マキシマム ザ ホルモンの“顔面指定席ライブ”が面白すぎた 当事者全員が加担した前代未聞のステージを振り返る
最近のマキシマム ザ ホルモンはなんだかややこしい。まず大きいのは単純にライブが少ないこと。ナヲの出産、ダイスケはんのヘルニア手術、マキシマムザ亮君の体調不良、さらにコロナ禍までが重なって、近年はなかなか長期ツアーも行えない。もっとも体は資本。無茶は禁物。仕方ないといえば仕方がないことだ。
それならばと別のところで力を入れてみれば、亮君の執念と怨念のようなものが入りすぎて企画が膨らみまくり、2018年の作品『これからの麺カタコッテリの話をしよう』は漫画+CDの書籍になっていたり、また前代未聞のフランチャイズ制が導入され2号店バンド(コロナナモレモモ)が生まれていたりする。さらに最新作『ESSENTIALS』は2号店によるラストシングル付きのマスクセット。膨大なオマケの詳細は笑うしかなかったが、そもそもこの作品をどう受け止めてよいのか、真に求められているのはホルモンの新曲じゃないのかと、考えてしまうことは多かった。まだギリギリ面白がれるが、普通じゃ嫌だという自意識の強さが、もはや引き返せないところまで来てしまっている印象だったのだ。
全席・顔面指定席ライブ『面面面~フメツノフェイス~』と題されたこの全国3公演も、HPを見るとずいぶんややこしかった。ファンがそれぞれ自分の顔を分析してチケット抽選に挑むのだが、その面(ヅラ)カテゴリーも「コッテリー(濃い目)」「壮年隊(ミドルエイジ)」「乙女組(美人女子)」「太陽族(スキンヘッドor薄毛)」「どっぷりオカン(オカン感さえ漂っていれば未婚可)」などなど、ユーモア溢れる多種多様ぶり。それぞれのカテゴリーには手作りマラカスや、キッチン用品など面エモートスキルと銘打った鳴り物アイテムの持参が要求されており、応募フォームを全部読み切るだけでも相当な時間がかかる。ちょっとライブ見てみたかっただけなのに、程度の気持ちでは心が折れる情報量だ。
もしくは、そちらが真の目的かもしれない。ちょっと見たい、程度の好奇心は要らない。こちとら客寄せパンダにあらず。本気で何がなんでもマキシマム ザ ホルモンだけが見たい。そういう奴らの顔が見たい。そういう奴らだけと特別なことをしたい。そんな気持ちが原動力だとすれば……結果は大成功である。
家でひとりペットボトルに柿ピーなど詰めながらマラカスを作っている時は、でも声は出せないんだよなぁ、と虚しさに襲われた人もいたかもしれない。がしかし、当日ホルモンT装着で集まってみれば、久々の空気に気分は高揚。そして会場で全員に配られる顔の見える透明マスク、これがすこぶる良かった。馴染みのファン同士でも初見の腹ペコ(ファンの呼称)でも、互いの顔がちゃんと見えるというだけで気分はどれほど明るくなるのか。効果は想像以上だ。
さらには「ヘドバンおじさん」こと花団・かずによるの前説、カテゴリー別に指定された面エモートスキルの練習タイムが最高だった。よく見ればPCキーボード持参を指定された「顔だけは意識高い系」なんていう面カテゴリーもある。こんなにかさばるモノ、ネタにしかならないモノを本気で持ってきた連中がいるという事実だけで笑いがこみ上げてくる。「顔作って!」「本気の顔で!」などと言われながらPCキーボードを叩き、マラカスを振ってジャンプを続けていれば……何この不思議な一体感。椅子席にもかかわらずフロアには異様な熱気が生まれている。椅子席なのに、いや、むしろ規則正しい椅子席だからこそ、このバカバカしき面カテゴリーのひとつを俺が担っている、というプライドすら生まれてきそうである。虚しさなんてどこかに霧散。メンバーの登場前から、すでに全員がホッカホカの笑顔である。
本来やらなくてもいい、ちょっと面倒なハードルを設けることで全員を共犯関係に巻き込んでしまう。ここまで来たらこの祭りに全力で加担しようと思い込ませていく。ホルモンがこの日やったのはそういうことだった。一発目から観客のノリは最高潮。KT Zepp Yokohamaの壁を震わせるダウンビートには全力のヘドバンで挑み、はじけるサビのメロディには面エモートスキルで呼応する。モッシュピットでの肉弾戦にならないことが、「ここで手拍子!」「ここでジャンプ!」といった統制にも繋がっていた。そして、その光景を見つめるメンバーの晴れやかな表情たるや。ダイスケはんが語っていたが、普段のフロアが密であるぶん「こんなにみんなの顔はっきり見えるの初めてや!」。客とバンドの両方にとって、この企画は吉と出たようである。
曲間に挟まれるのは客の面(ヅラ)いじり。自薦で選んだカテゴリーなので笑いは変な方向に転がりはしない。食いしん坊ヅラの集まる「カロリーメイツ」はそれぞれ持参した袋入りの菓子を誇らしそうに披露していたし、2階席前列に集められた「どっぷりオカン」の女性たちは懐かしの「騒音おばさん」布団叩き芸(?)を即席でやるはめに。そのための布団までを用意したバンド側の準備も凄いし、即席ながらノリノリで「引っ越し! 引っ越し!」と布団を打てるファンの瞬発力も素晴らしい。誰も傍観者にさせない。全員当事者にさせてやる。そういうバンドの心意気は200%の濃さで伝わってきた。