神はサイコロを振らない、未来に進む中で失ったものと得たもの 『ワールドトリガー』主題歌に内在するバンドの葛藤

神サイが語る、バンドの葛藤

何かを得るためには何かを削っていかなければいけない

神はサイコロを振らない - 「未来永劫」【Official Music Video】

ーー今回の歌詞は、「ボーダー」最高司令官である城戸正宗の視点に立って紡いだそうですが、彼のどんなところに惹かれたのですか?

柳田:城戸司令って謎が多いといいうか。やるべき目標のためには手段を選ばない冷徹非道なところがあるし、常にしかめっ面で顔にも傷があるんですよ。でも、過去の写真ではたくさんの人に囲まれて優しい笑顔を見せていたりもするから「一体、彼には何があったんだろう」と、ファンの間でも考察が進んでいて。

ーー考察の中には、「過去に家族を殺されて性格が変わった」という説もありますよね。

細田:そういう考察を読みながら、自分がもし城戸司令だったらこんなことを思って、こう動くだろうなということを考えながら歌詞を書くという、ちょっとイレギュラーな手法を取り入れてみました。というのも、俺ら福岡で結成して最初は4人だけで突っ走っていたのが、今はこうやってチームで制作環境を作れるようになってきていて。その過程で得たものはたくさんあるし、同じくらい失ったものもある。何かを得るためには何かを削っていかなければいけない部分はあるし、自分たちが決めた目標にたどり着くために、何でもやってやるみたいな気持ちは城戸司令と同じなのかなと思ったんですよね。もちろん、城戸司令の過去に関してはあくまでも「考察」の一つではあるんですけど(笑)。

ーー柳田さんが、神サイの活動をしていく過程で「失った」と思うのは、例えばどんなことですか?

柳田:神サイって実は最初、ポストロックやオルタナ寄りの音楽をやっていて。あの頃の自分たちからすると、今の神サイの姿って信じられないと思うんですよね。例えばSexy Zoneに楽曲提供をしているとか、ドラマのために「1on1」のようなポップでラブリーな楽曲を書いているとか。当時は変なプライドやこだわりもたくさんありましたし。もちろん、そういう俺らを好きだと思ってくれたファンの人たちもたくさんいたし、個人的には今でもポストロックやオルタナは大好きなんですけど、それが活動を続けていくうちに音楽性もどんどん変わっていって。

 当時応援してくれていた人たちが、今も全員ついてきてくれているわけじゃないんですよね。もちろんメンバー間でもその都度話し合って、時には衝突したりしながら進んできた結果、今があるので。きっとこれからも走り続けていく中で、新たに好きになってくれる人もいれば、離れていく人もいると思うんですけど、それはもうバンドの宿命なのかなと。

ーーなるほど。

柳田:神サイは、よくも悪くも「なんでもできるバンド」なんですよ。一応「ロックバンド」とは思っているんですけど、ここ最近の俺らの音源を振り返ってみると、本当にバラバラというか一貫性がない。ただ、特定のジャンルがないからこそ、一つに絞られない表現方法もできるし、前作、前々作のようなコラボ曲も作れるわけなんですけど。しかもそういうフリーダムなバンドではありたいなとは思っていて。

「タイムファクター」が映し出すバンドの葛藤や迷い

神はサイコロを振らない「タイムファクター」【Official Audio】

ーーどんなジャンルでも取り入れ自分たちの作品にできる、要するに「なんでもできるバンド」だからこそ逆に焦点が絞りにくいんですかね。ただ、一見一貫性がなくバラバラだったとしても、どの曲にも「神サイらしさ」が宿っているのはすごいことだと思います。それはきっと、この4人じゃないと鳴らせない音や、柳田さんじゃないと書けない歌詞が、そこには内包されているからではないかなと。

柳田:確かに。自分が今、かっこいいと思うアーティストっていろんなことをやってるなと思うんですよ。でも、何をやっても「その人らしさ」になるという、圧倒的な存在感があるというか。そこが自分の到達したい目標でもあるんですよね。例えば椎名林檎さんもそうだし、宇多田ヒカルさんやMr.Childrenの桜井和寿さんもそう。何をやっても、その人が歌えばその人の音楽になる。そういうアーティストになりたいです。

ーーちなみに歌詞の中の、〈語り継がれてゆくのは正しさや過ちだけじゃなく 誰かの生きた命の足跡、笑顔と涙〉や、〈叶えたい夢があって 誓い合った約束の果てに このまま光となって きっと辿り着いてみせるよ〉と歌う部分には、コロナ禍の影響も感じました。

柳田:そうですね。コロナ禍で一人の時間が増え、夜更けに寝られずにいる時など、悪いことばかりつい考えてしまったりすることって誰でもあると思うんです。自分も曲を作っている時など、ついつい考え過ぎてしまってネガティブな思考に囚われがちなのですが、そこから這い上がれるのはメロディが生まれた瞬間や、曲の方向性がひらけた瞬間なんですよね。そういう意味では、さっき吉田くんも言っていたけど、この曲は神サイが生まれてから今に至るまでの迷いや葛藤みたいなものを表している部分もあるのかもしれない。そして、俺と同じようにそうした時間へと迷い込んでしまった人に、この曲が届いたらいいなという気持ちもありますね。

ーー〈誰かを守り抜くためなら犠牲をも厭わない〉という歌詞も、さっきお話しされていたことに通じますね。

柳田:目的地へたどり着くまでに、全部を受け止めようと思ったら進めなくなってしまう。道中で捨ててきたものもたくさんある中で、“誰かを守り抜くためなら〜”と思い込ませている自分もいるのかなと。そういうところで揺れ動いているんですよね。だから、結果的にこの曲も自分自身のことを書いているのかもしれないですね。目的地にはまだたどりついていない、旅路の途中を歌った楽曲で、最終的には「光」の方へと進んでいくというか。書き始めた時は、城戸司令の心情に寄り添った歌詞にするつもりが、神サイそのものを歌っているなと思います。そういえば「未来永劫」の時も確か、「登場人物3人組の人間模様に焦点を当てて書いてみよう」と思ったのに、気づいたら神サイ自身のことを歌っているような楽曲になっていたなと。

ーー逆に言えば、「未来永劫」も「タイムファクター」も、『ワールドトリガー』の物語というフィルターを通すことで、初めて見えてきた神サイの一面について書いた歌詞とも言えますよね。

柳田:そうなんです。意識して作品と自分をリンクさせているつもりは毎回ないんですけど、気が付いたら繋がっていたというか。こういう「書き下ろし」って自分たちの作品作りとはまた違った楽しさがありますよね。何か題材があって、それに対して自分がどうアプローチしたらいいのかを考えるのはすごく好きです。

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