ピアニスト 反田恭平の“強さ”とは? 音楽家のあり方に広がりもたせる人間力

 2021年10月、新型コロナウイルスのパンデミックが収束し切らない中、1年延期の末に、5年に一度開かれる『ショパン国際ピアノコンクール』がポーランドの首都ワルシャワで行われた。予備予選を通過した87名(予備予選免除者含む)のコンテスタントたちが繰り広げた熱いステージは、連日連夜オンラインで生配信され、世界中の音楽ファンを沸かせたのだった。

”ショパコン2位”ーー日本人最高位であり50年ぶりの快挙

 日本でも寝不足になりながら(朝方4時くらいまでのセッションが連日続いた)コンクールの行方を追ったオンライン聴衆は少なくない。それというのも、日本からは中国・ポーランドについで3番目に多い14名のコンテスタントが参加し、非常にレベルの高い演奏を繰り出していたからだ。また、コンクールというと、かつては、無名の若いピアニストたちが世に出るための登竜門としての意味合いが大きかったのだが、昨今では、すでにプロとして活躍し人気を集めているピアニストも参加するようになっている。彼らのファンが固唾を飲んで“推し”を応援し続けるという、オンライン生配信時代を迎えた今だからこそ起こったムーブメントも、今回のコンクールの盛り上がりを後押しした。そうした今回の“ショパコン”で、ひときわ大きな存在感を示したピアニストが、反田恭平である。

 周知のとおり、反田は第2位という輝かしい成績を収めた。これは日本人最高位であり、1970年大会の内田光子氏以来の50年ぶりの快挙である。勝ち進んでいけば3週間にも渡る長丁場のコンクールだ。世界最高峰の音楽家たちが集う中、いっときの気の緩みも許されない。第1次から第3次までのラウンドでショパン作品のプログラムを準備する。決勝ファイナルではオーケストラとの共演が待ち受けている。それらいずれのステージにおいても、反田は思い入れの伝わるプログラムを組み、パワフルかつ繊細さのあるドラマティックな演奏で、審査員と聴衆とを魅了し続けたのだった。彼の人を強く惹きつける魅力、輝かしくも柔らかさのあるオーラ、音楽への溢れ出る愛情、その全てがあますところなく発揮され、今回の結果につながった。

KYOHEI SORITA – final round (18th Chopin Competition, Warsaw)

反田恭平のユニークさに満ちた活動

 あらためて、この反田恭平というピアニストの強さは、一体どこからくるのだろうかと思う。彼のこれまでの活動はユニークさに満ちている。決して奇をてらって人々を驚かせようとしたわけではない。若手ピアニストとしては前人未到の取り組みを見せながらも、反田のこれまでのアクションには必ず説得力のある理由があった。ここではそのほんの一端を振り返ってみたい。

反田恭平『リスト』

 若き日のリストのようなサラサラヘアで、颯爽と登場したデビューリサイタル。まだ少年らしさすら漂わせながら、サントリーホールを満席にしたのがまだほんの5年前(2016年)だったことに改めて驚く。前年にメジャーレーベルからリリースしたデビューアルバム『リスト』で、すでに多くの人々の心を捉えていた反田。もはやピアニストたちに弾かれ過ぎて手垢のついたような名曲「ラ・カンパネラ」ですら、彼の手にかかると怒涛のロマンティシズムにより新しい作品像を提示した。その演奏には筆者も度肝を抜かれたのは記憶に残るところだ。

 一方で、オーケストラとの共演でも素晴らしい成果を上げていった。鬼才・バッティストーニ指揮、東京フィルと共演したラフマニノフ「ピアノ協奏曲2番」は大きな話題を呼んだ。筆者もライブで聴いたが、まるで今その場で音楽が作られているかのような瑞々しさと迫力に圧倒されたし、そのライブ音源が高く評価されたことも肯けた。

 「反田恭平はここまで弾けるのか!」——そう筆者の心に強く残ったステージの一つは、NHK交響楽団による『Music Tomorrow 2017』だ。気鋭の英国現代作曲家マーク=アンソニー・タネジの「ピアノ協奏曲」をアジアで初演したステージである。驚愕のテクニックと音楽性で、エッジの効いたタネジの作品を、あまりに鮮やかに弾いた。音楽ファンが喜ぶ名曲ばかりでなく、現代的な作品にもここまで切り込んでいけるといった勢いのある姿を見せてもらい、とても嬉しく感じたのだった。

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