センチミリメンタル、感情の波を鮮やかに奏でたツアーファイナル 最初で最後のZepp Tokyoワンマンをレポート

 温詞は今でこそソロアーティストとして活動しているが、かつてはバンドを組んでいた。そのバンドが活動できない状況になってしまい、立ち上げた別プロジェクトが思いがけず軌道に乗り始めたり、他アーティストをプロデュースしたりするなかで、道が拓けて現在に至る。バンドで挫折して以降もバンドサウンドにこだわり続けた彼だからこそ、観客のハートが熱くなるツボをいちバンドファンとして理解できるのだろうし、“メンバーのこういうところがカッコいいからお客さんにも観てほしい”といったプロデューサー精神、俯瞰力も兼ね備えているからなお強い。4人一丸となっての演奏を前にすると“バンドで躓いたことのある人とは思えない”と言いたくなるが、そうではなく、躓いた経験があるからこそ、このような音楽を鳴らせるようになったのだ。

 演奏の熱量が天井知らずに上がっていくなか、いよいよ訪れた本編ラストは「僕らだけの主題歌」。この曲を演奏する前、温詞は、Zepp Tokyoでワンマンをしたいとずっと思っていたこと、“初めまして”が“さようなら”になってしまったこと、自分がお世話になったライブハウスも潰れてしまったことなどを語った。「まさか別れると思っていないから人と人は出会う。それでも物事には終わりがある。終わりを見届けなければならない側がいる。どれだけ先へ行ったってぼやけた記憶が残っていて……そういうことの繰り返しだと思います」と温詞。そして〈もう戻れないね〉という歌い出しから「僕らだけの主題歌」が始まっていく。人が本当に死ぬときは肉体が滅びた時ではなく、誰からも忘れられてしまった時だとよく言うが、彼は、真の別れを少しでも遠ざけるために、曲を書き、歌を歌っているのかもしれない(「結言」と書いて“ゆいごん”と読む未発表曲も象徴的だ)。「覚えていてね。今日この場所を、この歌を、この声を、この命を。ここで巡り会えたことをずっと覚えていてください」。切実な願いが込められた歌が観客の心に爪痕を残す。

 なお、今回行われたツアーは「とって」の配信リリースに伴うものだが、演奏された14曲中11曲は12月1日にリリースされるアルバム『やさしい刃物』の収録曲であり、結果的に(まだ全貌が明らかになっていないアルバム収録曲もあるものの)アルバムの世界観が強く垣間見えるライブとなった。途中のMCでは『やさしい刃物』というアルバムタイトルに言及。「僕の持つ言葉が刃物だとしても、せめて誰かを守れるようなやさしい存在であってほしいと願っています」と語ったあとに演奏した「リリィ」は、過去に温詞のライブを観たことでトラウマが引き起こされ、それ以降ライブに来られなくなってしまったファンがいた出来事をきっかけに書いた曲だそうだ。たとえそのつもりがなかったとしても、人と人は傷つけ合ってしまう。それと同じように音楽は必ずしも聴く人の救いになるとは限らず、時に凶器になり得る。おそらく『やさしい刃物』は、それでも人と人が出会うのは、そして温詞が歌を歌い続けるのはーーというところに迫った作品となっていることだろう。来たるアルバムの到着を楽しみにしていたい。

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