インナージャーニーの音楽世界は今まさに広がり続けているーー結成2周年記念ワンマンを観て
9月1日にリリースした2ndEP『風の匂い』を引っ提げて開催された、今年5月以来となる2回目のワンマンライブ。会場となった渋谷WWW Xには老若男女幅広い層の観客が集まっている。窓から入ってくる風のようにそれぞれの日常にふっと入り込んでくる、そんなインナージャーニーの音楽の魅力を物語るようだ。
今回のワンマンは「結成2周年ライブ」と銘打たれている通り、カモシタサラ(Vo/Gt)のバックバンドとして出場した『未確認フェスティバル2019』を経て、2019年10月、正式に4人組のバンドとしてスタートを切ってから2年という節目を記念してのものでもある。2年という時間が短いか長いかは人それぞれだが、少なくとも、いざ走り出そうという生まれたてのバンドにとっては、この2年は大変な時間だったはずだ。ライブ中のMCでカモシタに「結成2年の実感、ある?」と問われたKaito(Dr)は「まったくない」と即答していたが、結成してすぐにコロナのパンデミックが発生し、普通ならばやっていたであろうライブもレコーディングもままならないという中で彼らは進んできたのである。同じ質問にとものしん(Ba)は「でも、老けたと思いません?」と答えた。一体何歳なんだ? しかし、そうやって一抹の不自由さや不安を感じながらも否応なく流れた時間が、インナージャーニーというバンドを成熟させ、『風の匂い』という作品に宿る奥深さと力強さを生んだのだ。
実際『風の匂い』に収められた楽曲たちは、前作にあたる『片手に花束を』とは違う強度をもっている。歌のメロディだけでなく、ドラムもベースもギターも饒舌。それはバンドとしてのいい意味でのいびつさの表れであり、インナージャーニーが本当の意味で「カモシタサラとメンバー」ではなく「4人のバンド」になったという証拠でもある。そして、この日のライブはそんな彼らの「今」をくっきり鮮やかに見せつけるものだった。冒頭を飾ったのはEPのオープニングナンバーでもある「夕暮れのシンガー」。カモシタがギターをかき鳴らして歌い始めると、それを追いかけるようにKaitoの力強いドラムが聞こえてくる。続いてもEPの曲順通り「Fang」。今度はドラムが楽曲全体をリードしながら、そこに本多秀(Gt)の繊細なギターフレーズが絡んでくる。フロアからは手拍子が起き、メンバー全員での「ラララ」というコーラスがさらに会場の空気を温めていく。
「『インナージャーニーといっしょvol.2 -風の匂い編-』へようこそ! 私たちがインナージャーニーというバンドでございます」。そんなカモシタの挨拶に続いてメンバーそれぞれから一言。Kaitoは「最後まで精一杯やらせていただきます」、本多は「ライブという非日常の場を楽しんでいっていただけたら」と真面目に意気込みを語る一方、とものしんは「メンバー全員20歳になっちゃって……感慨深い」とひとり違った視点。カモシタは「みんなに魂で伝えられたらいいな」と熱い言葉を吐くと、会場を埋めた観客を見て「今までどこに隠れていたんだよって思った」と驚きをあらわにする。フロアからは大きな拍手が送られた。そしてそこから「深海列車」へ。ゆったりとしたグルーヴがさらなる深海へとオーディエンス丸ごと連れていくようだ。
『風の匂い』の楽曲はもちろん、軽やかなワルツのリズムが響いた「平行線」やポップなサウンドが弾けた「クリームソーダ」のような『片手に花束を』からの楽曲、さらにはUKロック的な重厚さが新鮮な「少女」や、シンプルなコード進行に乗せてカモシタが珍しくハンドマイクで歌った(両手でマイクをぎゅっと握りしめているのが初々しい)「Walking Song」といった未発表曲も交えつつライブは進む。もちろんカモシタの書くメロディと歌詞がすべてのベースになっているのは間違いないのだが、楽曲によってまったく違う表情が見え隠れする。メンバーそれぞれの個性やバックグラウンドが反響しあって、インナージャーニーの音楽世界は今まさに広がり続けているということなのだろう。