連載「Signal to Real Noise」第十回:(sic)boy

(sic)boyがLAで語った音楽を作り続ける理由 ロックとヒップホップ、2つのコミュニティを見つめる視線

凝り固まってる考えがある人に届けるため、音楽は作り続けたい

ーーでは、LAでの制作について伺います。アルバム制作でいらっしゃるんですよね?

(sic)boy:そうですね、一応2ndアルバムの制作としてきました。

ーー音楽制作で海外に行くというのは初めて?

(sic)boy:初めてです。最初は慣れなくてすごい戸惑ったんですけど、アーティストとセッションしていくにつれ勉強にもなったし、自分の音楽性を見つめ直す機会にもなりました。

ーー一緒にそちらへ行っているKMさんに聞いたら、本当に毎日スタジオと宿泊先の往復と言ってました。毎日どういうふうに過ごしているんです?

(sic)boy:でも本当におっしゃるとおり、かなり制作に力が入り過ぎて、あまり観光できてないですね。でも移動のタイミングで日本と全然違うなって感じて。なので、東京にいるときとは違う空気で制作できたのかなと思ってます。

ーー現地のどんな方とセッションしたんですか? 何か違いや発見などはありました?

(sic)boy:基本的にラップやヒップホップをメインとして制作してる方たちと作業しました。すごく思ったのが、全員がアーティストなんです。レコーディングブースに入る際も気軽な感じっていうんですかね。

ーー取りあえず1本録るわ、みたいな。

(sic)boy:そうです。僕自身もそうなんですけど、日本だと歌詞を書いて、ちゃんと歌わなきゃって思いでブースに入る方って多いと思うんですけど、こっちの人たちはみんな楽器に近い感じ。自分の声をキーボードっぽくオートチューニングしてとりあえず録っていく、みたいな。すげえなって思いましたね。

ーーでも、そういう経験を経て作った音源はすごいことになってそう。

(sic)boy:僕も結構それに感化されたってのもあるんですけど、スピード感は大事にしました。多分KMさんもなんですけど、自分は作り込み過ぎちゃう癖があって。意外とこっちに来てパッと作ってみる、そのスピード感も意外といいなと思いました。東京で忙しい状況で作るのとは全く違う。それにはそれの良さがあるんですけど、せっかくなんでこちらのスタイルに合わせて。

ーー普段セッションとかレコーディングはどういうスケジュールで進めているのですか?

(sic)boy:自分は結構デモを作ってからレコーディングに入りますね。だから1人でブースに入ることはあっても、毎日いろんなアーティストとセッションするなんてしないですね。だから、ひたすらアーティストと会って、取りあえず約束してブースに入ってたくさんデモを作ってみるのもいいなと。

ーーしばらく日本から離れて制作していますが、逆にちょっと離れて見えた東京の景色みたいなのってあります?

(sic)boy:東京の世界観っていうより、思っていた以上に東京が好きなんだなというか、東京に対する思いみたいのはかなり浮き出たと思います。それこそ、ここまで遠く離れたことがなかったので。地方のライブでも1日行ってちょっとゆっくりして帰ってくるぐらいだったので。LAぐらいまで離れると、さすがに帰りたいなって思いました。

ーー今年、Spotifyの『RADAR: Early Noise』にも選出されましたが、選ばれた感想は?

(sic)boy:シンプルにうれしかったですね。自分の音楽が2021年に馴染めてる感じがしました。ちゃんと響いてるんだって。

ーー特にSpotifyだと海外ユーザーにも聞かれる機会があると思いますが、それに対してはどう思います?

(sic)boy:東京の雰囲気とかを感じながら聞いてもらえるとうれしいですね。その方が僕の音楽をつかみやすいって言うか、想像しやすいと思うので。

ーー(sic)boyさんは普段どういうふうに音楽を聞いてますか?

(sic)boy:僕はひたすらSpotifyで聞いてます。ヒップホップもロックも聞くし、色々聞きます。

ーーヒップホップのコミュニティでも活躍しながらロックをベースにした表現を続けていますが、それぞれのコミュニティってどういうふうに見えてますか?

(sic)boy:ロックとヒップホップは対立まではいかなくとも、お互いリスナーの対する距離感はまだあると思います。それは多分、日本のロック/ヒップホップでそれぞれ確立されたスタイルがあるからだと思うんです。お互い出来上がった文化がある状況で、2つのコミュニティからヘイトしてくる人もいますけど。でも、そういう文化が2つもあるのはすごいうれしいことではありますよね。

ーー私はどちらかというとヒップホップのコミュニティにいることが多いのですが、(sic)boyさん世代のロックコミュニティから日本のヒップホップシーンとかコミュニティってちょっと閉鎖的に見えたりするのかなと。

(sic)boy:でも、僕は逆に同世代のバンドとあまり話す機会がなくて、友達だったり仲良くしてくれるアーティストはヒップホップの方が多いので。なので僕もヒップホップ側っていうと変ですけど、ヒップホップのコミュニティの方が居心地がいいというか。ロック側は分からないだけですが。

ーーどういうところが居心地いいと感じます?

(sic)boy:みんな切磋琢磨して制作してる感じを見てきたので、作品でもライブでも。それは多分ロックのコミュニティでも同じだと思うんですけど、仲良くしてるヒップホップのアーティストはみんなカッコいいですね。

ーーこれから発表される新しいアルバムは今までと全然違う感じですか?

(sic)boy:これまでの音楽性からそこまでガラッと変えてる感じはないと思います。でも歌詞の雰囲気、歌い方、リズムだったりは今までと違うと思ってもらえるとうれしいですね。

(sic)boy - Creepy Nightmare feat.lil aaron

ーー「こういう人に届けたい」とか、「こういう人に聞いてほしい」という、ご自身が想定するリスナー像ってありますか?

(sic)boy:「洋楽しか聞かない」「洋楽が好き」「ヒップホップしか聞かない」「ロックしか聞かない」とか、音楽に対して凝り固まってる考えがある人に届いたらうれしいし、そのためにずっと音楽は作り続けたい。「意外とこれいいじゃん」って思ってもらえるとうれしいですね。

ーー今後コラボしてみたいアーティスト/プロデューサーはいます?

(sic)boy:ヒップホップとトラップの雰囲気でずっと好きなのがnothing, nowhere。彼のファンなんで、いつかはやりたいですね。

ーーヒップホップってすごく男らしさを強調する文化で、マッチョなほうがカッコいいみたいな側面もあって、それを窮屈だなって思うこともあるんですよ。だから(sic)boyさんみたいな柔軟なアーティスト性を持つ方が存在感を増すと、すごく日本のヒップホップシーンにとってもいいんじゃないかって勝手に期待しています。

(sic)boy:ありがとうございます。確かに窮屈と思うこともあるんですけど、マッチョなイメージのアーティストでも僕はファンだったりするので。だからディスられたりするとへこみますけど。でも、彼らの音楽とかスタイルは、自分自身を貫き表現するという点では、重なる部分があると信じています。こだわりは持つべきだし、自分の守りたい部分、守るべきものがあるのがアーティストだと思うので。僕がこうやって窮屈と思うことがあるということは、多分向こうにも同じような思いがあるんじゃないかなと思います。

This Is (sic)boy
「Creepy Nightmare feat. lil aaron」

■配信情報
(sic)boy
「Creepy Nightmare feat. lil aaron」
2021年10月6日(水)より配信
iTunes Store等主要配信ストア及びApple Music、Spotifyなど主要定額制音楽ストリーミングサービスにて配信中
配信はこちら
レーベル:add. some labels

<収録曲>
1. Creepy Nightmare feat. lil aaron

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