渋谷すばる、人生をかけた音楽の凄み 全身全霊の歌を届けた無観客生配信ライブレポート
〈歌が必要だ 俺にはどうしても 歌が必要だ 君にもきっと〉
そうアカペラで歌う渋谷すばるの姿が、目に、耳に、脳に焼き付いて離れない――。
4月21日、渋谷にとって初の無観客生配信ライブ『ONLINE LIVE 2021「NEED」』が開催された。新型コロナウイルス感染症の影響で、昨年のツアーを途中で中止し、さらに今年予定していたツアーの中止も決断した渋谷。
そのなかでも「今、自分自身ができることをしたい」「今の気持ちを伝えたい」という想いのもと、今回の配信ライブを企画したという。
開演時間の30分前には、事前に収録されたオーディオコメンタリーが放送されるという、渋谷らしいサプライズも。今となっては貴重なものになった、約2年前の旅の様子を収めた映像が流れる。
「空の青が日本じゃ見たことない青やねんな」「自分は自分でいいんだな」「いいとろこもあればそうじゃないところもがあるのが当たり前」……旅を通じて抱いた感想を述べる過去の渋谷の言葉に、現在の渋谷が「自分で見入ってしまった」「今みると感じ方が全然違いますよね」と感慨深く語りかける。
「いろんなことが変わったよね。だって“配信ライブ”なんて言葉も言ったことなかったで」と笑う。確かに、あのころとはいろいろなことが変わってしまった。だからこそ、変わらぬ「歌を届けたい」という想いがさらに強く、揺るぎないものになったとも言える。そんな強い決意を、この配信ライブの開催に感じることができた。
久しぶりのステージを踏みしめながら
「まもなくスタートです!」渋谷のナレーションの後に映し出されたステージは、東京ガーデンシアターだ。本来ならば多くのファンで埋まるはずの客席はガランとしている。その様子も包み隠すことなく見せていく。むしろそのリアルな風景が、どんな状況であっても魂を込めて歌い続ける、渋谷の芯の強さを際立たせた。
聴こえてきたのは、アカペラで歌い上げる「Sing」。スタンドマイクに向かって目をつぶり、〈歌が必要だ〉と何度も伸びやかに歌い上げる。ごまかしなし、小細工なし。首筋に浮き上がる血管が、揺れる喉が、命の燃焼を感じさせる。やっとステージに立てた喜びが溢れたのだろうか、ふいに見えた微笑みにこちらまで頬が緩んだ。
続いて、ギター演奏が静かに加わり始まったのは「Earth Color」だ。作っては壊す、人の飽くなき欲望。明日もまた地球で生きていく私たちが、今こそ向き合わなければならない歌だ。「この瞬間で全部報われる、本当! あー、できた。世界が明るい!」と、この曲が完成した瞬間を収めた、動画『【あなぐらTV】 第2回 14話「2曲目完成」編』で渋谷の様子を思い出す。どれほどの試行錯誤の末に、このストレートでシンプルなメッセージが生まれたのかと思いを馳せるて心に沁みる。
さらに、「BUTT」では、渋谷の心の高鳴りを音にするブルースハープが登場する。腰を落として、しっかりとステージを踏みしめて吹き上げる姿は、まさに“渋谷すばる参上”と言わんばかりのシルエット。〈ギリギリ〉〈キリキリ〉と繰り返し歌われるリズミカルな歌詞には、このギリギリでキリキリと胃が痛むようなエンタメ業界を取り巻く風潮への反骨精神が見えるようだ。
そして、渋谷が聴く者の肩をガシッと組むように歌い上げる「たかぶる」へ。〈俺には分かるぜ お前の気持が〉と圧倒的な味方感が嬉しい。誰もが自分らしく生きたいと願う現代、それでも多くのノイズが耳に入ってくる。ここでオーディオコメンタリーで話していた「人それぞれの価値観、正解があるから、受け入れ合って、認め合って共存していくべきだよな」の言葉ともリンクしてくる。〈誰だって誰かの理想を生きられねぇ〉、全くもって、そのとおりだ。