『映画「東京リベンジャーズ」オリジナル・サウンドトラック』インタビュー

映画『東京リベンジャーズ』を彩る音楽はどのように生まれた? 作曲家 やまだ豊が語る“物語を活かす劇伴の美学”

 北村匠海、吉沢亮、山田裕貴ら若手人気キャストが多数出演し、大ヒットしている映画『東京リベンジャーズ』。俳優たちの迫力あるアクションや熱い人間ドラマが描かれているが、それらをより効果的に魅せているのは、やまだ豊が手がける劇伴だ。北村匠海演じる主人公のタケミチが強敵に立ち向かうところ、恋人のヒナ(今田美桜)と会っている場面など、さまざまなところに音楽が散りばめられている。やまだは、これまで映画『キングダム』(2019年)、Netflixオリジナルドラマ『今際の国のアリス』(2020年)といった人気作の劇伴を手がけてきたが、『東京リベンジャーズ』ではどんなイメージで音楽を作っていったのか。LA在住のやまだにインタビューを行った。(田辺ユウキ)

映画『東京リベンジャーズ』本予告 2021年7月9日(金)公開

芝居が持つ空気感を活かした作曲

やまだ豊

ーーやまださんはまず、映像に音楽が付いていない「ラッシュ」という状態で作品を鑑賞して、そのあと劇伴の作業に取り組まれますよね。『東京リベンジャーズ』のラッシュはやまださんの目にどう映りましたか。

やまだ豊(以下、やまだ):役者の皆さんの芝居がすごくて、なおかつ自然で、「音楽がなくても成立するんじゃないか」と感じました。音をつけて完成したものを観てもその印象はまったく衰えていなかったので、基本的には役者さんの芝居だけでもリズムが出来上がっていて。日本特有のヤンキー文化が自然に表現されていますし、喧嘩のシーンでは台本に書かれていないセリフもあるのですが、叫び声なども十数年前のヤンキーっぽさをリアルに感じられました。

ーーそれだけ俳優の芝居が素晴らしかったということですね。

やまだ:実写映画の音楽を作る場合、そういう芝居が持っている空気感を邪魔しないように毎回意識しています。曲が前に出なくても心理的に盛り上がれるようなバランスを心がけていますね。

ーー芝居の邪魔をする劇伴とはどういうものですか。

やまだ:見ている人が音楽を聴きこんでしまう場合だと思います。もちろんそれを求められる場合もあるんです。「音楽で観客の感情を持っていってほしい」と。『東京リベンジャーズ』でも、ボーカルを使った歌モノ、サントラに収録している「Ready 2 Brawl (feat.Michael Gildner)」という曲については「音楽の印象を強める」ことを狙って作りました。対して劇伴に関しては、たとえば喧嘩の場面だったら、殴り合いのテンポ感に合わせ、音楽に気をとられすぎないよう意識しました。

ーー「音楽に気をとられすぎない」という話はとても面白いですね。劇伴を手がける上で「自分のカラーを出したい」という欲はないのでしょうか。

やまだ:駆け出しの頃はその点でのジレンマは確かにありました。最初の頃は「音楽は崇高なものなんだ」と感じていた節があって、もちろん音楽って素晴らしいものだけど、それだけではないと気づいていくんです。映画はチーム戦だから、「全体で勝ち取る」という気持ちでやらなくてはいけません。チームで勝つために、劇伴担当としては自分の理想を良い意味で犠牲にしていくことも必要なんです。

人間臭さを表現するために意識した“アナログなロックサウンド”

ーー英勉監督らの音楽面での要望には、どんなものがありましたか。

やまだ:参考アーティストとしてLinkin Parkの名前があがりました。打ち合わせでもLinkin ParkのMVを観ながらいろんなアイデアを話し合いました。「Ready 2 Brawl」は、その方向性をかなり意識して書いたんです。ただ、Linkin Parkって1990年代から2000年代にかけてのロックの温度感を象徴するバンドだと思うので、映画『東京リベンジャーズ』の設定である2010年〜2020年とは少し違っていて、例えばI Prevailのようなバンドの方がこの映画の世代には近いんじゃないかなって。だけど2010年代のロックはデジタルな音が混じってくる分、どうしても人間臭さが薄まっている印象なんです。そういう意味では、『東京リベンジャーズ』が醸し出す人間臭さって、確かにLinkin Parkのようなロックの方が近い気がしました。なのでデジタルな音を感じるものではなく、ドラム、ギター、ベースを中心にアナログな音作りを目指しました。

In The End [Official HD Music Video] - Linkin Park
Numb [Official Music Video] - Linkin Park

ーー劇伴として「人間臭さ」を表現するために、アナログ的な手法を生かしたわけですね。

やまだ:はい。レコーディングではアンプを使うことにこだわりました。最近はKemper、Fractal Audio Systemsなどのプロセッサにラインをつないで作業するのが便利ですけど、今回はMesa Boogie Triple Rectifierというアンプにつないでがっつり鳴らしてやりました。だからパワーコード一発だけで圧がくるようになっています。

ーーデジタルではない手法だからこその効力があるわけですね。

やまだ:『東京リベンジャーズ』は泥臭さが感じられるようなヤンキーの抗争場面も多いですから、先ほども言ったようにアナログなロックの曲調と合うんです。ただ、映像と物語と音楽があまりにも似た者同士になるのも面白くないと僕は考えています。

ーーちょっとしたズレがある方が良いということですか。

やまだ:日本のヤンキーが殴り合っているところに、英詞の洋楽テイストのロックを当てたら、良い意味での違和感がぶつかり合うと思いました。タトゥーがびっしり入っているような海外のバンドが作る骨太なロック、みたいな曲を、悪そうに見えるけど、実はタトゥーなどは入っていなくて肌が綺麗だったりするような日本のヤンキーの殴り合いに当てることで、違った文化圏のものを合わせる新鮮な面白さが生まれるんです。逆に、他の友情やロマンスのシーンにおいては、芝居や場所、映像との親和性の高さを強く意識して、全体のバランスは慎重に考えました。

ーー「肌の綺麗さ」というところまで劇伴制作の際は考えることもあるんですね。

やまだ:バックグラウンドを含めてそういった細かい部分まで掘り下げるようにしています。そして、そこから音楽に変換していく際にどんなジャンルが良いのか、何年代くらいのサウンドなのか、と広げていきます。

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