乃木坂46 松村沙友理、真摯に向き合った10年間のアイドル人生 “らしさ”が詰まったラストステージを観て

 「私の10年はどうでしたでしょうか?」

 松村沙友理の問いかけに、会場は温かな拍手に包まれる。全席に用意されたスティックバルーンではなく、その感謝、敬意を表した拍手という伝え方。「乃木坂46に入って心からよかったと思います。本当にありがとうございました。へへへへへ」と幸せそうに笑う松村とのやり取りに、彼女の10年間が詰め込まれている気がした。

松村沙友理

 松村沙友理とは、乃木坂46におけるオンリーワンのメンバーであった。「御三家最後の一人」「大食い」「名言メーカー」「モデル」「軍団長」「13歳」……松村沙友理像を浮かび上がらせるキーワードは多くある。しかし、そんな一言では収まらない彼女の10年間の軌跡と乃木坂46、そして松村沙友理の確かな未来を約束するいくつもの瞬間が、6月22日、23日に横浜アリーナで開催された『さ~ゆ~Ready? ~さゆりんご軍団ライブ / 松村沙友理 卒業コンサート~』にはあった。本稿では、2日目の23日をレポートする。

 そのタイトルが示す通りに、今回の『さ~ゆ~Ready?』の最大の特徴は『さゆりんご軍団ライブ』と『松村沙友理 卒業コンサート』の異例の2部制にある。

 2014年に結成されたさゆりんご軍団は、軍団長の松村に、副団長の佐々木琴子、大統領の伊藤かりん、社長の寺田蘭世、ラスボスの中田花奈の5人からなる軍団。松村の行動力の高さと自由な発想力は乃木坂46のパロディ楽曲やグループ初のTikTokアカウント開設、単独公演を実現させるべくスタートした配信『#さゆりんご計画中』など、これまでのグループの常識を覆した異例づくしの活動に繋がっていく。すでにグループを卒業している佐々木、伊藤、中田の参加が事前にアナウンスされているのも乃木坂46のコンサートとしては前例のないことだ。

 合戦絵巻調の軍団紹介ムービーと松村の鼻歌による「Overture」で幕を開けた『さゆりんご軍団ライブ』は、松村自身が認めているように約1時間にわたる壮大な茶番である。「ぐんぐん軍団」「白米様」に始まり、街頭インタビュー風のニュース映像、替え歌ブロックを挟み、真夏さんリスペクト軍団との抗争、「解散せーへんで!」という軍団長による嬉しい宣言に至るまで。歌われたのは全9曲。「白米様」や「さゆりんご募集中」といったパッケージ化された楽曲はあるものの、そのほとんどがこれまでのコンサート開演前の映像や配信番組などで披露してきたCD未収録の楽曲。アイドルから離れていた卒業生メンバーを含め、いちから振り入れする苦労も想像させるが、改めて楽曲群を聴いているとそのシュールな歌詞にじわじわと笑いが込み上げてくる。パッケージ化されていないことを逆手に取った、内輪ネタの歌詞。乃木坂46において、ここまでやりたい放題なメンバーは松村が最初で最後であろう。

 真夏さんリスペクト軍団との小競り合いの末に歌われた「大嫌いなはずだった。」(劇場アニメ『好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~』エンディング主題歌)は、2016年に「HoneyWorks meets さゆりんご軍団+真夏さんリスペクト軍団 from 乃木坂46」名義で配信リリースされた今回が初披露の楽曲。コラボソングという定義上、全曲披露の『BIRTHDAY LIVE』からも外れ、4年余りもの間歌われるのが待ち望まれていた。掛橋沙耶香が乃木坂46に入るきっかけになった楽曲として挙げるほど、人気の高いアニソンでもある。初披露のためか、振りを間違え団員の方を振り返る松村。そんな軍団長に笑みをこぼすメンバーの姿がなんとも微笑ましかった。

 JAグループ会長・中家徹氏からの「一生分のお米」に想定する60キロの米俵60俵の贈呈(3.6トン!)、さらにVTRのナレーターを務めた堀江由衣からのメッセージは、松村にとって大粒の涙をこぼすほどの嬉しいサプライズであった。そして、さゆりんご軍団の解散撤回から、最後の曲が「さゆりんご募集中」というのは何とも粋な選曲であり、次へと希望を抱かせてくれる。50年後のライブ開催の約束も然り。開演前や幕間で流れていた新曲(!)の「おはようの歌」も未来に繋がる布石だ。大丈夫、さゆりんごは永遠の13歳なのだから。

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