結城アイラ、「苦手だった作詞」を“武器”に変えて切り開いた道　『聖女の魔力は万能です』音楽プロデュースの挑戦を語る

文・取材＝永堀アツオ、写真＝林直幸

コンプレックスを受け入れてもらえる幸せ

ーー歌唱は、結城さんが2018年からサウンドプロデュースを務めてきたNOW ON AIR（NOA）が担当しています。

結城：作詞をしたり、楽曲を選んだりはしてきたんですけど、NOAちゃんに作詞作曲をさせていただくのは今回が初めてだったんですよ。今までNOAちゃんが歌ってきた楽曲ともちょっと雰囲気が違ったので、最初、戸惑わせてしまうかもという心配もあって、初めてプリプロをやったんですよね。で、私がピアノを弾きながら、ボイトレのようにひとり一人に歌ってもらって。レコーディングの日までに乗り越えてほしい課題も話して。だから、本人たちは一番練習した曲だと思います。

ーーメンバーがコーラスもやってますね。

結城：コーラスワークを大事にしようっていうことで、もりもりに入れさせていただきました（笑）。

ーー（笑）。新芽のような瑞々しさもありますし、対比として、いいバランスですよね。

結城：そうですね。作品に出てくるセイちゃんとアイラちゃんも年齢が離れていて。偶然にも私とNOAちゃんもそういう関係性なので、そこも意識できていたと思います。

ーーアニメはどう楽しんでほしいですか？

結城：アニメは日常の大切さであったり、気負わずとも楽しい生活ができるんだよっていうのを描いているので、本当ににのほほんとしながら見ていただけるんじゃないかと思います。オープニングはとにかく癒されてほしいですし、エンディングは明日も楽しんでいこうっていう気持ちになっていただけたらいいなと思います。

ーーそして、このOP主題歌を表題にしたシングルがリリースされます。シングルとしては、4年ぶりになるんですよね。

結城：2020年にミニアルバムを出させていただいたり、作詞でいろんな作品に携わらせていただいているので、あんまり久しぶりという感じがしないんですよね。

ーー今、仰った作詞家として、多数の人気アニメに作詞家として携わってることは、ご自身にどんな影響を与えていますか。

結城：2015年から作詞家として活動させていただいているんですけど、ほんとにそんなことになるなんて全然思っていなかったんです。私、もともとは作詞が苦手な方だったんですよ。だから、今でも不思議な感じはしますけど、きっと私に必要な要素だったんだろうなと思います。子供の頃からシンガーソングライターを夢見て、頑張ってきて。でも、途中で、私、作詞できないかもと思ったことがあって、結城アイラとして、歌手だけでやっていこうとした時期があったんですね。それが、巡り巡って、作詞をやらせてもらえる機会をいただけて。これだけ長く、いろんな作品に携わらせていただけているということは、自分にとってすごく必要なものだったんだろうなって思います。

ーー苦手としてたものが評価されてることはどう感じてます？　

結城：よく、自分のコンプレックスを強みにしようとか、チャームポイントにしようって言われるじゃないですか。それと似てるのかもしれないです。無理だ無理だと思っているからできなかったけど、そこって実は強み　にもなり得る部分だったんだなって、今、振り返ればそう思うことができる。でも、本当に一生懸命、とにかくやるぞっていう気持ちで今の今まで走ってきたので、今でも「私の作詞すごいでしょ！」とは思ってないですが…いや、思ってないと皆さんにお届けするのに失礼だな！思っていますよ（笑）。

　とにかくその時に出せる全てを出しているつもりですし、全てが誇らしい作品たちです！だけど、コンプレックスだったことが、いろんな方に受け入れていただけるのは本当に幸せなことだと思うので、何かコンプレックスを克服したいっていう人たちの励ましになったら、すごい嬉しいなって思います。

ーー作詞家として活動することで何か変化も起きましたか。

結城：作曲も全然してなかったんですけど、作詞家として活動できるようになってから、もう一度、曲も作ってみようかなっていう気持ちになったんですよね。だから、一度は諦めたシンガーソングライターという道が、またこうして、夢を見させていただけているなって思っています。

ーーシングルのカップリング「トレノワール」では作詞作曲をしてますね。

結城：そうなんです。「Blessing」が、朝のイメージがあったので、夜っぽい、おしゃれサウンドを作ろうと思って。

ーーまさに都会のナイトミュージックですよね。

結城：（笑）。「トレノワール」はフランス語で「とっても黒い」という意味なんですけど、ノワール＝黒は夜にも通じているし、ほんとに深い夜というのを表現したくて、このタイトルから作りました。で、「Blessing」が朝の要素だったので、朝と夜が恋をしたらどうなるのかな？　みたいなイメージで作り始めました。

ーー〈黒を着たあなた〉＝自分の心の中の闇かと思ってました。

結城：光と闇と捉えてもいいかもしれないですね。朝と夜は結局、二人が相入れることはどうしたってできない。だから、惹かれてはいるけど、最後は背中合わせで、その背中に感じる温もりがあればいいよっていう、ちょっと切ないラブソングになってます。それが、心の中にある陰と陽でもよくて。誰の心の中にも陽の部分と陰の部分がある。それは、相入れないものだけど両方、必要なんだよってことを言いたくて、この歌詞になりました。

ーーサウンド的には、ブギーファンクのようなムードになってます。

結城：今回、テクノボーイズ（TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND）の石川（智久）さんが編曲してくださったのですが最初に私が作ってたデモから、本当に格段にカッコよくしてくださって。ファンクやAORになってるんですけど、石川さんと今までご一緒させていただいた時もこういう楽曲になったことはなかった。初めての感じなので、すごく興奮しました。

ーーもう1曲、「Blessing (English Ver.)」は5月26日に配信限定でリリースされます。

結城：日本語では表しにくい言葉もあるから抽象的な感じの歌詞になることもあるんですけど、英語だとさらに深いところまで言えるんじゃないかって思って、英語の訳詞を作ってもらって。自分の夢や好きな人が、どれだけ大事なのかということを歌ってるんです。そういう想いがあれば、必ず、願いは叶うのよと言い切っているので、英訳の歌詞も楽しんでほしいなと思います。

ーーとても挑戦的な1枚が完成して、今後はどう考えてますか。

結城：改めて、シンガーソングライターとして頑張りたいです！　こういう機会をいただけて、これはある意味私もたくさんの方々の想いで“召喚”されたのかなって思いました。これまでは作詞とサウンドプロデュースだけをしていたNOAの曲を、自分で書かせていただいた経験は大きかったです。今の自分が出せるだけの力をどんどん注ぎ込まないと相手には伝わらない部分があることもわかったし、プロデュースの楽しさがよりわかったし、責任感もさらに出てきたので、今後、いろんな作家さんとコライトもどんどんしながら、NOAはもちろん、他のアーティストのプロデュースにも関わらせていただけたらなと思いました。とにかく、いろいろと勉強しながら、15年目に向けて頑張りたいなって思ってます！