『DOOM』特別対談

田中ヤコブ(家主)×和嶋慎治(人間椅子)対談 ギター奏法から曲作りのアティテュードまで、3つのキーワードから語り合う

 ギタリストの田中ヤコブ率いる4人組バンド・家主が、2ndアルバム『DOOM』を12月8日にリリースした。再生ボタンを押した瞬間、どっしりしたエレキギターのアンサンブルが鳴り響く本作。爆音に乗せて内省を描き出すような曲から、小粋なアレンジで鮮やかな情景を思い浮かばせる曲まで、家主というバンドの幅広さと奥深さをじっくり味わえるアルバムだ。田中ヤコブは、エレキギターの刺激に飢えている現代のリスナーに痛快な刺激を与えるミュージシャンの筆頭だと言えよう。今回はそんな田中がかねてより多大な影響を受けたと公言している、和嶋慎治(人間椅子)との対談が実現。「ギター」「ヘヴィネス」「歌詞」という3つのテーマを設けて、お互いの気になる楽曲をセレクトし合った事前アンケートの回答をもとに、2人に熱く語り合ってもらった。世代は違えど同じ価値観を共有するギターの名手同士の対話、必読である。(編集部)

「レトロなバイク好き」という共通点

ーーまずはお互いの印象から伺えたらと思います。

田中ヤコブ(以下、田中):自分にとって和嶋さんは先生みたいな存在なんですよね。出会いは高校生の頃だったんですけど、テレビでイカ天(『三宅裕司のいかすバンド天国』)特集をやってたときに人間椅子を偶然観まして。なんだこれはっていう衝撃が強すぎていろいろ調べて、そこからCDを買って聴き始めたんですけど。

和嶋慎治(以下、和嶋):ありがたいですね。その頃、僕らセールスとか動員がよくない時期だったから(笑)。

田中:当時、周りに同じような音楽を聴いている人があまりいなかったんですけど、そのなかでも人間椅子はすごく特徴的で、異様さに興味を持ったと言いますか。「自分だけがこのバンドの良さを知ってるんだ」と思いました。あと、自分はあまりよろしくない家庭環境で育っていて、音楽に逃げざるを得ない状況がありまして。人間椅子の曲をコピーしていると、練習する過程で楽器が上手くなっていく実感を持つことができて、そこから楽器が本当に好きになりました。

ーーでは、和嶋さんから見たヤコブさんの印象はいかがでしょうか。

和嶋:ライブをよく観に来てくれていたんだよね?

田中:はい。お茶の水ハードロック/ヘヴィメタル館(ディスクユニオン)でベスト盤を買って一緒に写真を撮ってもらったりとか。

和嶋:そうだよね。印象的だったのは……ホームセンターに買い物でも行こうと思って、家の近所をバイクで走っていたら、向こう側からアメリカンの古いバイクが走ってきたことがあって。バイク好きなので、すれ違う瞬間に車種なんだろうって確認しちゃうんですけど、バックミラーで見たらその人がUターンして自分を追いかけてきたので、「あれ?」と(笑)。「和嶋さんですよね?」って言われたときに、音楽やってる人だなっていうのはすぐにわかって、それがヤコブくんだったわけだけど。The Beatlesが好きだとか、結構深く語り合ったんだよね。

ビーナスラインからメルヘン街道へ 絶景ルートで帰宅

田中:そのとき、私が一方的にガーッと話してしまって(笑)。後で思ったんですけど、Uターンして追いかけて行ったとき、和嶋さんとしては煽られたと思ったんじゃないかなって。

和嶋:一瞬そう思ったけど、バイクがレトロだったから違うなって気づきましたよ。僕は音楽もバイクも古いスタイルの方が好きなんだけど、彼のバイクもそうだなって思いました。しかもかなりヤレてて、乗り込んでるんだなって。

田中:そうですね。自分もヤレてる方が好きなので。最初の250ccだったんですけど、地球一周以上は乗りました。

和嶋:すごい乗ってるね。

1. ギター 〜オリジナルであるためのルーツ昇華〜

田中ヤコブselect:人間椅子「天国に結ぶ恋」

人間椅子「天国に結ぶ恋」

ーー世代は違えど通ずるところの多いお二人なんですね。今回は事前アンケートで3つのキーワードに沿って、お互いの気になる楽曲をセレクトし合っていただきましたが、1つ目は「ギター」というキーワードで、ヤコブさんに人間椅子「天国に結ぶ恋」を挙げてもらいました。

田中:はい。正直ギターが好きな曲といったら全部なんですけど、「天国に結ぶ恋」は高校時代にずっと練習していたので。ギターソロも普通のブルースではない、逸脱するところが随所にあって。コピーしてなんとか弾けるようになったときに、「これは他の曲でも応用が利くな」って感じました。あとギターソロに行く前、イントロの展開に戻るところがあるじゃないですか。

和嶋:イントロの変奏みたいなやつね。

田中:はい。そこのフレーズでロバート・フリップを感じたりとか、いろんな影響があるなと思いました。何より和嶋さんのプレイはすごく美しくて。研究者が突き詰めたような美しさをギターソロから感じますね。決してスピード競技になっていなくて、タッピング奏法も時々使用していますけど、効果的に曲に表れている。曲全体を考えて、そのソロになってるんだろうなと感じます。

田中ヤコブ

和嶋:それは心がけてますね。「天国に結ぶ恋」は1stアルバム(『人間失格』/1990年)に入ってる曲なんですけど、Black Sabbathみたいなスタイルでやることは、もうデビュー前から決めていたとはいえ、初期の頃はそこまで明確ではなくて、自分たちなりにルーツをたどりながら作ることの方が多かったんです。だから「天国に結ぶ恋」も、どっちかというとロバート・フリップなわけだけど。例えばロバート・フリップってホールトーン・スケールをよく使う一方で、いわゆる『太陽と戦慄』スケールみたいな音を使いますよね。クリムゾン(King Crimson)っぽいグループは日本にも海外にもあるけど、『太陽と戦慄』スケールってみんなあまりやらない。それを解析するのは結構難しいんですけど、僕は「こういう法則なんだな」っていうのがなんとなくわかったんです。恋で精神が異常になっていく、平衡感覚を失った感じをそのスケールで表したら面白いんじゃないかと思って使ったんですけど、上手いこと行ったなと思いました。

和嶋慎治select:家主「NFP」

家主"NFP"(Official Music Video)

ーー和嶋さんは「ギター」というキーワードで、家主「NFP」を選んでいますが、どんな理由で選曲したのでしょうか。

和嶋:まず、ギターの音がなかなかデカいよね(笑)。どの曲もギターが音の壁を作っていて、しかもグランジみたいにすごく生々しくていいなと思いました。あとは全体的にいろんなテクニックがあって、スタイルの間口が広いなと。その中で「NFP」は、サブドミナントコードがメジャーからマイナーに行くっていう、割とThe Beatlesやポップスでもやるような気持ちいい展開があるじゃないですか。それを歪んだギターのカッティングでうまく表しているのがいいなと思って選びました。この曲は転調もしているし、ハードロックよりも、サニーデイ・サービスとかスピッツあたりの影響なのかもしれないなとか。

田中:そう言ってもらえてすごく嬉しいです。まさに意識していたのは、コードや転調のところだったので。自分が音楽を聴くときも作るときも、ジャンルや国はそこまで意識していなくて、その時々で出てきたものを大切にするんです。ボイスメモにメロディやギターを吹き込んでいくんですけど、それをどんどん溜めていって、あとでパズルみたいに組み合わせることが多いので、結局いろんなものが混ざり合ってよくわからないものになる。でも、そうしてできたものをスポンとそのまま出した方が面白いのかなとも思っています。

和嶋慎治

和嶋:ヤコブくんの個性だからそれはいいと思うんですよ。ギターもソロに対してあまり熱くないのがいいなと思いました。間奏にギターソロも入ってはいるけど、どちらかというとペンタトニックスケール基本の古いロックが好きなんだなっていうのがわかる。自分ら世代の話でいうと、僕自身は時代遅れだなと思っているんです。ちょうど自分が青春の頃にVan Halenや、後にイングヴェイ(・マルムスティーン)がデビューして、それからスティーヴ・ヴァイやポール・ギルバートみたいな、通常のフィンガリングとピッキングだけじゃないテクニカル路線に行ったので、ブルースロックをやってる人なんていなかったというか。ペンタトニックスケールを弾くとすごく芋くさくなるような時代を経験しましたよ。だからデビューの頃は、自分はギター下手だなと思って相当悩んだんですよね。でも、周りと同じことをやっても勝てないので、何か自分なりの幅をつける意味でロバート・フリップとかに向かって行ったんだけど、ヤコブくんみたいな若い人がこういうフレーズを弾くんだなと思うと、時代が2周ぐらい回った感じはしますよね。フレーズだけ聴くと古さもあるけど、やっぱり聴きやすくて口ずさめるじゃないですか。そういう世代を超えたシンパシーを感じました。

田中:嬉しいです。中学時代に1人だけいた音楽好きな友達が、自分よりめちゃくちゃギター上手くて。彼はイングヴェイとかポール・ギルバートの道に進んで行ったんですけど、「上手いな。どうしてそんなに速く弾けるの?」って聞いたら、「お前はこっちの道に来ない方がいい」と言われまして。

和嶋:どうして?

田中:イングヴェイのコピーにしかならないからって。「曲を作ったりしてるんだから、こっちの道に来ると全部イングヴェイになっちゃうぞ」みたいな、半ばダークサイドに堕ちたジェダイのような言い草で。ただ確かにその方向性だと、バンドとして雑味のある音楽が好きな自分からすると、ギターやテクニックに比重が大きくなりすぎるので、一歩間違えると教則ビデオのような音楽にもなりかねない。速く弾けることには憧れつつも、自分には合っていなかったかなと思いますね。そもそもイングウェイはチャレンジするたび、速すぎて歯が立たなかったというところが一番大きいですが(笑)。

和嶋:そうなんですよね。どうしてもギターソロを引き立てる曲になっちゃうので、転調したり、ポップスで使うようなコード進行が使いづらくなると思う。もちろんそれは1つのスタイルだから貫くのはなんの間違いでもないんだけど、自分はただのハードロックだとどうしても単調で限界を感じてしまうんです。そういうサウンドや弾き方を取り入れつつ、もうちょっと音楽的に面白いことをしたらいいんじゃないかと思っていたので。

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