戸川純「好き好き大好き」はなぜTikTokでバズった? 海外ユーザーも惹きつける強烈なインパクト
戸川純の初ソロアルバムにも、タイトルチューンで細野晴臣が作曲した独特なテクノポップナンバー「玉姫様」が収録されているが、「好き好き大好き」を収録した2ndソロアルバムは、芸能活動も盛んで、タレントとしても異彩を放っていた戸川の最もキャッチーな側面と言えるだろう。ヤプーズのキーボード、編曲も担当していた吉川洋一郎の作曲による「好き好き大好き」のサウンドデザインは、シンセを軸にしたテクノポップ、かつビートも当時主流のゲートリバーブを多用した、いかにも80年代なサウンドだ。特徴的なのはイントロの不気味なストリングスで禍々しさを演出し、アニソンにも登場しそうなシンセの単音も短調のメロディだ。Aメロはほぼビートとシンセベースのみで、戸川の少し舌足らずな歌唱を効果的に聴かせながら、サビに向かって派手なストリングスでドラマ性を盛り上げ、禍々しいほどのクラシカルなサビの歌唱を牽引していく。ただ、〈好き好き大好き 愛してるって言わなきゃ殺す〉という歌詞面のクライマックスでは、淡々としたシンセベースしか鳴っていない。実はAメロもサビも、リフは調性が変化するだけでビートとシンセベースが軸というシンプルな構成なのだ。種を明かせば、この曲のインパクトは戸川の声色の変化を最大限に活かす、Aメロとサビの調性の変更と音数の少なさにある、という結論に至る。
海外ユーザーを起点に国内外で再生数が激増したことから、アルファミュージック公式YouTubeチャンネルでも「好き好き大好き」のミュージックビデオが公開された。当時からのファンが懐かしむコメントや、“地雷系”、“メンヘラ系”の元祖を確認したい層、TikTok経由で知った海外リスナー、または“平沢進的なものを感じる”といった若いリスナーならではの見解など、まさに国内外、世代問わずコメントが寄せられているのも面白い。ここから戸川純というアーティストの再評価がまた始まるのか、意表を突く二次創作が広がるのか注目したい。