アラン・ウォーカーが迎えた成熟の季節 新アルバムで実感するクリエイティビティの進化

 もちろん、アラン自身のオリジナル曲にも、以前からの進化、そして変化が強く表れている。今作を代表する楽曲「Alone, Pt. II」はその名が示す通り、2016年にリリースされた大ヒット曲「Alone」の続編としてリリースされた楽曲だ。今や新たなポップアイコンとして大きな注目を集めるエイバ・マックスの美しく力強い歌声を存分に引き出した本楽曲は、孤独の中で見つけた相手への愛情を痛切に表現した前作から時が経ち、当時を回想しながらダンスホールのビートに乗せて「これからも私は一人にならない」と喜びの感情を表現する。若くして絶大な成功を収めた時期を経て、成熟へと向かっていくアランの姿を感じることができる一曲だ。

Alan Walker & Ava Max - Alone, Pt. II

 だが、それは決して彼が持つエモーショナルな側面や、攻撃性が損なわれているというわけではない。ある悲痛な別れの場面を瞬間的に切り取ったかのような「Sorry」では、絶望的な感情を彼らしいヘヴィなエレクトロサウンドへと変換し、強靭なビートを打ち鳴らしながらどこまでも深い闇へと沈んでいく。加工されたボーカルやシンセサイザーの音色によるレイヤーも丁寧に構築されており、そのプロダクションはソリッドで、一切の無駄がない。また、美しいメロディセンスもより磨き上げられており、スウェーデン出身のシンガー、ベンジャミン・イングロッソ(なんとプログレッシブハウス界の大物、セバスチャン・イングロッソの従兄弟である)を起用した「Man On The Moon」は、ギターの奏でる美しい音色と透明感に溢れる歌声が絶妙に重なり合いながら、身体の隅々まで染み込んでいくポップソングであり、このままメインストリームのチャートへと送り込んでも全く違和感がない楽曲だ。初期の楽曲に見られた、あらゆる感情とクリエイティビティが同居しながら爆発していく作風(それはそれで極めて魅力的だったのだが)から成長を続け、ヘヴィな楽曲は徹底的にヘヴィに、美しいメロディを聴かせる楽曲はどこまでもメロディを聴かせるというアプローチへと変化を遂げたことが、今作の楽曲群からは強く感じることができる。まさに、『ワールド・オブ・ウォーカー』は、アランのプロデューサーとしての進化を象徴する作品と言えるだろう。

Alan Walker x Benjamin Ingrosso - Man On The Moon (Official Music Video)

 本作は作品としてじっくりと楽しめる一枚になっているが、同時にやはり“現場”で聴きたいという想いが強く湧き上がってくる。『SUPERSONIC』は確かに彼のキャリアにおけるハイライトの一つだったが、今作を聴くとまだその先があるのではないかと思えてくるのだ。一つの区切りを経て、彼の進化はさらに加速し、また新たな変貌を遂げていくことだろう。

『ワールド・オブ・ウォーカー』

■リリース情報
アラン・ウォーカー  
ニューアルバム『ワールド・オブ・ウォーカー』  
<日本盤CD>  
発売中(2022年1月12日)

完全生産限定盤:CD+スペシャル・マスクケース ¥3,190(税込)
通常盤:CD ¥2,420(税込)
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■配信情報
『ワールド・オブ・ウォーカー』  
配信中(2021年11月26日)
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アラン・ウォーカー日本公式サイト

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