CAPSULE 中田ヤスタカを紐解く“7つの質問” DTM先駆者が振り返る、特異な制作スタイルが常識になるまで

<質問5>ストリーミング全盛の音楽シーンに対して思うこと

今まさに時代の過渡期を感じますが、ストリーミングの浸透によって、音楽シーンは変わってきたと思いますか?

中田:まさに今ですよね。配信やストリーミングサービスをCDに変わるメディア扱いしていた時はまだそんなに変化もなかったんですよ。でも今は、逆にストリーミングサービス以外にどこで音楽を楽しむの? となりましたよね。ストリーミング自体はただの仕組みなので、それをCDのほうが良いとかレコードの方が良いとか、そんな話ではないと思っています。どうオススメされるかということにおいて、過渡期だなって思っています。かつては、宇田川町のとんがったレコード屋とかはさておき(笑)、大体のショップは同じような商品しか売っていなかったじゃないですか。

ーーはいはい。

中田:でも、今、配信サービスの多様化で音質も違えば、紹介のされ方も違えば、歌詞の表示、デザインや画面のUIすら異なるんですよ。体験が異なりますよね。あと、作品とリスナーを結びつける存在としてプレイリストの影響も強くて。お墨付きや聴かれ方の提案が大事というか。最近またラジオなど音声コンテンツも盛り上がってきていますけど、語られることの大事さというか、信頼やレコメンドって大切だなと。そんな聴かれ方が増えているなって思います。自分でいろんな音楽を探す人は、いつの時代でもそんなに多くはないので。僕は、オタク気質なので気持ちはわかるんですけどね。

ーー中田さん、以前から音楽の聴かれ方や作品の届け方の重要性を語られてきましたよね。

中田:多種多様な配信サービスがあるなか、どこでどういう風に出会うかって大事じゃないですか。たとえば面白い写真が1枚あって、それをTwitterなのかインスタなのかTikTokに出すのか、どれに向いているのかっていう。音楽もYouTube受けする音楽、Spotify受けする音楽、Apple Music、LINE MUSIC受けする音楽など、様々ですよね。

<質問6>『シドニアの騎士』原作者から受けた影響

CAPSULE×シドニアの騎士 - "ひかりのディスコ" 特別映像

CAPSULE、6年ぶりの最新作「ひかりのディスコ」がリリースされました。本作は、2021年6月4日に公開された漫画家、弐瓶勉先生監修による映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』主題歌として書き下ろしとなりました。『シドニアの騎士』における、ハードSF要素はCAPSULEが醸し出すエレクトロサウンドと多くの共通点を感じました。『シドニアの騎士』における抽象的な描写とリアルな描写が折り重なる独特なる世界観。中田さんは、弐瓶勉先生のどんなところに魅力を感じ、影響を受けましたか?

中田:僕が最初に弐瓶先生の作品にハマったきっかけは漫画『BLAME!』だったんですよ。

ーー『BLAME!』もハードSFにぶっ飛んでいるというか、衝撃シーンの連続で。

中田:セリフがほとんどないですから。この作品が面白いなと思ったのは実際にどうなのかを考えられるところにあって。世界観や設定を超えたところで、なぜそうなのかの理由が用意されていると楽しめるんです。そうじゃないとファンタジーになっちゃうんで。あえてエンターテインメントって言いますけど、僕の中では現実逃避なんですよ。現実に向き合いたくないから楽しむもので、現実の充実を補完するものではないんです。たとえば、ポップミュージックで歌詞に共感したり同調するということを僕はできないんですよ。そもそも曲を聴いていても歌詞が言語として入ってこないタイプなんですね。

ーーうんうん。でも、中田さんは歌詞を書くの上手ですけどね。

中田:ははは(笑)。要は、その世界の主人公に共感したりってのはないんですね。あくまで現実逃避のためなんで。弐瓶先生の作品は、違う世界を提供してくれるんです。緻密な設定に基づいている魅力があって。それこそいつも読んでいた作品なので、いつか関われたらいいなって思っていたら、たまたま知人がデザインをやっていて。弐瓶先生とご飯を食べに行くことになりまして。そこで、もっと前の作品から何かご一緒できていたらよかったですよね、というような話をして頂けて、それで今回、主題歌と挿入歌をやらせていただきました。弐瓶先生の活動スタイルにはすごくシンパシーを感じることも多いです。

ーーそうなんだ。

中田:弐瓶先生は、基本アシスタントを入れていないんです。現在連載中の『人形の国』も一人で書いていると伺って。それは、自分が一人で作品を完結することとつながっていて。なんかわかります、って。弐瓶先生は日本を代表するSF漫画家なんですけど、ご本人もSFマニアだし、僕もSF大好きなんで。

ーー昔、中田さんは取材で、地球と宇宙の間をケーブルでつなぎ、電車で移動するように気軽に宇宙への行き来が可能になる宇宙エレベーターについて熱くお話しされてましたね。

中田:ははは(笑)。いろいろ弐瓶先生と語り合うんですけど、“だよねー”ってなるんですよ。それは楽しい機会で。

ーー弐瓶先生のどんなところを特に魅力的に感じたりするんですか?

中田:何をしたらもっとたくさんの人が受け入れる作品になるかなんてわかっている方だと思うんです。でも、自分の作品はこうあるべき、というのを同時に持たれている方で。そのバランス感覚に共感するところが大きくて。実際、難しいことをクリエイターは考えるんですけど、面白さを感じる気持ちって大事なんですよ。弐瓶先生はそれを諦めていないんです。パワーがいることだと思うんですけど、それは作りたい作品を作っているからなんだろうなっていう濃度の濃さを感じますね。心強いんですよ。自分も頑張らなきゃって思いますから。

<質問7>「ひかりのディスコ」制作時に意識したポイント

CAPSULE最新曲「ひかりのディスコ」は、サウンド感に一巡りしたのか小文字のcapsule時代の要素を感じました。中田さんは、自らのディスコグラフィーを顧みたり、意識されたポイントはありましたか? 

中田:「ひかりのディスコ」という曲は、今自分が気持ち良いと思えるかについてこだわりました。3世代分ぐらい、それぞれが経験した時代において違った解釈ができる作品だと思いますね。どの時代に思い入れがあるかで答えが変わってくると思うんですよ。それこそ、先ほど話した好きなテクノロジーをどの時代で切り取るかと同じなんですけど、僕が今回大事にしたのは時代を限定していないことなんです。でも、80年代だと思う人はいるかなと。MVで車をあえてHondaプレリュードを使っているんですね。僕らが子供の頃に発売された車で。それこそ、冒頭にカセットテープも出てきますし。ただ、CAPSULEが2000年代にやっていたサウンド、たとえば「Eternity」や「Robot Disco」でもいいんですけど、今新譜で発売したら今の時代っぽいよねって言われると思うんです。でも、その辺がCAPSULEの原点な人にとっては、それは、2000年代のCAPSULEだって思う人もいると思うし。

ーーなるほど。

中田:それはサンプリングと同じなんですよ。MVでHondaプレリュードを使っているんだけど、80年代当時なかった道を走っているんです。それって、サンプリングしたブレイクビーツに最新のシンセサイザーを合わせている感覚に近いんです。違う空気感が混ざっている面白さというか。完全に当時を再現したいわけじゃないんですね。僕は、“よく見るとおかしいぞ”って感覚が好きで。

ーーいい意味での違和感だ。フックポイントなんですね。

中田:そうですね。それこそ、MVに映っているレインボーブリッジは当時まだなかったものなので。

ーーしかも、新曲「ひかりのディスコ」のリフに10年前のナンバー「WORLD OF FANTASY」のフレーズを使われていて。

中田:SFなんですよ。現実にはないけど、こうだったらいいなっていう。CAPSULEを作っているって、こういうことなんです。シーケンスはあえて入れてみました。この感じわかるぞってね。実際に聴き比べると、今の時代だったら「ひかりのディスコ」の方が聴きやすいんじゃないかな。今の時代で、僕のBGMにしたい音楽は新曲の方ですね。

ーー面白い創作スタイルですね。

中田:今回、当時の僕がダサいなって思っていたことをあえて取り入れていたりもします。時が経つと感覚って変わるんだなって。今回、FM音源のベースを使っていて。FM音源のベースって高校時代はダサいって思っていたんです。CAPSULEを結成したときって90年代だったんで80年代的なセンスはすべてダサいって思っていたんですよ。キラキラしたエレピとか。過去の人が聴いている音楽というか。各世代そういうのがあると思うんですけど、先輩と同じ音楽を聴きたくない、自分の世代は自分の音楽を見つけたいっていう。ドラムの音も、当時生音を目指してドラムマシーンが進化していた過程のサウンドというか。ハウスのブームがあって909系に。あ、サンレコみたいな話になっちゃったね(苦笑)。

ーーははは(笑)、全然大丈夫ですよ。

中田:時代によってドラムの音って変わっていったじゃないですか。過去の自分が否定していた時代の音楽を今の自分がいいなと思っている面白さを感じながら作ったのが「ひかりのディスコ」なんです。自分のリアルタイム的なモノっていろんな時代に散らばっているじゃないですか。どの時代だから嫌だって思うかって、世代ごとにそれぞれだと思うんです。たとえば10代の頃って、好きなものと嫌いなものがはっきりと分かれているんですよ。これは古くて、これは新しいというか。自ら体験している経験が少ないので。でも、古いものが増えていくと、何段階かで増えていくんですよ。そうするとある種、20代の頃と30代の頃で、20代の頃に古いと思っていたことって、まだ僕が自分で作ったことがない古さなんですよ。

ーー20年が経って自分で作った作品にも流行りの周期が訪れたということですね。

中田:そうそう。今は自分がプロとして活動してきた時代が過去に含まれているんです。だから今のCAPSULEは、当時のセンスも織り込みながらこんな感じになりました、っていうことです。

ーー面白いなあ。タイムマシン感覚だ。

中田:音楽を作る上で、過去の面白いモチーフはないかなって思った時に自分が作っているフレーズが一番いいなって思ったんです。今回が初めての試みですね。

ーー自分の作品だったらサンプリングするにも許諾はいらないし。

中田:これまで、きゃりーぱみゅぱみゅで初期の時代のテイストを用いたことはあったんですけどね。きゃりーの初期ってトイピアノとかCAPSULEっぽいところがあって。あれはCAPSULEの初期にやれなかったリベンジを果たしたことでもあって。そういうのとはまた違って、「自分自身がもし今二十歳だったら」なんて自分を参考にしているところがあるんです。なので、今回デビュー曲のようにフレッシュな「ひかりのディスコ」が生まれたのだと思っています。

ーーめっちゃくちゃ面白いお話ですね。中田ヤスタカさんのなかでは、今回のアプローチはとても整合性が取れているということですね。

中田:やっとここまで時間が経ってくれたというか。6年ぶりということが良かったのかもしれませんね。時間が必要だったんだろうなって。この6年間、いろんな人とコラボして、いろんな勉強をさせてもらったり、吸収することも多かったし客観的にもなれたなって。時間が経過しないとできないことってあるんだなって実感しました。

ーー時間芸術である音楽の面白さですね。だからこそ過去の自分に向き合えたという。そして、もう一つ注目ポイントなのですが、映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』で、「うつせみ」という楽曲が大事なシーンで挿入歌として流れます。アンニュイでスローな曲というCAPSULEとして新境地なナンバーとなりました。

中田:そうですね。この曲は元々はなかった曲なんです。弐瓶先生と話していたときに“こんなシーンがあるんだけどどうですか?”って提案をいただいて。僕は原作を何度も読んでいるので、あの時のあのシーンかって、使われ方も自分でイメージできたので。なので、漫画を読んだときに、すでに流れている曲もイメージできていたんです。それを形にしました。なので、CAPSULEの今後で考えていたサウンドとはちょっと違うんですけど、でも、自分が『シドニアの騎士』という作品で具体的にイメージできた曲なんですね。今回の出会いがなければ生まれなかった曲なので、きっかけって面白いなって思います。

ーーワクワクしますね。こうやってCAPSULE 20周年となりましたが、今年のCAPSULEの活動は今後どんな感じになっていきそうでしょうか?

中田:楽しみたいですね。あんまり、頑張らな……、あ、頑張らないといけないんですけど(笑)。最初の話に戻りますが、大事なのは“何用の音楽か?”ってことだと思ってます。頑張りすぎると、自分の外に出すぎてしまうことがあったんですね。それを自分に取り戻した感があります。すぐにまた真逆のこと言って変わるかもしれないけど(笑)。でも、変わるときはちゃんと丁寧に事前に説明をするのでワガママじゃないと思っています(笑)。

ーーははは(笑)。さらなる展開を楽しみにしていますね。

中田:ありがとうございます。

■キャンペーン情報
ワーナーミュージック・ジャパンの公式Twitterをフォローして、Apple Music / Spotify / LINE MUSIC、いずれかの音楽配信サービスのTwitterシェア機能を使って「ひかりのディスコ」をシェア投稿。キャンペーンハッシュタグ「#ひかりのディスコCP」をつけて投稿すると、抽選50名にジャケ写やMVで使用されている「ひかりのディスコ」のオリジナルカセットテープがプレゼント。カセットテープのA面には「ひかりのディスコ」オリジナル音源、B面には「ひかりのディスコ」カラオケ音源が実際に収録。キャンペーンは6月17日23時59分まで。

■配信リリース情報
「ひかりのディスコ」
2021年6月4日(金)リリース
配信リンクはこちら

■公開情報
映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』 
6月4日(金) 新宿バルト9ほか 全国ロードショー
公式HP https://sidonia-anime.jp

<キャスト>
谷風(たにかぜ)長道(ながて):逢坂良太
白衣羽(しらうい)つむぎ:洲崎 綾
科戸瀬(しなとせ)イザナ:豊崎愛生
緑川 纈(ゆはた):金元寿子
岐神(くなと)海苔夫(のりお):櫻井孝宏
岐神(くなと)海蘊(もずく):佐倉綾音
仄(ほのか) 姉妹:喜多村英梨
小林艦長:大原さやか
勢威(せいい)一郎:坪井智浩
落合:子安武人
ヒ山ララァ:新井里美
サマリ・イッタン:田中敦子
佐々木:本田貴子
弦打(つるうち)攻市(こういち):鳥海浩輔
丹波新輔:阪 脩
田寛ヌミ:佐藤利奈
科戸瀬ユレ:能登麻美子
山野 稲汰郎(とうたろう):内田雄馬
浜形 浬(かいり):上村祐翔
端根 色葉(いろは):水瀬いのり
半間 乙希(いつき):岡咲美保

<スタッフ>
原作/総監修:弐瓶 勉『シドニアの騎士』(講談社「アフタヌーン」所載)
総監督:瀬下寛之
監督:吉平 "Tady" 直弘
脚本:村井さだゆき/山田哲弥
プロダクションデザイナー:田中直哉
アートディレクター:片塰満則
CGスーパーバイザー:石橋拓馬/上本雅之
アニメーションディレクター:永園玲仁
美術監督:芳野満雄
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽:片山修志
主題歌/挿入歌:CAPSULE
作詞/作曲:中田ヤスタカ
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:クロックワークス
製作:東亜重工重力祭運営局

■関連リンク
CAPSULE Official Site http://capsule-official.com
CAPSULE Official Twitter https://twitter.com/CAPSULEOFFICIAL
ワーナーミュージック・ジャパン Official Twitter:https://twitter.com/warnermusic_jp

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