『SIREN PROPAGANDA』インタビュー

予測不能な“新SMTKサウンド”の誕生ーー石若駿らメンバーに聞く、アルバム『SIREN PROPAGANDA』制作秘話

 昨年、デビューアルバム『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』が大きな話題を呼んだSMTK。フリージャズをベースにしつつもあらゆるジャンルの音楽性を飲み込んだノイジーでインテリジェンス、予測不能なサウンドは、チルでメロウな時代の終焉を告げるには十分すぎるインパクトと先進性を放っていた。2021年に入りBlack Midi等が暴れるサウスロンドンのロックシーンが注目を集めたりと徐々に新時代の萌芽が生まれ始めている中で、SMTKの音楽性はますます説得力を持って響き始めている。そして前作から一年余り、ついに届いた2ndアルバム『SIREN PROPAGANDA』はさらなる力強さに満ちていた。無軌道さはそのままに、ヒップホップやヘヴィミュージックの要素が増したその音像は多くのリスナーに鮮烈な刺激を与えるだろう。今回新たにトライした楽曲制作の方法やバンドのチームワークについて、石若駿(Dr)、マーティ・ホロベック(Ba)、細井徳太郎(Gt)、松丸契(Sax)にたっぷりと語ってもらった。(つやちゃん)

「音楽の歴史が勝手に身体から湧き出てきて具現化されてる」

――前作からの変化として、Dos MonosやRoss Moodyの客演によりラップ色が強くなった点が挙げられます。どういった着想から今回の制作が始まったのでしょうか?

石若駿(以下、石若):前作でDos Monosの荘子itを迎えて「Otoshi Ana feat.荘子it(from Dos Monos)」というラップの曲をリードトラックとして作ったんですけど、SMTKのインストゥルメンタルな音楽に荘子itの声のパワーが凄くハマったな、という印象で。今作でも、絶対に誰かをフィーチャーしようと思って、それを想定して曲を書いてきたという経緯がありました。で、誰にラップしてもらおうか? と考えた時に、前作で荘子itは音楽的に共感できる部分がたくさんあったんですね。Dos Monosと僕らでこれからもライブできたらいいねっていう話もしたりしてて。そういう将来的な音楽の行方も想定して、Dos Monos全員とコラボに至ったという感じです。Ross Moodyに関しては、ermhoiがつながっていて。僕の妻も仕事場で一緒にコラボしたりしてたので、まだ若い人たちですけど凄く才能があるなぁと感じていて、オファーすることになりました。

マーティ・ホロベック(以下、マーティ):ermhoiとのコラボレーションでRoss Moodyの楽曲を聴いていて、すぐにコラボレーションしたいと思いましたね。

マーティ・ホロベック(Ba)

松丸契(以下、松丸):今回、「Headhunters(feat. Dos Monos)」という曲は、僕たちとしては新しい試みでした。荘子itさんとレーベルの人と僕と三人で一緒に飲む機会があった時に、どうせ一緒にやるんだったら面白いコラボレーションがしたいよねっていう話をしてて、それが去年の夏の終わりくらいだったのかな。その時からそういう話はあって、じゃあどうやったら面白くできるのかっていうのを考えてたんですけど、SMTKの四人の即興をサンプルとして好きに使ってトラックを作ってもらおうっていうことになって。コンセプトとしてはシンプルですけど、結果として凄く面白くなりました。で、どうせなら(ラップも)Dos Monosとがっつり組もう、みたいな感じになりましたね。

SMTK 「Headhunters (feat. Dos Monos)」 Official music video

――なるほど、即興で録った音源サンプルを荘子itさんに渡して、トラックを作ってもらったんですね。

松丸:スタジオで僕らが30分間即興で演奏したんですよ。あらかじめ内容は一切決めず。それを、荘子itさんが好きなところを選んでサンプリングしてプロデュースしてもらったという感じです。

――実際に出来上がったトラックを聴かれていかがでしたか?

松丸:こんなもん吹いてたんだ、みたいな(笑)。 切り貼りしてるので凄く印象も変わるし、全員一緒に演奏したんですけど、四人全員のトラックの同じ箇所を切り取ったわけではないと思うんですよね。ほんとにそれぞれのパートで好きなところを切り貼りした感じで。

――ただラップを乗せるということだけではなく、トラックの制作過程からヒップホップ的な手法で作られた曲ということですね。

松丸:そうですね。ただ、通常のレコードからのサンプルではなく、荘子itさんもいる場でサンプルされる事を分かっていながら演奏したのと、今言ったようにスタジオで録ったデータをそのまま渡して楽器別に切り貼りできたのがアプローチとして新鮮でした。

松丸契(Sax)

――「Headhunters(feat. Dos Monos)」以外でも、ラップを乗せたことで何か発見があった曲はありますか?

細井徳太郎(以下、細井):「マルデシカク(feat. TaiTan)」はまず僕が全体の曲を作って、皆で演奏して録音して、それに「TaiTanラップしてね」という形で作ったんですね。僕が歌ってる箇所もあって。実は具体的に言うと、くるりの「言葉はさんかく こころは四角」という曲をもっとダークにしたつもりで僕は書いてました。で、それをTaiTanに言ったら歌詞にも「言葉は三角だが、故に四角い心をぶち破る」っていうのを書いてくれて。彼に関しては本当に、リズム的なアプローチもバンドとぴったりだったし、なおかつ曲の根っこの部分をTaiTanの歌詞とラップが浮き彫りにしてくれたというか。「あ、そうだな、俺はこういうふうにして曲を作ってたな」というのがはっきりとして、リズムとかも「こういうふうに叩いてほしい」と駿にお願いしたし、それをTaiTanがより際立たせてくれたし、作曲者として凄く発見があった。曲に奥行きが出て、懐が広くなりましたね。

――近年、またジャズとラップの接近がスリリングな展開を見せているように思います。昨年のアーロン・チューライを筆頭に、今年に入ってからもKID FRESINOやDaichi Yamamoto等、面白い作品が多数出てきていますね。特に石若さんはKID FRESINOのアルバム『20,Stop it.』への参加もありましたが、そういった経験からの影響もあるのでしょうか。

石若:SMTKに関しては、そういった影響とは音楽的にあまり関係なくやっている気はします。

松丸:僕らのスタンスとして、ジャズと何かの融合とか、あまりそういったことは意識していないですね。コンセプチュアルに、文脈的にこういうものを作っていこうみたいな考えではあまりない。曲作りの段階でも、今までバンドとして培ってきたサウンドのもと、もっと自然発生的に音楽を作っている気はします。

――その中でも、今作では「マルデシカク(feat. TaiTan)」や「Love Has No Sound」といった細井さんが作られた曲はギターが特徴的で、それに引っ張られて他の楽器もより面白い化学反応が生まれている印象を受けました。

細井徳太郎(Gt)

細井:先ほどの話だと、バンドとしてはそうですけど、こと僕のギターに関してはわりとジャンルのことは考えていて。「マルデシカク(feat. TaiTan)」だとハードコアな血みどろ系のギターにしようと思ってやっていて、「Love Has No Sound」だと自由な空気があるんだけどもっとブリリアントな雰囲気を出したいなとか。それこそ具体的に言うとRadiohead的なものがあって真ん中がハードコアでまたRadioheadに戻る、みたいな曲なので。「Diablo(feat. 没 a.k.a NGS)」とかも、オクターブ下の音が重なるギターを使っていますが、あれもラップのトラックというのを想定して(低音域が)厚い音を作りました。

――自由で自然発生的なバンドサンドを作っていこうという中でも、細井さんのそういったある種シンボリックなギターが入ることで、他のパートも予想しなかった反応を見せた結果さらに予測不能な音楽が生まれているのかもしれないですね。

石若:彼が自分の好きな音楽の部分を持ち込んでいるのは演奏していても分かりますし、僕自身もそういうところがあるけれど、それは言葉にはしづらいものですよね。言ってしまえば、SMTKのメンバーはジャズがバックグラウンドにあるというのは間違いないと思うんです。ジャズの歴史って100年くらいと言われていますけど、その100年の時の流れというのは、ジャズを好きでやってる人たちはたぶんつながってると思うんですね。いつでも演奏する時にタイムマシンみたいに(過去と現在を)行き来できる。そういう感覚で、好きな音楽もその時の演奏に取り入れたり作曲に取り入れたりということができてるんだと思います。例えば演奏してる時に、「これはもしかしたら1969年のMiles Davis Quintetに近い」って演奏してる僕が思えば、その時の好きな音楽が自分から(自然に)出てきたりとか。そういういろんな音楽の歴史が勝手に身体から湧き出てきて具現化されてるような気はしますね。「ああしてやろう、こうしてやろう」ということよりも、メンバーの身体から出てくる音楽、その人が触れてきた音楽とかが、自然にうまくミックスされて化学反応を起こしてまた新しい音につながってるのかなって。制作してても、毎回いろんな刺激をメンバーからもらうので、それが今作にはすごく活きてる気がします。あと、前作のレコーディングから今回ちょうど1年経っていて、メンバーはそれぞれいちアーティストとして作品を作ってきている。そういう経験値を皆が1年経って持ち込んできてくれたので、また新しいSMTKのサウンドになったのかなと思います。

石若駿(Dr)

松丸:SMTKの4人にジャズのバックグラウンドがあるって話なんですけど、メンバーそれぞれ、月に10回とかライブをやってるんですよね。バンドマンとして見たらライブは多い方なんじゃないかな。中でも、ジャズと呼ばれてるものでもそうでないものでも即興の技術が求められる場が多くて9割くらいを占めているので、瞬時の判断力とより広いスパンで音楽を捉える能力は常に磨かれ続けてるんですよね。新鮮なアイデアを常に出せるような心持ちでいるし、いろんな人と違う現場で共演してるので日頃から絶えず刺激を受けている。常にインプットしながらアウトプットも同時に行っているので、それが曲作りにも直接活きているのかなと思いますね。

細井:今回のレコーディングもかなり即興的でしたね。俺と松丸はそういう現場がほとんど……9割、10割くらいで、駿とかマーティはレコーディングの現場もいっぱいあるし、駿は例えばくるりとかロックバンドでも叩いてる。でもたぶん全部つなげて考えてて、SMTKでも、ロックのハコでロックをやるという時も、ラッパーと決まった尺をやるという時も、その場の空気――例えば「TaiTanはこう考えて演ってる、だから俺はこうやる」「今ステージの空気がこうだからこうやる」――っていうことをやれるのがSMTKのすごさでもあり魅力でもあるかと思います。

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