麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜、チコハニ、halca……DJ和、ミト、冨田明宏らが語る<ミュージックレイン>アーティストの個性

雨宮天、ハニワ、halcaらミューレの個性

「(雨宮天が)かわいいに振り切った「PARADOX」はみんな待ってた」(松原)

雨宮天 『Skyreach』(2014) Music Video (YouTube EDIT ver.)

冨田:じゃあ、次順番にいきますと、(雨宮)天ちゃんですね。

色川:すごい、全員「Skyreach」が入ってる。

冨田:そうなんです。「Skyreach」は全員選んでいて、この曲が天ちゃんのイメージを確立したとしたら、それに対してガラッと彼女の雰囲気を変えた「PARADOX」が入ってきて4票。「Regeneration」は、ミトさんと僕が選んでいる。「Skyreach」に関しては決定でよろしいですか? <ミュージックレイン>の皆さんのバランスを見ていても、やっぱり彼女のカラーがこれでパキッと鮮明に出ている。

ミト:1stシングルでこの状態っていうのが、彼女のブランドイメージを決定づけちゃっている。ここからズレないっていうか。

冨田:「Skyreach」を選ばせていただいて、次に「PARADOX」に関しては、和さんも選んでいます。

DJ和:「Skyreach」との比較というか、並ばせたいなと思った曲。こっちの顔とこっちの顔みたいな、そこのバランスを3曲で取りたくて、「Skyreach」と「PARADOX」ともう1曲、「誓い」も悩んで。

冨田:この「PARADOX」という曲に関しては、令和2年アニソン大賞を決める時に、松原さんがとにかくこの曲を入れろと。大変紛糾しましたよね(笑)。

松原:ここまでずっと“かっこいい雨宮天”でやってきて、100%かわいいに振り切っている「PARADOX」は、本当にみんなが待ってたんですよね。それがもう販売枚数にも素直に出ていて、彼女の販売リリースの中で第2位。“雨宮天”が本気で振り切ったら、こんなにかわいいんですよ、っていうことが本当にわかる。彼女にとってもファンが受け入れてくれるのか、挑戦だったはずなんですよ。お客さんが待っていてくれた、かわいい自分も受け入れてくれた、そういう表現をしてもいいんだとわかったと思うし、彼女も“かわいい“にそこまで抵抗を示さなくなったイメージがあって。それも踏まえて「PARADOX」は入れたい。

冨田:この曲に関しては、皆さんも異論なくということで。

ミト:問題ないと思います。

冨田:「PARADOX」に関しては、「THE FIRST TAKE」も含めて話題性もあり、彼女の新しい代表曲の一つにもなってるんじゃないでしょうか。もう1曲どうしようかなっていうところで、色川さんが。

色川:はい、「VIPER」に。本人の隠れた一生懸命さがあって好きです。MVもストイックに頑張っていたという話も聞きましたし。皆さんご存知だと思うんですけど、曲調では強気で攻め攻めだけど、もともとはこう……。

松原:小心者ですよね。

冨田:自分に自信がないってずっと言ってますもんね。

色川:そうなんです。今は大分プラス思考に変わってきたなと感じますが、「VIPER」のMVにピストルを撃つ瞬間があるんですけど、撃つ時に目を瞑っちゃっているのがかわいくて。

冨田:そういう意見、すごく大事だと思います。ミトさんは「Regeneration」、僕も選んでますけど、この曲を選ばれた理由を聞いて色々と判断をしてみたいなと。

ミト:僕の中では、雨宮天のブランドイメージは変わらないんです。それを発展・展開させている中に、ジョーカー的に「PARADOX」みたいなのが入るっていうのが、天ちゃんのアーティスト活動だと思っているんです。だから、フェイント・変化球をかける必要性がまったくないのかなとも思っちゃう。

冨田:そうですね。僕もやっぱり、この部分を担えるのって彼女の強みだなという風に思って、「リジェネ」を選んだ。

ミト:バラード的なものを入れないつもりはないんだけど、プレイリストとして組み上げようとすると、(バラードは)なくてもいいんだなっていうところには着地できている。(ライブなどで)より深く関わったタイミングで、その良さを感じてもらえるぐらいで全然いい。

冨田:色々な意見がありましたけれども、セレクターとして和さん、皆さんの意見を総合して1曲選ぶなら。

DJ和:「Regeneration」ですかね。

ミト:異論なしですよ。

「(夏川椎菜の)作詞は、読み物としても面白いし、羨ましさを感じる」(色川)

夏川椎菜 『クラクトリトルプライド』Music Video(short ver.)

冨田:ナンス(夏川椎菜)で全員が選んでいるのが「クラクトリトルプライド」です。彼女のポジションを決定づけた曲。<ミュージックレイン>の数多いる声優アーティストの中でも、こういう楽曲を乗りこなしていく彼女はかっこいいなって思えたので、この曲は入れてもいいんじゃないかな。

ミト:<ミュージックレイン>というレーベルの中で、ナンスはちょっと図抜けてオリジネーターだと思ってるんです。だから僕が作った「グレープフルーツムーン」は挙げていない。誤解を恐れずに言うと、ナンスが自分で何をしたいかというカードを見つけるまでの時間と、さらにそのきっかけを作れたという意味では、自分自身いい作品ができたと思っている。ただ、正直ここからオリジネーターに向かったナンス作品の中に、名刺代わりとして入れるのは、是とはなかなか言いづらいんじゃないかなと。

冨田:私は「グレープフルーツムーン」を入れているんです。「私はここから始まり、こうなりました」という意味で。彼女、実は自分に自信があったり、どんな逆境にも正面から立ち向かえていけるタイプだと気づいた。その前までは、まさに「グレープフルーツムーン」みたいなイメージだったんですよね。そこからいくつもの皮をむいていったら、バケモンだったみたいな。

ミト:ただ、私が最初に「シングルを書かせてください」と立候補した時から、彼女に対する底知れないなっていうイメージはずっとあって、そこは多分間違ってなかったんだと。だから手放しで自由にやってもらいたいと思える、本当に特殊なアーティストですね。

冨田:そうですね。この中でいうと、複数票入っているのが、僕と和さんで選んでいる「アンチテーゼ」と、あとは色川さんと松原さんが「パレイド」、あと和さんとミトさんが「That's All Right!」、この辺で割れてる感じ。和さん、「That's All Right!」を選んだ理由とは?

DJ和:このCD、カップリング含め、本当に良くてびっくりして入れちゃいました。ここまで僕はシングル曲を入れていたんで、カップリングを入れたいなと。「アンチテーゼ」は、ボカロックみたいなジャンルで、この音色は夏川さん以外に<ミュージックレイン>にはいないんじゃないかなって。

冨田:HoneyWorksもボカロ出身とはいえ、またちょっと違うじゃないですか。ボカロ系のギターロックサウンドの担い手になっていると、僕は「アンチテーゼ」を聴いている時に感じた。いい曲だし、かっこいいし、これすげえな、と。「パレイド」はどうですかね。

色川:夏川さんは、繊細な感情表現を文字に起こしたり、表現するのが得意で。小説を書いたり、ブログの文章もですけど、表現の幅が広い中で、声優さんっていうお仕事と当時の年齢から予想される楽曲から、「パレイド」はかなり裏切られたものだと思うんですよ。最終的に、複雑な感情を形を整えて表に出すというより、わからないまま終わっていくっていうのが夏川さんっぽいなと。それをこの若さで作詞されているのはすごいと思う。同じ女性として、「ああ、わかるんだよね、このなんて言えばいいかわかんないやつ」って、ざわつきをすごく感じました。私はそこから夏川さんの独創性を感じ取り始めたので、「パレイド」を選びました。

冨田:女性としてのシンパシーの部分。

色川:いやあ、すごく感じました。

冨田:多分、全く違う観点で松原さんは選んでると思うんですけど。

色川:そんなことないですよね?(笑)

松原:あの、全く同じ。僕は女性じゃないんですけど、すごくわかる。あとは色川さんもおっしゃっていた通り、今の“夏川椎菜”というアーティストの方向性が決まった曲は間違いなく「パレイド」で。内面にふつふつと持っているものはありつつも、それを表現していなかった夏川椎菜さんが、もっと自己表現していいんだと切り替わったのがこのタイミングで。自分のやりたいこと、やれることというのをどんどん発信し出したターニングポイントになったのが、間違いなく「パレイド」っていう楽曲だと思うので、僕は外したくない。

ミト:<ミュージックレイン>の中で彼女だけ、YouTube世代の歌い手やボカロPのクリエイティブ感みたいなものと直結しているんですよね。夏川椎菜の年齢と、彼女のつくりたいもの、クリエイティビティっていうのは、そういうイメージになる。その顕著なところって何かっていうと、歌詞を歌い上げる。憑依させちゃう系なんですよ。ストイックであり、すごいクリエイティビティなんです。なかなかそういうことをできる人はいない。

冨田:そうですね。いわゆる独自性みたいなもの、もしかしたら彼女が自覚的に選び取った楽曲ということで、「パレイド」でいいんじゃないでしょうか。じゃあ。3曲目に何を持ってこようか。実はその観点で言うと、もう「クラクトリトルプライド」、「パレイド」で、僕と和さんがあげている「アンチテーゼ」で言いたかったことが消化されてはいる。であれば、別の曲の方がいいのかなと思っているんですが。それで「ファーストプロット」に関する色川さんの意見が非常に興味深かったんですけど、彼女の物書き的な側面についてこの曲で体現されている、と。

色川:夏川さんの作詞は、読み物としても面白いし、羨ましさをすごく感じます。「ファーストプロット」は100%明るい曲ではなくて、今の私だったら絶対に書けない、素直さがある。すごくきれいに整ったものじゃなくてもいい、「だって私はこれなんだもん」と出せる勇気だったりとか。嫉妬心じゃないんですけど、私としては憧れと(それを表現できる)悔しさが共存している曲という意味で、夏川さんが作詞したものから選びたい。

松原:どっちをとるかだと思うんですよね。「パレイド」「ファーストプロット」「クラクトリトルプライド」って一貫性があって、夏川さんの伝えたいものがすごく伝わる。ただ、逆にそれしか伝わらない側面もあるので、全然違うタイプのものはどうだろうか。僕はそれで「キタイダイ」にしたんです。そこでまとめちゃっていいのか、違う感じのものを入れて幅を見せた方がいいのか。

ミト:やっぱりコマーシャル的なところで1人のアーティストタッチを出していこうとすると、結構錯乱すると思うんですよ。ミックスCDなので、気持ち的な部分の役割をこの人に任せるみたいなのは、僕はアリだと思ってるんです。どういうキャラクターなのかをしっかり出してあげないと、この曲数とこの流れではちょっと厳しいんじゃないかと思う。

松原:ってなると、僕は「キタイダイ」から「ファーストプロット」に切り替えます。

冨田:そうですね。先程の色川さんやミトさんのお話もそうですけども、アーティスト、作家、夏川椎菜。

ミト:これを出せるのは、でかい。

冨田:音楽の表現者としても、「クラクトリトルプライド」、そして「パレイド」によって決定づけられたみたいなストーリー性も含めて、彼女が体現できる3曲というところで「ファーストプロット」。ということで、スフィア、そしてTrySailのブロックが終了でございます。

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