けんいち(北川賢一)、“元ロードオブメジャー”に対する葛藤からの解放 ミリオンセラー「大切なもの」から20年の現在

妻と駅まで歩いて、好きな喫茶店でコーヒーを飲む毎日

ーーロードオブメジャー時代とのギャップに悩んだわけですね。

けんいち:コルクに所属する前、4枚のアルバムを出したけど全然売れなくて。それで一度は音楽を辞めましたから。37、38歳頃の1年半くらいは特に何かをするわけでもなく、妻と駅まで歩いて、好きな喫茶店でコーヒーを飲む毎日。音楽は完全にあきらめて、「一生こんな感じでのんびりやっていきたいな」って。「俺にしたら頑張った方じゃないか、音楽はもう十分だな」と火が消えたんですけど、そんなとき、コルクから声をかけてもらったんです。自分のなかにもどうやらくすぶっていたものがあったみたいで、薪をくべたら、また火がついた。そして歌い始めたけど、ブランクがあったから大変でした。

ーーどういうところが大変でしたか。

けんいち:曲作りの筋力、歌うことの筋力、どちらも衰えていたんです。何が良いメロディで、何が良い歌詞なのか、それも分からない状態。それから毎月25日に新曲を発表することになって、ようやく筋力がまた付いてきて、レコーディングでも声がコントロールできるようになった。

ーー2021年5月をもって一旦、毎月25日の新曲発表をストップされましたが、休止したのはどんな意図があったのでしょうか。

けんいち:すごくポジティブな理由なんです。コンスタントに曲が作れるようになってきたので、次は「この曲をどうやって世に広げていくか」をじっくり考えるようになってきて。良い曲ができても今のままだと流れていくだけになる。どのような形で世の中に届けられるか、それを考えようということでストップしたんでんす。

ーー改めて組み立て直した1年だったんですね。

けんいち:担当者から「賢一さん、僕は25日のリリース日がいつも悔しいんです。良い曲を書いても何事もなく、大きな宣伝もできず、ミュージックビデオを毎回作るわけでもない。そうやってリリース日が過ぎ去るのが悲しい」と言われました。コルクの代表・佐渡島庸平は「5年くらいは売れなくて大丈夫だから」と言ってくれて、学びを重視させてくれているし、僕もプレッシャーなくやれているんだけど、だからこそ自分で「どうやったら売れるか」と考えなきゃいけない。

あくまで僕個人の物語を書くようにしている

けんいち - だれもわるくない (Official Video)

ーー曲内容に軸みたいなものはあるのでしょうか。

けんいち:「どうやったら売れるか」を考えているけど、でも「売れる曲を書かなきゃいけない」という作り方は自分の本心と離れるところがある。何がウケるかではなく、あくまで僕個人の物語を書くようにしています。あと、毎月書いていたので、どうしてもニッチなところに目を向けることになるんですよね。

ーー「だれもわるくない」の歌詞には、35年ローンで家を買った話などが記されています。ほかの曲も身の上のエピソードがたくさんあります。

けんいち:普通は歌詞にはしませんよね。でもそういうことを歌詞にすれば、いくらでも曲を作っていける。佐渡島がよく「解像度を上げましょう」と言ってくれるんですけど、まさにそれをやって歌詞が生まれていっている。オリジナリティも増しています。

ーー「曲を広げるために何をすれば良いのか」を考えた2021年が終わり、今年はどんな1年になりそうですか。

けんいち:僕のソロ活動の集大成的なものを届けたいと思っています。「アルバムを出そう」という計画が進んでいます。これまでの活動期間を振り返り、現在の北川賢一らしさを詰め込んだ作品を出したいです。

ーーということはメディアにいろいろ出ていかなきゃいけませんね。でもけんいちさんは、テレビ番組などが実はそれほど得意な方ではないとか。

けんいち:実は苦手意識があって…(苦笑)。緊張しちゃうので、歌うときも「うまくできるかな」って。昔、音楽番組に出た時に、あまりにも緊張しすぎて歌が相当ヤバかったんだと思うんですけど、オンエアを見たらCD音源に差し替えられて流れていたこともあって。それにバンドだったらメンバーもいるけど、今はソロだしごまかしがきかない。小さい頃からあがり症で、何かの発表のときは顔が真っ赤になっていた。あまり目立ちたくもないし。それなのにずっとステージに上がっているのが、自分でも疑問なんです。

ーーステージの上に立つのは、本来は向いていないということですね。

けんいち:うん、向いていないんじゃないですか。だって、ステージに立ったらものすごく輝く人をこれまで何人も見てきているから。スポットライトを浴びた途端にガラッと変わる人はテレビにも向いている。僕は今でも悩みながらステージに立っていますから。だけどその苦悩も歌に替えられるので、「それでも良いのかな」と受け入れています。

ーー2020年には『CDTVライブ!ライブ』(8月/TBS系)、『じっくり聞いタロウ~スター近況(秘)報告~』(9月/テレビ東京系)にも出演されていましたね。

けんいち:『CDTVライブ!ライブ』は、あのとき親父の余命が短くて、「俺が歌う姿を観るのがこれが最後やろうな」という状況だったんです。だから出ることにしました。ちゃんと観てもらえたし、それだけで十分だったなって。『じっくり聞いタロウ~スター近況(秘)報告~』は自分の音楽面をテーマに触れてもらえそうだったので、出演を快諾しました。どちらもとても楽しい番組でした。

ーー2022年は、プロモーションも含めてテレビ出演への苦手意識を克服したいですよね。

けんいち:そうなんです。だから、お話があればどんどんチャレンジしたい。もし僕をテレビで見かけたら、そう考えて出ているんだなという風に鑑賞してください。

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