乃木坂46 北野日奈子、選抜制度の中での葛藤も 「アンダー」と「日常」で見せた偉大な姿
北野の紡ぐ言葉が重く響くのはまた、彼女たちがしばしば背負ってきた作品の性格にもよっている。
みずからの立場を直接的ないし比喩的に詞に織り込んだような、自己言及的なテーマが時折充てられるアンダー楽曲において、北野は中心的なポジションに立つことも多かった。北野が中元日芽香とともにセンターを務めた18枚目シングルのアンダー曲「アンダー」をはじめとして、選抜/アンダーの構造を自明のものとしつつ、“アンダー”である自らを物語化するような趣をもつそれらの作品は、メンバーのパフォーマンスに磨きがかかればかかるほどに、複雑な感慨をもたらすものでもあった。
けれども近年、そうした複雑さを忘れさせるような表現を見せてきたのも、他ならぬ北野だった。その旗印となったのが、22枚目シングル収録曲「日常」である。2018年11月リリースのこのアンダー楽曲でセンターポジションに立った北野は、ライブパフォーマンスのたびにストレートな凄みを見せつける。この数年来、乃木坂46のライブ総体を通じて随一の迫力をたたえてきた作品として「日常」は記憶される。
その「日常」を携えて自身が座長を務めた『アンダーライブ全国ツアー2018 ~関東シリーズ~』のMCで北野は、かつて自身が背負った「アンダー」という曲への葛藤を口にし、「今も、何が正解かはわからない」と語りつつ、前向きな解釈を見出そうとしていた。しかし、同ライブのクライマックスで彼女が見せた「日常」のパフォーマンスはすでに、「アンダー」という楽曲の詞が描くような想像力をはるかに追い越していた。
乃木坂46はキャリアを重ねるにつれ、楽曲が当初持っていた視野やイマジネーションを飛び越え、あるいは塗り替えて再解釈するような表現を見せることが多くなっている。北野もまた、そんなポテンシャルを存分にもったプレイヤーである。「日常」が発表されてからの3年余り、同曲が常に絶対の信頼感を持っていたのは、支柱としての彼女がいてこそだった。
先にふれた、昨年3月の『乃木坂46 9th YEAR BIRTHDAY LIVE ~2期生ライブ~』に出演した2期メンバー8名のうち、グループを離れるのは北野で6人目。この一年ほどは、長らく乃木坂46を支えてきた2期生メンバーたちが、期せずしてそれぞれに次の道を歩み出す、ひとつの転機だったといえるだろう。ライブ巧者であり、グループの厚みを様々な局面で担保してきた2期生たちの軌跡を、あらためて刻みつけるタイミングを迎えている。