山崎まさよし、孤独と対峙して生まれた“新たな真骨頂” コロナ禍の世界と人生を重ね合わせたメッセージ

 アルバム『STEREO 3』には「泣き顔100%」という山崎まさよしの愛娘のことを綴った歌(しかも愛娘本人の歌声入り)が収録されていて、〈Ah 泣き顔100% 愛しくてたまらない/放っとけないよ 手を繋ごう〉という歌詞の一節から分かるように、山崎家の日常が想起されるアットホームな1曲となっている。

 山崎まさよしにとって音楽とは、日常やプライベートとほぼ地続きの存在であるだけでなく、社会と自分自身を繋げる唯一無二のコミュニケーション手段でもある。初対面の人とは目も合わせることができないシャイで人見知りな性格なのに、ギターを手にさえすればどんな場所でもどんな相手とでもジョインできる晴れ男。彼にとっての音楽は、お守りみたいに肌身離さず持っていたいものなのだ。

 そんな彼が歌う「泣き顔100%」には、実は〈そばにいるけれど ひとりぼっちだね〉という、単なる親バカソングとしては意外なフレーズが挿入されている。そばにいるけどひとりぼっち。対象への愛が深ければ深いほど、他者との繋がりを強く求めようとすればするほど、人は寂しさや孤独を感じずにはいられない。そんなことを歌いたくて書いた歌ではないにせよ、デビューから26年という彼の長い音楽活動を象徴するようなこのワードをさり気なく歌っていることに、感慨深さを覚える。そう、彼はずっと寂しさの中に埋もれそうになる自分を歌にしてきた孤独なミュージシャンなのである。

 本作は、デビューからおよそ1年後に「プライベートアルバム」という触れ込みでリリースされた『STEREO』と、その翌年に発表された『STEREO 2』に続く第3弾として位置づけられる。ちなみにここで言う「プライベートアルバム」とは、山崎自身が作詞作曲から演奏やレコーディングまで全てを行ったものを意味しているのだが、この2作以外にも全てを一人で行ったアルバムが存在していることから、今作をその同一線上に語ることにあまり意味はない。さらに言えば彼が所属するオフィスオーガスタの創設者・森川欣信氏がアドバイザーとしてアルバムに参加していることから、今作が「プライベートアルバム」という定義には当てはまらないとも言えるだろう。それでも『STEREO 3』と名付けたのは、彼の「プライベート」な側面、つまり鏡に写った自分を凝視するように、「孤独な自分」を徹底的に見つめ直す欲求に駆られたからである。

 本来なら山崎にとって2020年は、デビュー25周年という節目を祝う年だった。全国ツアー、アルバム、アニバーサリーイベントなどが予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でいくつかのプランは変更を強いられた。御多分に洩れずステイホームに突入した山崎は、もともとインドア派タイプなこともあってか、SNSなどを見るに、当初それを苦痛に感じている様子ではなかった。むしろ家族と1日を過ごしたり、趣味のDIYに没頭する時間を謳歌していたほどだ。しかし、8月にEP『ONE DAY』の取材で会った時の彼は動揺していた。人にも会えない、出かけることもできない。世間で起きる孤独感や疎外感ゆえの誹謗中傷や悲しい出来事に心を痛めていたのだ。今作にも収録されている「Flame Sign」は、そんな世間を憂いつつも、「会えないけど繋がっていよう」というメッセージを投げかけた曲だ。『STEREO 3』の第一歩は、そんな心の陰影を刻むことから始まった。

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