dTVは、なぜライブジャンルを新設したのか NTTドコモ田中伸明氏が語る新時代のサービス
コロナ禍により様々なプラットフォームでのライブ配信が活発化した現状において、dTVでは新ジャンル「ライブ」を新設。なぜ今、dTVで有料によるライブ配信を新たに展開するのか? dTV「ライブ」の意義をテーマに、NTTドコモ コンテンツビジネス部 部長 田中伸明氏にインタビューを行った。コロナ収束後も見据えた、時代や世代、業態の枠を越えた、dTV「ライブ」が目論む新時代のサービスの在り方について聞いた。(榑林史章)
興行という部分から一歩踏み込んだ「ライブ」というプレイスメント
ーーコロナで動画配信サービスの需要が伸びたと聞きますが、実際いかがでしょうか?
田中伸明(以下、田中):家にいる時間が長くなった分、余暇の時間が増えていると思います。私も行きと帰りの通勤時間でざっくり2時間くらい違うことができるチャンスが生まれました。その上、外にも出られないという状況の中で、dTVを選択肢に加えてもらえたことは、大変うれしいことです。他方、ライブや飲食などフィジカルで影響を受けている部分に対して、dTVのサービスが少しでもサポーティブに機能するといいなと思っています。コロナ禍によって、これまでにない変化をしなければいけないという事象が生まれ、そこでサポーティブにできることは何かということを、ライブやコンサートという視点で考えたのが、dTVの新ジャンル「ライブ」です。動画配信自体で言うと数字は伸びていますので、いかに新しい価値を生み出していけるのか、より長い時間dTVを見ていただくことへのトライのひとつです。
ーー有観客でのライブが難しくなったことで、多くのアーティストがツアーやライブを中止・延期する中で有料の無観客オンラインライブという選択肢が生まれました。
田中:必然的にネットワークを介した、ライブに対する新しい取り組みが始まったわけです。ちょうど私どもとしては、コロナになる前から5Gのネットワークにシフトして行く過程で、5Gを利用したエンターテインメントの中で、音楽とライブを軸にした「新体感ライブCONNECT」(8月8日にサービス終了)への動きをすでに始めていたところでした。大容量、低遅延といった5Gの特性を活かした、今までとは違う見せ方、例えばマルチアングルなどネットワークの上に新しい価値を付けていこうと進めていたところです。奇しくもコロナによって、その取り組みが後押しされた形になりました。
ーーdTV新ジャンル「ライブ」では、すでにGLAYやHKT48のライブを有料配信されています。実際にユーザーの反響はいかがでしたか?
田中:例えばHKT48の場合は、宮脇咲良さんの卒業公演と連動させていただいたこともあって、かなりの反響をいただきました。そこで分かったのは、見る前と後でのSNSの動き方にライブとの相関関係があるということ。ライブ自体を単体で見るのではなく、ライブが始まるまでにどういう兆しを作るか、見た後にどういうフォローができるか。それができれば、追体験としてのライブの価値がさらに上がっていくだろうと思いました。
ーー例えばHKT48で言うと、宮脇さんのドキュメンタリー番組やMVのライブラリーを充実させて、ライブ前に予習をしてもらって。また、ライブ後にレポートをアップしたりということでしょうか?
田中:まさしくです。docomoではすでに「新体感ライブCONNECT」というマルチアングル動画の配信サービスを行なってきて、2月にTWICEさんのエクスクルーシブなライブをやらせていただいくなど、これまでに数十本のライブを配信してきました。しかし、これはあくまでも単体で行なっていたサービスです。先ほどお話しをした通り、従来の有料会員さんがいらっしゃって、もともと豊富な映像ライブラリーを持ったdTVという箱の中で展開するほうが、単体でやるよりも前と後の作り方でよりパワーが出てくると考えました。
ーーそうするとdTVの中で、31日無料のお試し会員と、定額会員、有料ライブだけを見るという、異なるスタンスを持ったユーザーが、混在することになるわけですが。
田中:そうですね。先ほどお話しをさせていただいた、アーティストさんに紐付いた前と後のコンテンツは加入しないと見られないわけですから、それを武器にして、アーティストのライブをきっかけにdTVに入っていただくという流れを設計していきたいと考えています。
ーーできれば、dTVユーザー限定の割引があったらいいですよね。
田中:実は、すでにそういうことも始めています。B'zさんが9月に有観客で、10月に配信で開催するライブ『B'z presents UNITE #01』のチケットを8月1日から販売していますが、大阪公演・横浜公演ともに通常の販売価格4500円のところ、dTV会員の特別価格で3500円にさせていただいています。
ーーさらに言えば、ポイントで購入できたらもっといいですね。
田中:はい。docomoとしても、「dポイント」と連動することで、様々なサービス単体だけでは得られない、大きな広がりがすでに生まれて来ています。それに「dポイント」の動きでユーザーさんの趣味趣向がある程度把握できるので、そのログデータをアーティスト側にフィードバックすることで、それをアーティストの次のアクションに役立てていただくこともできるわけです。docomoには「dマガジン」もあるので、「ライブ」と紐付けることで、このライブを見た方がどういう雑誌を読んでいるかも分かる。その先は拡張類推を取り入れれば、ユーザー像がより具体的に見えてきます。こういうことができるのは、多くのプレイスメントを持っているdocomoだけでしょう。それを強みとして、今後はもっと多くのアーティストや企業と組ませていただければと考えています。
ーー単に有料ライブを配信するとか協賛するということだけではなく、新たなものを作っていきたいと考えているわけですね。
田中:単なる協賛ならやりません(笑)。これまでdocomoの音楽業界とのお付き合いは、そういうモデルが多かったですが、それはもう卒業。「新たなライブ事業」を一緒に考えて進めていただける方々と作っていきたいですね。
ーー利益優先ではないと。
田中:もちろん利益が出なければ、どこのパートナーさんともお付き合いさせていただけませんが、それだけの関係からは卒業ということです。ライブの興行という部分から、さらに一歩踏み込んだところで何かを作りたい。そんな思いから、「ライブ」というプレイスメントを作りました。それに加え、コロナが収束して以前の状況に戻った時に、今の収益とか今の構造よりも、さらに良くなっている状態でいないといけない。オンラインとオフラインが連動した世界で、そこに5Gだったりdocomoとしての貢献という価値を、どうにか一緒に埋め込むことはできないか。そういう欲張りな構想もあります。それができてこそ、通信キャリア的なメリットが生まれるとも思っています。