YOASOBI Ayase、声の魅力にも脚光 セルフカバー作品から歌唱力を検証

AERA 2月8日号

 なによりも、このAyaseによるセルフカバーで注目したいのは彼の歌声だ。前述した通り、AyaseはYOASOBIの活動においては楽曲制作や演奏をメインに担当しており、歌声を聴ける機会というものは数少ない。その点においてもこのセルフカバーがAyaseの活動の中でも貴重なものだということが分かるだろう。普段はYOASOBIのikuraや初音ミクなど、女性ボーカル曲の制作が多いAyaseの楽曲を男性の歌唱で聴くことができる、という点も新鮮だ。

 YOASOBIにおけるikuraの歌声は儚さも持ち合わせながら子供のような無邪気さと明るさに満ちているが、Ayaseの歌声はメロウで妖艶な雰囲気を醸し出しているのが特徴と言える。湿度のあるAyaseの声はいわゆる“イケボ”と呼ばれるような、比較的低音をいく声。その低めの声に妖艶さを覚えつつも、聴き心地は軽やか。艶やかで、どこか心が浄化されるようなAyaseの歌声は夜を舞台とした「幽霊東京」、終電をテーマとした「夜撫でるメノウ」、どちらの曲とも絶妙にマッチしている。Ayaseの湿度の高い艶のある歌声と普段のYOASOBIの楽曲や活動とのギャップにやられてしまうファンが多いことも頷ける。音程のピッチ感も良く、転調も歌いこなしている。歌唱力という点でもAyaseは申し分なく、彼が歌唱についての知識や才能も持ち合わせていることが分かる。だからこそAyaseはその知識や才能をボカロP、YOASOBIのコンポーザーという立場から発揮しているのかもしれない。

 今回はAyaseがボカロPを務めた楽曲のセルフカバーであったが、今後はYOASOBIの楽曲のカバーにも期待がかかる。代表曲「夜に駆ける」はもちろんのこと、「群青」や「ハルジオン」といった楽曲たちも、ikuraの歌唱とはとはまた味わいの異なるセルフカバーとなることだろう。また、YOASOBIとしてAyaseがボーカルを執る楽曲も今後は生まれるかもしれない。今回のセルフカバー2曲が今後のAyaseの様々な活動の幅を広げるきっかけになるはずだ。

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