島爺、“孫”やボカロPらと共に刻む活動10年の軌跡 1年越しの『挙句ノ宴 -リベン爺-』で打ち上げた感謝の花火

 10周年記念ライブとあって、ファンも期待した盟友・ナナホシ管弦楽団の参戦も、大きな見所となった。「こんなに美しいヴァイオリンを弾いてくれる大人の人が、今日はいてんねん。そこに我々のような、新宿ゴールデン街みたいな人間がね……」(ナナホシ管弦楽団)、「関西のにおいを持ち込んでくんな!(笑)」(島爺)と、いつものように軽妙な掛け合いを見せた後、映画『東京アディオス』の主題歌「よだか」をムードたっぷりに披露。そして続くのは、作詞・作曲の島爺と編曲のナナホシが「ノーガードで殴り合った」という、あの曲のパフォーマンスだ。

 Netflixで全世界配信中のアニメ『終末のワルキューレ』EDテーマとして世界中で高い評価を受けている、いまの島爺を象徴する楽曲といっても過言ではない「不可避」。神々しくもディストピア感のある、アート性の高い楽曲だが、ライブパフォーマンスは見事の一言だ。ギターのヨティ、ベースのMIYA、ドラムの真二という、最初期から島爺のライブを支えてきたスーパーバンドに、楽曲にさらなる彩りをもたらすマニュピレーターの“池爺”こと池田公洋、華のあるギタープレイに定評があるナナホシ管弦楽団が加わった演奏は圧巻で、高すぎる演奏技術とバンドとしての一体感にため息が出る。複雑な感情を複雑なまま、しかし限りなく細やかに伝える島爺の歌唱技術も含めて、「このバンドに表現できないことはあるのか」とすら思わされた。

 10年間を全力で走り抜けた島爺への労いを込めながら、同時にその10年を支え続けてきたファンへのメッセージにもなっている、ナナホシ管弦楽団が書き下ろしによる「カラクリズム」から、一息着く間もなく怒涛の展開だ。

 「ニビョウカン」とともにアンケートで希望が殺到したボーカロイド曲「君が飛び降りるのならば」(Omoi)は、『孫ノ手』に収録された「なんで生きてんだろうってすげえ思うんだ」(ヘルニア)にも通じるような、ある種の“行き止まり”を軽やかに、力強く乗り越えようという説得力に満ちた歌唱だった。さらに「めちゃくちゃにしちゃおうぜ」(薄塩指数)、「極楽人鳥」(ピノキオピー)と、遊び心のある言葉とサウンドのなかに、いまを生きるための大切なメッセージを讃えた新曲が続けざまに披露されたのも、心憎い。ボカロP/クリエイターの個性、強みが全開で発揮された楽曲が、ライブのなかで相互作用し、ストーリーを作り、違和感なく共存するーーというのは、あらためて普通のことではないと思う。

 本編のラストを飾った2曲は、堀江晶太が作曲し、島爺が歌詞を手掛けた『御ノ字』の最終曲「花咲か」と、『挙句ノ果』の最終曲「明日へ」。お祭り的な盛り上がり&大団円感があり、島爺の新たなテーマソングともいうべき仕上がりになった「花咲か」と、〈再会の日が/笑顔であるように/今は「またね」〉と優しく別れを告げる「明日へ」のコントラストが美しく、1年間、待ちに待った観客の心を打つエンディングとなった。

 あまりにも整然として、ファンの連帯感の強さやマナーのよさを感じるアンコールの手拍子に聴き入っていると、ステージに島爺が戻ってくる。「こんなに来てくれると思わんかった。君ら、なかなかのアホやな(笑)。めちゃくちゃうれしいわ」と、あらためて感謝を伝える島爺。ライブの恒例になっている語りは短めに、テーマは「直感」について。

 「直感」とは超能力のようなものではなく、これまで経験してきたことの積み重ねから、無意識に未来を推測すること。つまり、「雨が降りそうだ」と直感するのは、その人に「どういう空気、湿度、匂いのときに雨が降ってきたか」という経験的なデータが蓄積されているからだと、島爺はいう。裏を返すと、経験していないこと、あるいはその数が少ない状況について、直感的な判断は間違いがちだ。そして、世界的なパンデミックは、多くの人がいま初めて経験している。

「だから嫌な予感しかしないし、いま新しいチャレンジをすることも躊躇してしまう。でも、こういうときはみんなそう思うもんやから、大丈夫。脳味噌に勝手に思わせとったらええから。僕らが不安に思ったところで、コロナがなくなるわけでもないし、むしろ心が病んで免疫が落ちてしまったら、より感染しやすくなるという負の連鎖が起きてしまう。慌てず騒がず、楽観も悲観もせず、やるべきことを日々淡々とやって、元気に生きていきましょう」

 そんな言葉に大きな拍手が起き、アンコール曲を演奏……する前に、再びステージに立ったナナホシ管弦楽団がつま弾いたのは、「Happy Birthday to You」。「お客さんが来てくれるかどうかしか考えていなくて、すっかり忘れていた」という島爺にバースデーケーキのサプライズだ。照れる島爺が最後にコールしたのは、まさに本公演に相応しく、逆境を乗り越える痛快さがリスナーを鼓舞してきた「アヴァターラ」だった。

 かつて東日本大震災で心を折られたひとりのバンドマンが、未曾有のパンデミックのなかで打ち上げた、大きな花火。その背景には、楽曲を提供したクリエイターたち、見事な演奏を見せた“チーム島爺”の一流ミュージシャンたち、そして最大の理解者である孫=ファンたちの姿がある。そのすべてを繋いで、“点火”の役を担ったのは誰だろう? と、空の大輪からふと視線を落としてみると、口元に人差し指を立て、ウインクしているボーカロイドたちーー島爺の10周年を記念する本公演は、そんな映像を想起させるエモーショナルなものだった。11年目からその先へ、刻まれる一歩はどんなものになるのか、いまから楽しみでならない。

SymaG 10th Anniversary爆誕前夜祭「挙句ノ宴 -リベン爺-」アーカイブ配信

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■リリース情報
島爺 5th Album『御ノ字』
2021年7月28日(水)リリース
『御ノ字』(初回限定10周年記念盤)※数量限定生産
CD+DVD+10周年記念グッズ付き
品番:WPZL-31879/80
価格:¥11,000(税込)

『御ノ字』(通常盤)
CD
品番:WPCL-13301
価格:¥3,300(税込)

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【CD】(全9曲収録)※初回限定10周年記念盤/通常盤共通
1.逆光(作詞、作曲:島爺、編曲:ナナホシ管弦楽団)
2.ベンジェンス(作詞、作曲:柊キライ)
3.しゅらんぼん(作詞、作曲:煮ル果実)
4.めちゃくちゃにしちゃおうぜ(作詞、作曲:薄塩指数)
5.極楽人鳥(作詞、作曲:ピノキオピー)
6.オートマトン(作詞、作曲:ジミーサムP)
7.不可避(作詞、作曲:島爺、編曲:ナナホシ管弦楽団)
8.カラクリズム(作詞:ナナホシ管弦楽団、作曲:岩見陸)
9.花咲か(作詞:島爺、作曲:堀江晶太(kemu))                 

【DVD】※初回限定10周年記念盤のみ
・2020年8月2日(日)開催「島爺爆誕祭 挙句ノ生配信」より
はじめに(作詞、作曲:島爺)
ブリキノダンス(作詞、作曲:日向電工)
箱庭の理(作詞、作曲:島爺)
もいちど(作詞、作曲:島爺)
よだか(作詞:ナナホシ管弦楽団、作曲:岩見陸)
アヴァターラ(作詞:ナナホシ管弦楽団、作曲:岩見陸)
明日へ(作詞、作曲:島爺)
・「不可避」MV
・「不可避」MVメイキング

■ライブ情報
SymaG 10th Anniversary
10周年感謝祭『百歌老乱 -はじまりはじまり-』
<公演日>
2021年9月14日(火)※弾き語りライブ
【昼公演】開場16:30/開演17:00
【夜公演】開場19:00/開演19:30

<会場>
LIVE HOUSE バナナホール(大阪)

<チケット>
指定 ¥4,000(税込)ドリンク代別

チケット好評発売中
https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=582835
※整理番号順の入場になります。
※撮影機器、録音・録画機器のお持込みは御遠慮下さい。
※4歳以上チケット必要

■関連リンク
「島爺」オフィシャルサイト
http://sp.wmg.jp/symag/
「島爺」オフィシャルツイッター
https://twitter.com/SymaG2525
・ニコニコ動画
http://www.nicovideo.jp/mylist/27662648
・YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCocO6v9snQqVYzGTuTLoK6g
・Blog
http://lineblog.me/symag2525/

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