大橋ちっぽけ、「常緑」スマッシュヒットへの喜びと本音 「自分の一面だけが広がっていくような感覚がある」

大橋ちっぽけ「常緑」ヒットへの本音

半泣きになりながらバーっと作った「誰も知らない」

ーーでは、『you』の収録曲もメロディ先行で作っていきましたか?

大橋:大体はそうですね。まずサビのフレーズを思いついて、そこからDAWで組み立てていき、アレンジャーの方と一緒に音を形にしていきます。曲のテーマは自分の中にあるものを表現することが多いので、物語を創作するというよりも、シンガーソングライター的な書き方だと思います。特に『you』は自分の話が中心の曲ばかりですね。

 このアルバムは人に対する愛おしさみたいなものがテーマになっていて。例えば「常緑」のような恋愛の曲もあれば、家族に対する愛情や自分自身への愛情を歌った曲など、いろんな愛の要素が詰まっている。僕はもともと引きこもりがちなんですけど、新型コロナウイルスの影響もあって一人の時間が余計に長くなってしまって(笑)。そのおかげというのもなんですが、自分自身の胸の奥底にある感情にも初めて出会えて、散々自己と向き合ったからこそ歌詞としてアウトプットしたいという気持ちも強くなった結果が『you』なんだと思います。もともとタイトルも「me」「&my familiy」とかも考えていたくらいで、自分やあなた、家族、恋人など、何かしら対象を意識して作っていきました。

ーーコロナの自粛期間が大橋さんの意識を変えた部分も大きいと。

大橋:僕はもともと「一人でも平気だよね」みたいな考え方で、人を愛おしいと思う気持ちも今よりは少なかったように思います。でも、物理的に引き剥がされると心の距離は変わってくるというか、人に会いたくなったり、人への愛おしさみたいな気持ちが掻き立てられたんです。だからこそ、「常緑」みたいな100%のラブソングだったり、普段は言えない家族への想い、誰にも明かせなかった自分のことをリリックにできたのかなと。

ーー家族というと、「誰も知らない」はとてもいい曲ですね。〈この痛みは父さんも母さんも弟もいとこもばあちゃんもじいちゃんも知らない〉というフレーズから始まるのは新しいなと。

大橋:今は元気なので心配はないのですが、今年の2月に僕がすごく体調を崩して、病院を転々とする期間があって。でも病院へ行っても原因は何もわからないし、その不安な気持ちを親に話すんですけど、それで余計な心配をかけてしまって……ふさぎ込んでしまった夜に半泣きになりながらバーっと作ったのが「誰も知らない」です。この曲は歌詞先行で作ったんですけど、部屋の明かりも付けないでギターを弾いたり、いつもとは全然違うアプローチから生まれました。

 どんなに親しい人や愛おしい人にも決して伝わることがない、自分だけにしかわからない痛みや怖さを抱えて生きていく時間、それに対する疲れもそうですけど、わかって欲しいのにわかってもらえるはずがないみたいな気持ちってあると思うんです。そんな絶対に届かない距離を憂いている曲で。聴き直してみてもリアルというか、その時のことをすごく思い出します。書き殴った荒々しさとか、追い詰められた気持ちとかがシンプルに表れている。

ーーでも、最後は〈ひとりで戦わなくちゃいけないことなどないと気づけよ 僕のバカ〉と、少し視点が変わっていますね。

大橋:その場の気持ちは絶望でも、歌は絶望で終わらせたくなかったんです。誰も自分の辛さをわかってくれないけど、それでも家族はそばにいてくれるというのは心のどこかで理解していて。悩んでいる時は出てこないんですけど、曲としては最後に光のある方向へ向かっていきたいという思いがありました。この曲に限らず、最後は明るく終わりたいという意識は強いかもしれないです。救いを求めがちなのかも。『you』はアルバム全体を通しても、光の方へ向かっていく曲順を意識していて、一貫性はあると思います。

ーーいちリスナーとして、音楽に救われる瞬間はありますか。

大橋:僕も辛い時は音楽に救われてきましたし、作る上でも苦しいことは多いですが、なんだかんだ音楽が好きだなと思えるんです。とはいえ、自分の曲で誰かを支えたい、背中を押したいみたいな気持ちは強くはなくて。でも、結果的にリスナーの方から「救われた」みたいな言葉をいただくと、世に出した意味を感じられるし、それがあるからこそ音楽を続けてこられているんだろうなとは思います。

言葉以上にビートやメロディに救われる瞬間がある

ーー先ほどポップソングや洋楽がお好きというお話もありましたし、過去のインタビューでもジャスティン・ビーバーやOne Directionが好きと発言されています。なぜポップスに惹かれるのでしょうか?

大橋:One Directionやジャスティン・ビーバー、BTSとかは僕もすごく好きですね。英詞の意味まではわからないんですけど、音楽全体が体に訴えかけてくるものがあるというか。言葉以上に、ビートやメロディに救われる瞬間があって。例えばすごく苦しい夜や考え込んでしまう日に、ちょっとポップな音楽や心地よいビートを聴きながら外を散歩してみると、自分の気持ちを動かされることがある。その気持ちを言語化するのは難しいんですけど、自分を主人公にしてくれるような力がポップスにはあって、そこに魅力を感じるんです。そんな心地よい音楽に日本語のリリックをつけることができれば、より気持ちよくしてくれると思うし、僕が今やりたいことはそういうことなんだと思います。今、話している中で気づいたんですけど(笑)。

ーー前作『DENIM SHIRT GIRL』では、海外のポップスはもちろん、K-POPからの影響も感じました。

大橋:K-POPはすごく面白いですし、確かに前作では影響も受けていたと思います。韓国のアイドルグループに関していえば、世界的に最先端なサウンドを取り入れた、かっこいい尽くしの曲にすごく魅力を感じるんです。特定のグループが好きというのはないのですが、ついつい色んなMVを掘り下げて見ちゃいますね。音はもちろん、メンバーの見せ方やダンスも含めて、エンタメとしての完成度の高さに驚きます。J-POPとは全く異なるものだとは思うんですけど、個人的な好みとしても自分の曲に取り入れてみたいとも思いますし、なんであんなにキャッチーな曲にできるのだろうと研究テーマの一つとして聴くこともあります。最近は、日本もJO1やINIみたいなグループも盛り上がっていますが、そういう日本のポップスとは別のベクトルでK-POPは進化していくと思うので、これからもずっと聴き続けていくでしょうね。

 K-POPはもちろん、USで流行っているポップスや日本のボカロなど、ルーツや興味の先はたくさんあるのですが、僕自身どれもバランスよく好きだし、どのジャンルもそれぞれの良さがあると思っていて。その時に好きなものを上手く取り入れて、自分らしさを模索していくようなイメージもあるので、そのスタイルを崩さずに今後もいろいろ吸収していきたいです。

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