AKB48の軌跡を辿る 第4回:指原莉乃の覚醒、グループを去っていく1~2期生……世代交代が求められた転換期
5月23日に結成15周年記念の単独コンサートを終えたアイドルグループ、AKB48。同コンサートは柏木由紀演出のもと、「48曲ノンストップライブ」に初挑戦。また9月29日にリリースする58枚目のシングル曲「根も葉もRumor」では、姉妹グループは参加せずにAKB48メンバーのみで歌唱することを発表。これは19作目『チャンスの順番』以来、約10年ぶりのことだ。5月28日には、「最後の1期生」である峯岸みなみがAKB48劇場公演をもって卒業。7月からは、自虐的なタイトルが話題の新番組『乃木坂に、越されました。〜AKB48、色々あってテレ東からの大逆襲!〜』がテレビ東京で始まった。
15周年の区切りが過ぎて、AKB48は変革の兆しを見せはじめた。今回の短期連載では、グループの今後に期待を込める意味でこれまでの軌跡をまとめていく。第4回は、大島優子、高橋みなみ、小嶋陽菜ら初期メンバーが相次いで卒業した2013年から2017年までを振り返る。
ヘタレキャラから頂点に、指原莉乃時代が到来
2013年12月31日に大島優子が卒業を発表する約半年前、AKB48の歴史のなかでも大きな出来事があった。32枚目のCDシングルへの参加メンバーを決める『第5回AKB48選抜総選挙』だ。ここで前年トップの大島優子や、上位常連の渡辺麻友、柏木由紀、篠田麻里子らを退けて1位に輝いたのが指原莉乃。
2009年の『第1回選抜総選挙』で27位に入り、以降は19位、9位、4位と順位を徐々に上げ、ついに史上初のAKB48研究生経験者による1位を獲得。2008年8月13日にAKB劇場でおこなわれた公演では、ファンに向けて「推しは変えるものじゃない、増やすもの」と推し増しの推奨発言をした指原。現に、2010年前後からはじまったアイドル戦国時代のムーブメントは、このDD(誰でも大好きなアイドルファンの略)層の拡充が大きかった。DDの存在を早い段階から意識していた指原はやはり、先見の明やプロデュース力に長けていたのだろう。固定支持者を一定数確保した上で浮動票を狙う考え方は、実際の政治選挙さながらである。しかも指原は前年、恋愛スキャンダルでHKT48へ移籍したにも関わらず……。そういった背景も様々な波紋を呼んだ。
指原は自著『逆転力 〜ピンチを待て〜』(講談社/2014年)で、「私はとにかく、戦いたくないんです。人とも戦いたくないし、自分とも戦いたくない。だから私は、目標を決めないんです。目標を決めると、それと戦っちゃうからです」「上を見るより、積み上げてきたものを見るほうが絶対、楽しく生きられるじゃないですか」と記している。さらに同著では、「比べられると負けちゃうなら、比べられないようなことをすればいい」、「同じ土俵で戦わない」という指原流の渡世術も明かされている。グループ内で競い合う従来の考え方からズレた道をいく彼女が『総選挙』を制したことは、新たな風を感じさせた。
初期メンバーの相次ぐ卒業、衝撃の襲撃事件
この時期、AKB48は間違いなく大きな変革期を迎えていた。2013年は篠田麻里子、板野友美、秋元才加ら初期メンバーが相次いで卒業。そして大島優子が2014年6月9日にラストを飾った。映画『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』(2014年)で高橋みなみは、「(活動が)進めば進むほど孤独になっていく。同志がいなくなってきた。あのときあったものがないなって。もちろん、あのときなかったものもあるけど。何かが終わる」と寂しげな表情を浮かべた。また渡辺麻友が、高橋から「割とあっという間にくるから。(卒業の)順番が」と言われる一幕も。2期生・小林香菜も劇中「(自分は)このままで良いのかな」と迷いを口にしていた。このとき彼女らは、いずれ訪れる決断の瞬間について想いを巡らせていたのではないか。次期エースと呼ばれていた島崎遥香は「私は、次の新しい光る子が出てくるまでの繋ぎで良い」と発言。卒業ラッシュを目の前にして、それぞれのモチベーションが問われる状況になった。
思い返せば2014年は波乱続きだった。2月の『大組閣祭り』は「グループ活性化」と称して、AKB48内のチーム間だけではなく、国内外の姉妹グループへの大異動も敢行。姉妹グループへの完全移籍を「戦力外通告」として捉えるメンバーもいたのではないだろうか。イベント中、ショックのあまり倒れたり、泣き崩れたりするメンバーが続出した。一方で3月29日には、旧国立競技場で単独公演をおこなう最後のアーティストとして、そのステージに立つ快挙を成し遂げた。
5月25日、悲しい出来事が起きた。岩手県で開催された握手会で刃物を持った男がメンバーを襲撃し、負傷させる事件があったのだ。これによりAKB48劇場は休館。握手会なども中止・延期となる事態に。AKB48の「会いに行けるアイドル」というコンセプトを揺るがすものとなった。映画『存在する理由 DOCUMENTARY of AKB48』(2016年)のなかで、「アイドルとファンの距離感」についてインタビューを受けたつんく♂は、「これは今だけのものではない。結果、ジョン・レノンはどうだったのか……。時代のせいにするのは簡単だけど。『スター』『アイドル』になるということを考えなければいけないんだろうなって思います。今の時代はサービス過多なところがあるのかもしれない」と、事件のことを直接的には指していないが、しかしひとつの問題定義をおこなった。