花譜、念願の有観客ライブで届けた“魔法”とは? 「魔法の無い世界」で見つけた『不可解』の答え

 休憩を挟み、第二部に突入。再登場した花譜は、特殊歌唱用形態「金鶏」へと衣装替えを果たしていた。「金鶏」はキジ科の鳥「金鶏」をモチーフとした衣装で、鮮やかな赤に鋭利な印象で背中に長く伸びたフードの裾が特徴的な衣装だ。

 「金鶏」を身に纏い、「雛鳥」、「命に嫌われている。(Prayer ver.)」を披露。「命に嫌われている。」は、花譜のオリジナル楽曲すべてを手がけるカンザキイオリのVOCALOIDの金字塔的楽曲。音数を絞り、花譜の歌声を最大限生かすようなPrayer ver.として丁寧に歌い上げた。

 「『雛鳥』は高校に受かって活動を再開した時に投稿した曲。また投稿できる嬉しさとみんなが覚えてくれているかなというワクワクが混ざっていました。あの時から聴いてくれている人はいるのかな?」という言葉に、客席からは拍手でのレスポンスが上がった。

 そして、改めてQ1からQ3からなる今回のライブについて説明する花譜。2ndライブである『不可解弐』は本来2020年にフィジカルライブとして行う予定だったものが、コロナの影響でQ1、Q2という2部構成に変更し、バーチャルライブとして開催された。それまでの蓄積をさらに生かしてQ3までの三部構成に変更し、フィジカルライブとして開催したのが今回の『不可解弐REBUILDING』だ。

 「Q1はコラボが盛り沢山で、Q2ではV.W.P(花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜によるグループ)が誕生して、Q3は歌を全部自分でやりきるという原点回帰でした」

 すべて花譜一人で歌う、というスタンスに立ち戻ったQ3。その気概を表すように、ライブは終盤に向けて一気に加速していく。

 loundrawによる、様々な世界の花譜を描いた2Dアニメーション映像が流れる「過去を喰らう」。〈ウグイスが鳴いてゴミになった制服が夜空になって舞ってった〉と歌う「過去を喰らう」に対するアンサーのように〈ウグイスが鳴いても/さよならなんかしてやるかよ〉へと歌うのは、新曲「海に化ける」。醜い現実へ抵抗する気持ちを描いた「不可解」、その続編となる新曲「未観測」で〈我らは不可解〉と、抗う姿も肯定するような歌を歌ってみせる。

 最後に花譜は制服に衣装を替え、「私の等身大の歌を聴いてください」と「帰り路」そして「そして花になる」を歌い上げ、最後にこう締めくくった。

「今日こうして会えたことが本当に嬉しい。今回のライブで、少しでも歌を通してみなさんに何かを返せていたら嬉しいです。肝心なときにはあなたのそばに寄って手を握ることも抱きしめることもできないですが、声を聞いてくれるあなたと、その歌を標識に待ち合わせができたらと思っています。たとえ魔法がなくても、魔法がない世界に魔法のような出来事を届けたい。魔法はみんなの心の中にあります。みんなが作る魔法。それが不可解。ここまで辿り着いてくれてありがとう」

 この世界には魔法はない。ただ、素晴らしい音楽や物語に没入しているその間、嫌なこと、辛いことから解き放たれる瞬間というのは確かにあって、それは魔法と呼んでもいいものかもしれない。だとすれば、ステージの上にいるけれどいない、実態はないけれどそれでも存在する、そんな花譜の存在を信じるということこそが、魔法の第一歩とも言える。

 食い入るように花譜を見つめ、盛大な拍手を送る観客の姿がそれを証明していたように思う。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。Twitter(@erio0129)

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