ラナ・デル・レイを知りそびれた貴方へ 最新作『Blue Banisters』と共に紐解く特異な佇まい

 生々しいと言えばラナの言葉も然りで、リアルな生活感がある、と評するべきだろうか。彼女は炎上が頻発したことを受けて、名声の負の側面にしばしば言及し(「Arcadia」「Black Bathing Suit」)、リモート形式での会話に触れながら、パンデミック下で生まれた作品であることを印象付け、「これが世界の終わりなら、一緒にアイスクリームを食べながらテレビを観てくれるボーイフレンドが欲しい」(「Black Bathing Suit」)などとぼやいたりもする。実際いくつかの曲から察するに失恋したばかりのようだが、他方でハートブレイクを癒してくれる同性の友人たちとの絆を讃えている(「Blue Banisters」「Living Legend」)。そして何よりも興味深いのは、今回初めて自身の家族について随所で触れていることだ。「Text Book」は父、「Wildflower Wildfire」は母との関係を仄めかし、「Sweet Carolina」は出産を控えた妹に捧げているほど。架空のペルソナを演じていると揶揄されたこともあったが、断片的とはいえこうして“リジー・グラント”としての自分を歌うとは、誰が想像しただろうか?

Lana Del Rey - Blue Banisters (Official Video)

 だからといって我々がラナ/リジーの全てを知ったわけではなく、今作を含めて全アルバムを聴き終えても、夢現の状態からは抜け出せない。ラナとリジーの境界が曖昧になり、不可侵の存在にますます高めたのが『Blue Banisters』なのではないかと思う。ラナはいみじくも「Violets For Roses」でこう訴えかける。「私を変えようとしないで」と。

※掲載時、一部表記に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。

『Blue Banisters』

■リリース情報
ラナ・デル・レイ
『Blue Banisters』
発売中
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<収録曲>
1.Text book
2.Blue Banisters
3.Arcadia
4.Interlude - The Trio
5.Black Bathing Suit
6.If You Lie Down With Me
7.Beautiful
8.Violets for Roses
9.Dealer
10.Thunder
11.Wildflower Wildfire
12.Nectar of the Gods
13.Living Legend
14.Cherry Blossom
15.Sweet Carolina

■関連リンク
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