ピアニスト 反田恭平の“強さ”とは? 音楽家のあり方に広がりもたせる人間力

レーベル設立、オンデマンドコンサート開催などに見る反田の発信力

 そうした華々しい活躍を展開していた反田が、「株式会社NEXUS」を設立し、新レーベル<NOVA Record>を立ち上げるという話を聞いたときには驚いた。2019年7月のことである。アーティスト自身が、それも若手の順風満帆に快進撃を続けるピアニストが、これまでのクラシック音楽業界の流れの中ではなされていない新たな展開を、旗振り役となって促進していこうというのだ。同世代の優れたクラシックミュージシャンたちの活躍の場を積極的に設け、彼らの音楽が多くの音楽ファンのもとに届くようにし、そして未来ある子どもたちの音楽愛を育んでいきたいという反田の願いが、周囲の人々の心をも動かした。株式会社イープラスと共同事業として手を結び、アーティスト自身の自由な発想を生かしながら、現代社会に即したビジネスモデルのなかで、スピーディーな展開を発信していこうという勢いを感じた。

反田恭平『メンデルスゾーン:無言歌集 Vol.1& 厳格な変奏曲 Op.54』

 <NOVA Record>はさっそく10名の音楽仲間たちのCDをワンコインで提供するという新しい取り組みをスタートし、満を持して反田自身の『メンデルスゾーン:無言歌集 Vol.1& 厳格な変奏曲 Op.54』もリリースした。またほぼ同時期に、優れた若手奏者からなる「ジャパン・ナショナル・オーケストラ」(旧:MLMナショナル管弦楽団)をプロデュースし、音楽家の活動を持続可能なものとすべく、「Japan National Orchestra株式会社」設立へとつなげた。

 コロナ禍において、コンサート自粛の嵐がアーティストたちに大きなダメージを与えていた2020年には、4月1日という段階でいち早く有料の生配信コンサート『オンデマンド・コンサート Hand in hand』シリーズをスタート。賛否の声(※1)が寄せられる中、果敢に挑戦した理由とは、音楽家たちが聴衆のために演奏する機会を創出することで、音楽家生命(演奏力・経済力を含め)を伸ばしていくことにあった。

【DAY2】第3回オンデマンド・コンサート "Hand in hand"について JOURNEY of ARTIST ~ピアニストのVlog~

 まさに八面六臂の活躍とはこのこと。この間に反田自身もショパン国立音楽大学で研鑽を積むのはもちろん、2020年10月には佐渡裕指揮、トーンキュンストラー管弦楽団との共演で、ウィーン楽友協会デビューを果たして成功を収めるなど、アーティスト活動も充実を極めている。

 そこからの、ショパンコンクール第2位である。もはや尋常な強さ・人間力ではない。音楽愛にあふれ、何よりも音楽仲間たちを大切にする彼の人間性は、あまりに優しく、勇気に満ちている。とはいえ彼の強さとは、これまで重ねたインタビューの印象からしても、マッチョでワンマンな「強さ」とは縁遠いものだ。時に繊細で、ナイーブで、本当は一歩踏み出すのに人一倍の勇気を振り絞らなければいけないほど、心を豊かに震わせている。素直で思いやりに溢れた彼と、その柔軟なアイデアを支えようと、周囲の人間がバックアップを買って出る。そうして新しい音楽シーンが生み出され、動き出している。

 反田恭平の出現により、ピアニストはピアノだけに集中し、研鑽を積んでいればいい、という時代はある意味で終わった。もちろんそれは、集中特化型の素晴らしいアーティストたちの存在を否定するものではなく(そのようなスタイルで神がかったパフォーマンスを発揮する芸術家の存在もやはり尊い)、音楽家のあり方に大きな広がりをもたらしてくれたという意味で、反田のような次世代型モデルが成功しつつあるという意味である。

 とはいえ反田恭平も、まだ27歳の青年。“ショパンコンクール2位”というタイトルは、国際的にはスタートラインの切符を手にしたところなのだ。グローバルな活動の中で、今後彼はどのような新機軸を見せてくれるのだろう。楽しみで仕方がない。

(※1)https://spice.eplus.jp/articles/270307

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