島爺、“孫”やボカロPらと共に刻む活動10年の軌跡 1年越しの『挙句ノ宴 -リベン爺-』で打ち上げた感謝の花火

 島爺が8月1日、Zepp Tokyoでライブ『爆誕前夜祭「挙句ノ宴 -リベン爺-」』を開催した。本来であれば、昨年8月2日に行われていた『挙句ノ宴』。新型コロナウイルスの感染拡大により延期を余儀なくされたが、この1年でチーム島爺、そして“孫”=ファンの気持ちはトーンダウンするどころか高まり続け、また10周年を迎える節目の年に持ち越されたことで、結果として近年まれに見る、熱量の高いライブが展開されることとなった。

島爺

 冒頭、ステージ上のスクリーンで映像が流れる。それは、島爺が歌い手としての活動を始めた経緯と、2017年6月、いまはなき赤坂BLITZで開催された初ライブ『冥土ノ宴』以降のステージを振り返るものだった。バンドマン時代は「お客さんが全員、審査員のように見えていた」という島爺。2011年には東日本大震災を受け、音楽に希望が持てず、心が折れたこともあった。しかし、歌い手として立ち上がり、多くのライブを重ねたいま、島爺の思いはまったく違う。「いっぱい挑戦して、いっぱい失敗して、いっぱいみんなに笑われて、恥をかいて、僕は生きようと思います」と、多くの人が悩みを抱える時代に誰よりも前を向き、チャレンジャーとして先陣を切る覚悟を宣言して、いよいよライブがスタートした。

 オープニングを飾ったのは、アルバム『挙句ノ果』に収録された島爺の自作曲「はじめに」。〈なんもかんもここに/お前の今をここに置いていけ〉と歌い上げ、そのまま畳み掛けるように披露されたのは、“歌い手・島爺”が広く知られるきっかけになった、ボーカロイド曲「ブリキノダンス」(日向電工)だった。10周年という節目を祝うに相応しいスタートだ。

 「島爺です、よろしくお願いします」というおなじみのシンプルな挨拶も、普段より熱がこもっているように聴こえた。感染症対策により、声を合わせて歌うどころか、笑い声を上げることもできないなかで、フロアを埋め尽くした観客は万雷の拍手でそれに応える。

 ここからの展開が、早くも本公演のハイライトのひとつとなった。ファンがライブ演奏を希望する楽曲を聞くアンケートで1位になった、MARUDARUMAによる人気曲「ニビョウカン」から、7月28日にリリースされたばかりの5thアルバム『御ノ字』のオープニング曲「逆光」(NHK特撮ドラマ「超速パラヒーロー ガンディーン」主題歌)へ。ともにBPM200のアッパーチューンで、絶望を引き受けて前を向くために、強く背中を押してくれる楽曲だ。コロナ禍を受けたセットリストかどうかはわからないが、胸に迫るものがあった。

 あらためて「よう来たね」と優しく語りかける島爺に、観客が柔らかく広がるような拍手で応える。”声援”を代替するものとして、『御ノ字』の初回限定10周年記念盤に封入されたボイスキーホルダーも活躍したが、アーティストへの愛情があれば、拍手ひとつでこれだけの感情表現ができるのだと気づかされた。「おじいちゃん大丈夫ー?」「お水おいしいー?」と、曲間のMCで“老体”を気遣う声が上がるのが、島爺のライブならではの光景になっているが、言葉がなくてもコミュニケーションが成立する信頼関係が、そこにはあった。

 続いて披露されたのは「箱庭の理」「岐路と銃口」と、ともに島爺の作詞・作曲による、“生と死”を痛烈に描いた楽曲。さらに、『御ノ字』から「しゅらんぼん」(煮ル果実)、「ベンジェンス」(柊キライ)と、突き刺すような存在感のある新曲が続く。しゅらんぼんは「酒乱坊」と書き、ベンジェンスは「復讐」や「仕返し」を意味する。ファンとの温かな交流のなかで、こうしたシリアスな楽曲、尖った表現を遠慮なくぶつけられるのも、深い信頼関係ゆえだろう。

 島爺のライブを彩ってきたアコースティック編成のパートも、今回は一味違う。ステージに呼び込まれたのは、映画『のだめカンタービレ』に技術指導とレコーディングで参加したことでも知られ、ロックにも造詣が深い“ヴァイオリン王子”=須磨和声だ。アコースティックギター、ウッドベース、カホン、そしてヴァイオリンという編成で披露された「生爺のテーマ」「もいちど」は、ジャジーなアレンジで情感がさらに増し、心を揺さぶるものに。さらに、“須磨爺”を残し、バンドを通常の編成に戻して演奏された、ジミーサムPの書き下ろしによる新曲「オートマトン」は、ヴァイオリンの美しい音色が開放感を強調し、SF的な世界観と見事な融合を果たしていた。

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