澤野弘之に見出されたシンガー Tielle、歌声ひとつで描き出す多彩な音楽表現 1年越しのリベンジ公演で展開した独創的なステージ
ロック、ポップ、ゴスペル、ヒーリング、映画音楽……。ジャンルの壁を鮮やかに超えていく実力派女性シンガーのTielle(チエル)が、7月29日に東京・Shibuya WWWにて自身二度目となるワンマンライブ『&BEYOND』を開催した。
Tielleは、2015年に実施された劇伴作曲家・澤野弘之のボーカルオーディションで見出され、アニメ『機動戦士ガンダム ユニコーン RE:0096 』のOPテーマ 「Into the Sky」のゲストボーカリストに抜擢された。その後、澤野氏の楽曲に多数参加し、2019年からはソロアーティストとしての活動をスタートさせ、2020年1月26日には初ライブを開催。同年6月に1stアルバム『Beyond』をデジタルリリースし、2ndライブの開催を予定していたが、コロナ禍によってやむなく延期。この日のライブは1年越しに実現したリベンジ公演となっていた。
開演前の場内には鳥の鳴き声が流されていた。そして、開演時間になるとピアノ&エレキギター、ベース、ドラムという3ピースのバンドがサボテンや木々が立ち並ぶステージに上がった。鳥の鳴き声にピアノがメロディを乗せていき、マスクをしたままのTielleが登場。インストゥルメンタルナンバー「feelings」とシームレスに続く「Beyond」で、夢の中でしか会えない君へのやるせない思いが切々と歌われていく。会いたくても会えないという絶望に似た葛藤を描く歌とピアノにドラムとシンセベースが加わって大きな花を咲かせたあと、すれ違ってしまった“君”を失った悲しみを綴った「Misfit」では、ヘビーでラウドなロックサウンドに乗せて、伸びやかで美しいハイトーンだけでなく、激しいシャウトも見せた。
最初のMCでは「2回の延期があり、待っていてくださった皆さん、そして、この難しい状況の中で会いに来てくれた皆さん、本当に本当にありがとうございます。いまできる、私の100%で音楽を届けたいと思っています。ここにいるみんなの愛を感じて、一生懸命、精一杯届けます」と深々とお辞儀をして挨拶した。
ここからは、今年6月30日にリリースした、初のフィジカルCDとなるミニアルバム『CONTRAST』の収録曲を続けた。「ほろ苦くて、ちょっとスパイシーな大人の恋愛ソングです」と解説したFODドラマ『スイートリベンジ』の主題歌「Sweet Love」。〈Sweet Love〉というフレーズから始まり、スクリーンに映るラッパーのyoxenとステージ上に置かれた電話を通じてコラボしたブギーファンク「Sweet Revenge」。オルタナティブR&BサウンドとJ-POP的メロディが融合したバラード「Victim」。甘くメロウなムードは、ノイジーでインダストリアルなバンド演奏によって切り裂かれ、衣装チェンジを経て、場面は星の輝く透明度の高い宇宙へと展開し、壮大なバラード「告白」へ。ため息のような呟きから、地鳴りのようなロー、そして、空高く突き抜けていくハイトーンにファルセットまで。英語歌詞をメインとしたダークなピアノバラード「GHOST」や「good girl」でも歌声ひとつでスケール感を広げていき、暗闇の中の光や生と死のダイナミズムも表現していく。音域の広さも魅力的だが、何よりも少しだけ翳りのあるボーカル表現が素晴らしく、体ひとつでこれだけ様々な世界観を作り出せるのかという感動ももたらしてくれた。