『BARAKAN CINEMA DIARY』

ピーター・バラカンが語る、映画『リスペクト』 アレサ・フランクリンの幼少期を丁寧に描いた点も納得

 リアルサウンド映画部のオリジナルPodcast番組『BARAKAN CINEMA DIARY』が配信中だ。ホストにNHKやTOKYO FM、InterFM897など多くのラジオ放送局でレギュラー番組を持つディスクジョッキー、ピーター・バラカン、聞き手にライターの黒田隆憲を迎え、作品にまつわる文化的 ・政治的背景、作品で使用されている音楽などについてのトークを展開している。

 第9回で取り上げた作品は、映画『リスペクト』。本作は、愛に傷つき、己の弱さを知った歌手アレサ・フランクリンが、自分を見出し、“リスペクト”を取り戻していくサクセスストーリー。バラカン、黒田両氏が、アレサ・フランクリンの魅力、フランクリンを演じたジェニファー・ハドソンの演技までじっくりと語っている。今回はその対談の模様の一部を書き起こし。続きはPodcastで楽しんでほしい。(編集部)

ジェニファー・ハドソンの演技は素晴らしい

ピーター・バラカン(以下、バラカン):『リスペクト』はアリーサ・フランクリンの半生を描いた劇映画です。今年5月にも『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』(1972年にロサンゼルスの教会で行われたアリーサのライブの模様を撮影したドキュメンタリー映画)が公開されましたが、『リスペクト』は、その『アメイジング・グレイス』の場面でちょうど終わります。あのライブが行われたのはアリーサが30歳のときですね。彼女は76歳で亡くなったので、『リスペクト』で描いているのは、彼女の人生の半分弱ということになります。ミュージシャンのクリエイティブのピークは大体20代の半ばから後半と言われていて、彼女もそうでした。『アメイジング・グレイス』のときが歌手としての彼女の頂点だったのかもしれません。だからこの映画がそこで終わるという展開は納得でした。もちろんその後もヒット曲は色々ありますが。

黒田隆憲(以下、黒田):観ていて長さは感じなかったですが、2時間半の作品なんですよね。

バラカン:僕も全然飽きなかったです。アリーサを演じているジェニファー・ハドスンの演技は素晴らしいです。歌もすごくいいし、アリーサを演じるということで相当研究や努力をしたんだと思います。下手なことを言われたらもう一生立ち直れないくらいの。

黒田:アリーサ本人も「ジェニファー・ハドスンにぜひお願いしたい」と生前に指名していたようですね。

バラカン:映画の前半、アリーサの子供のころを描いている場面がかなり長いですよね。誰でも幼児期の家族関係が人格の形成に大きな影響を及ぼすので、そこに時間を費やしたのは良かったと思います。アリーサの父親は有名な牧師でゴスペルミュージックの大スターなので、家には毎週のようにブラックミュージックの大物歌手たちが遊びに来て夜中までパーティーをやっている。まだ小学生のアリーサが父親に起こされてみんなの前で歌う場面もありました。本人は歌が大好きでしたが、少し利用されているというニュアンスでしたよね。母親が「歌いたくないときは歌わなくていいんだよ」と耳打ちするシーンもありました。監督は南アフリカのリースル・トミーという女性です。彼女はアリーサのかなり複雑な物語の色々な要素を上手に盛り込み、それぞれ短めではありますが、とても印象的に描いていると思います。

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