VaundyからWurtS、PEOPLE 1まで……マーケティング巧みな新鋭ミュージシャンたち “ブレイクの道”に変化も

 令和以降、Vaundyを筆頭に、セルフプロデュースにとどまらず、自らの売り出し方までを見通したマーケティングをして、楽曲やミュージックビデオ制作を行うアーティストが増えている。その分析能力と拡散力は多くの企業からも注目され、数多くのコラボレーションも行われている。このようなマーケティング型アーティストたちがなぜ増えているのか、マーケティングによって生まれた楽曲にはどんな反響があるのか。具体例を挙げながら時代背景などを踏まえて考察する。

「eカルチャー」で繋がるPEOPLE 1、マーケティングを重視して活動するWurtS

 作品のアートワークやグッズのデザイン、MVの監督を行うなどセルフプロデュースすることで、自身をブランド化することはこれまでも多くのアーティストによって行われてきた。しかし近年はさらに一歩踏み込んだ、マーケティングを重視した活動を行うアーティストが増えている。マーケティングとは、“誰に”“どんな価値を”“どう売るか”。つまりユーザーの求めるものをいかに的確に捉え、自分たちの音楽に取り入れ、どういう形で発表していくかだ。SNSでの評価を的確に分析し発信するインフルエンサーとしての才覚が企業からも注目され、コラボレーション依頼が舞い込むケースも多い。

 2017年に1stアルバム『全知全能』でメジャーデビューしたポルカドットスティングレイの雫は、Twitterでとったアンケートの内容を楽曲に活かすなど、マーケティングを重視した制作で知られる(※1)。2018年にはサントリー「ヨーグリーナ&サントリー天然水」とのコラボレーションで、自身の楽曲「レム」のMVを制作した経緯もある。また、サントリーは、エナジードリンク「ZONe」とアーティストによるコラボレーション企画『IMMERSIVE SONG PROJECT』を展開して話題を集めている。

ポルカドットスティングレイ「レム」MV

 『IMMERSIVE SONG PROJECT』は、いわゆる「eカルチャー」と親和性の高いアーティストとMV制作などのコラボレーションを行うもので、これまでにYOASOBI、Kizuna AI、花譜、yamaらが参加。YOASOBI「ハルジオン」の原作となった、橋爪駿輝による書き下ろし短編小説「それでも、ハッピーエンド」が特設サイト上で公開されたほか、Kizuna Ai×花譜によるコラボ曲「ラブしい」の発表などが行われてきた。その『IMMERSIVE SONG PROJECT』に参加中のPEOPLE 1とWurtSは、マーケティング能力の高さも含めて話題になっている。

 同プロジェクトの一環として制作されたPEOPLE 1の「スクール!!」MVは、プロジェクトを通して集まった約150名の応募から選ばれた現役大学生クリエイター・すめしが制作を手がけ、レトロゲームをモチーフにしたドット絵のアニメーションと、ミディアムテンポでエッジの立ったダンスチューンによる中毒性の高さが話題。11月24日には、同曲も収録した1stアルバム『PEOPLE』をリリースした。リード曲「魔法の歌」MVは、制作過程の動画がTikTokに数パターン投稿され、累計7万回を超える再生を記録。SNSやサブスクリプションの使い方が実に巧みだ。

[PEOPLE 1 “スクール!!” (Official Video)]
PEOPLE 1 “魔法の歌” (Official Video)

 WurtSは、楽曲はもちろんアートワークや映像も全てセルフプロデュースで制作する“研究者×音楽家”。Twitterのコメントによれば「研究内容は、現代カルチャーやマーケティングの観点から社会と音楽を分析する」とのこと(※2)。昨年11月に配信リリースしたアルバム『資本主義の椅子』で彗星のごとく現れ、ソリッドなギターサウンドと青春小説のような歌詞で話題を集めたが、ZONeとのコラボで制作した「BOY MEETS GIRL」では一転、ラップでリリカルな歌詞を聴かせた。

 今年上半期で行った研究は、「TikTokの可能性」「オルタナロックのリバイバル」「縦型MVの分析」だったという。実際にMVは全て縦型で制作され、TikTokで話題を集めたことをきっかけに、「分かってないよ」のストリーミング総再生回数は3,500万回を超えている(2021年10月時点)。「分かってないよ」や「BOY MEETS GIRL」を始め、前述のPEOPLE 1とのコラボ曲「リトルダンサー feat. Ito (PEOPLE 1)」など収録した1stアルバム『ワンス・アポン・ア・リバイバル』を12月1日にリリース。デビューからの研究成果とも呼べるアルバムが、SNSでどのような反響を呼ぶのか楽しみだ。

WurtS - BOY MEETS GIRL (Music Video)
【特別映像】WurtS - リトルダンサー feat. Ito (PEOPLE 1)("謎解き"Video)

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