苦悩の先にあった喜びとポップネス

――前作『[2O2O]』では、“アンダーグラウンド”をテーマに核となるパイロットソングとして「Ungra」を仕上げて、そうすれば自ずと作品全体のイメージも湧いてくる……みたいな作り方でしたけど、2ndミニアルバムとなる『steteco』は、コンセプトや軸となる1曲はあったんですか?

ろん:今回は全くなかったですね。あまりにも激動の日々過ぎて、そういう流れを組む暇が全然なくて……。『[2O2O]』の制作時はコロナ禍で自宅にいる時間も長かったですけど、この1年は遠征ライブの量がハンパじゃなかったし、あとはもうシンプルに大学の授業でいっぱいいっぱいで(笑)。授業の合間にとりあえずできた曲からメンバーに投げて、個々のパートでアイデアをためて、最終的にそれを出し合っていく、みたいな感じでした。

――テーマを掲げてそこに合った曲を集めていくというよりは、曲が集まってきた中でテーマが見えてきた。

ろん:まさにそうです。そういう偶然だけど必然なところが面白いなと思って。全曲集まって、そこに題名があればまとめられるので。そこから流れるように“表の”コンセプトがまずできました。

小田:それが“バカンス”なんですけど。まず、ろんから「そろそろタイトルを決めないと」と電話がかかってきて、私がそのときにステテコをはいていたんですよ。電話をしながら洗濯物の中にもステテコがあったのが見えて、「じゃあ『steteco』でいいんじゃない?」って適当に言ったら、ろんが「OK、とりあえずそれで」って(笑)。ただ、この話には続きがあって、その次のリハでNishiken!!が、「ばあちゃんがメンバーに作ってくれたんだけど……」って、何の前触れもなくステテコを持ってきたから、2人して目が飛び出して(笑)。「これはもう『steteco』にするしかない!」と。ろんも「ステテコってよく考えたら快適だし、今のum-humみたいでいいやん」って(笑)。

――響きも日本っぽいし、語源が謎なところもum-humに合っていますね(笑)。

ろん:前作は1年かけて作り上げたんですけど今回はまるで違って、できた曲から入れていったので、そのオン/オフな感じというか、前回とは違うラフさで作ったのが何だか解放されているみたいで。そういう意味でも、『steteco』はバカンスっぽいなって。

――その緩さというか、リラクシンで締め付けがない感じ。ただ、元来はきっちり構築して作り上げたい人だと、なかなかその手法を変えたくないようにも思えますけど。

ろん:僕はまだ自分の枠を決め切ってはいないので。もっと広い枠でバンドを見て、その余白を使ってみたかったんですよね。

――結果、前作より俄然ポップさが前に出た。3カ月連続配信の時点で、明らかにモードが違いましたね。

ろん:特に「凡能」は、前作のリリース前から「こういうポップな感じの曲を作りたい」と考えていて。ライブで毎回サビを変えたりして磨きがかかって、この形に行き着きました。

um-hum - 凡能 [Official Video]

――「凡能」はum-hum史上最高にキャッチーなサビですね。

小田:このサビを作るために、ひたすらピアノを触っていたもんね。

ろん:いや~大変だった! この曲を世間との潤滑油にしたかったし、かと言って、普通のJ-POPにしても意味がないので、um-humの原液とポップさの比率で一番悩んだ曲ですね。

――歌始まりで離脱を回避するサブスク対応、焦らしに焦らしてたどり着いたキャッチーなサビの後には急転直下のアバンギャルドなソロ……ポップでありながらum-humのアクもちゃんと出た曲になって。

ろん:ただ、この曲で一番難しかったのは、たけひろの説得かも。

――彼はずっとボーカルレスの音楽畑メインでやってきたプレイヤーですもんね。

ろん:特に「凡能」は歌モノ全開の曲なので、このベースアレンジはすごく考えましたね。あんなに2人で話し合ったのは初めてかもしれないです。まぁ何だかんだ発芽するのは4人一気には無理じゃないですか。最初に発芽した1~2人がメンバーを巻き込まないといけない。(昨年3月の)『[2O2O]』のリリースイベントの頃のライブは過渡期で、そこから春ぐらいまではまだ何もつかめていなくて。そもそも『[2O2O]』自体がライブを想定して作っていなかったから、演奏するのがとにかく大変だったんですよ(苦笑)。そこから、いろんなアドバイスを取り入れて、だんだんライブも良くなって……『steteco』を作り出して、東京へのライブ遠征が増えてからは、浮き沈みはあれど基本的には上り調子だったかな。

小田:遠征って東京に向かう車の中からもう緊張しているので(笑)。その経験も大きかったと思います。普段の大阪のライブとは良くも悪くも違ったし、遠征することでモチベーションが上がるところもありました。

ろん:去年の3~5月はキツかったなぁ……。でも、そこからライブが変わり始めて、『[2O2O]』がタワーレコードの(2021年6月度)「タワレコメン」に選ばれたときは、本当にうれしかったです。

小田:沈んだ後にはいいことが起きるから!

ろん:そうそう! 沈んでも絶対に浮上する、それがum-hum。

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