『Wonderland』インタビュー

lyrical school、ヒップホップアルバムとしての自信 hime&risanoが明かす“新しさ満載の制作秘話”

 ガールズ・ラップグループ lyrical school(以下、リリスク)が、現在の5人体制としては3枚目となるニューアルバム『Wonderland』を完成させた。

 昨年4月にはEP『OK!!!!!』をリリース。その前後にYouTubeにて配信したライブシリーズ『lyrical school REMOTE FREE LIVE』が大きな話題を呼び、さらに2曲の先行配信シングル「Bright Ride」「FIVE SHOOTERS」も好評を博している彼女たち。昨年秋以降に急ピッチで制作が行われたというアルバム『Wonderland』であるが、今回はEP『OK!!!!!』から引き続き参加のKick a Showやvalkneeといったクリエイター勢に加えて、chelmicoのRachelや、ヒップホップをベースにしながらクロスオーバー的に活躍する大注目のプロデューサー KMも参加するなど、豪華な制作陣の顔ぶれからもさらなる攻めの姿勢が伺える。そんな最強のバックアップ体制に刺激されるように、リリスクの5人も着実にバージョンアップを図り、メンバー自身も驚くほどの新たな魅力を見せてくれている。

 今回は、そんなリリスクの中でも随一の日本語ラップマニアでもあるhimeと、最近では人気テレビ番組『フリースタイルティーチャー』のアイドルラッパー育成企画に出演するなどラッパーとしての実力にますます磨きのかかっているrisanoの2人に登場してもらい、アルバムの制作過程やアーティストとしての成長について、インタビューを行った。(大前至)

「KMさんがアイドルと一緒にやるなら、うちらが良かった」(hime)

ーーリリスクは基本的にテーマやコンセプトありきでアルバム制作に入るそうですが、今回は事前にプロデューサーからどのような話があったのでしょうか?

hime:実は今回初めて、コンセプトを聞かずにレコーディングに挑みました。今まではガチガチにテーマがあって、そのコンセプトの説明を受けながら、制作の過程でみんな自分のものにしていく感じだったんですけど、今回はそれがなくて、曲が順次ポンポンと来るような感じだったので。「どんなアルバムになるんだろう?」って、模索しながら作っていった感じでしたね。

ーー最終的にどのタイミングでテーマが明かされたのでしょうか?

hime:中盤くらいに取材か何かのタイミングで、プロデューサーと話すタイミングがあって。そこで聞くことができたんですけど。

マネージャー:途中でやんわりとした裏テーマみたいなものを渡されました。

risano:私はその裏テーマが自分の中で想像がつきやすいものだったので、それ以降はすごくやり易かったですね。いつもはテーマが難しすぎて理解するのが大変だったんですけど、今回は結構シンプルだったので。

ーーアルバム制作前にプロデューサー側に何かリクエストしたことはありましたか?

hime:アルバムに向けてということではなく、好きな曲とか、アーティストの話は普段から共有していて。

ーーその中で今回のアルバムに反映されたことは?

hime:KMさんの参加ですね。でも、KMさんはリリスクとはやらないと思っていて。前作(『BE KIND REWIND』)でJinmenusagiさんが「大人になっても」を作ってくださったんですけど、私、ジメサギさんも大好きで。けど、「やって欲しいのに、やって欲しくない」っていうところもあって。KMさんもジメサギさんもアイドルと絡んで欲しくなかったんですよ。そのままでいて欲しいというか……分かりますかこの感じ?

ーー何となく理解できます(笑)。

hime:でも、もしアイドルと一緒にやるんだったら、うちらが良かったんです。だから、ラッキーなんですけど、まさかやってもらえるとは思っていなくて。言ってみるもんだなって(笑)。

ーーEP『OK!!!!!』はリリスクにとってもかなり攻めた作品だったと思いますが、今回のアルバムはその延長という印象が強くて。その中でも一番攻めてるのがKM曲の「TIME MACHINE」だと思いました。

hime:そうなんですよ!

risano:いや~、ヤバかった。

hime:私はその曲が一番好きですね。自分たちの持ち曲じゃなくて、人の曲だとしても好きだと思います。

lyrical school /TIME MACHINE (Full Length Music Video)

「作った人っぽさを出しつつ、自分のものに変える」(risano)

ーーrisanoさんは何かリクエストされましたか?

risano:プロデューサーのキムさん(キムヤスヒロ)に「やってみたい曲ある?」って聞かれて、「アップテンポでクレイジーな曲をやりたい」っていう感じでは言ったりしていて。それが今回は「MONEY CASH CASH CASH」みたいな、今までのリリスクっぽくないような曲に反映されたんだと思います。

ーー「MONEY CASH CASH CASH」はかなりインパクトのある曲ですが、もはや「リリスクっぽい」とか「リリスクっぽくない」とかって分からなくなってきてますよね。

risano:もうそういうのは、このアルバムでなくなったかもしれません。2曲目から「MONEY CASH CASH CASH」だって分かった瞬間、「今回はすごい勝負に出たな」と思って。

ーーアルバムを作る上で、それぞれ自分に課した目標みたいなものはありましたか?

hime:私は現行の流行っている日本語ラップとかが大好きなので、そういうのが好きなリスナーの子たちに刺さるようなラップをしたいと思っていて。もちろん私たちはアイドルなので、アイドルが好きなファンの人も大事にしたいんですけど。ちゃんと本物なことをやりたいみたいなのはありました。

risano:いろんな方が作ってくださった曲が全部カッコよかったからこそ、作った人っぽさを出すことにプラスして、自分のものに変えるっていうのを常に意識してました。あとはコロナで疲れていた皆さんを元気にするものを作りたいって思っていました。

hime:あ~、それは良いね。

risano:私たちのアルバムを聴いて、ストレスがなくなって欲しいなって。

ーーレコーディングや制作の面で、コロナ禍だからこその違いってありましたか?

hime:今までガヤを入れる時とかって、5人でブースに入って録ったりしてたんですけど、密になっちゃうからそれができなくて。やれても3人で、しかも距離を取らないといけない。risanoは声がデカいから、マイクから遠くても問題なかったんですけど(笑)。あと、ガヤを一人で録る時もあって、そういう時はみんなが横にいることを想像しながら録ったり。今まで使わなかった頭を使ったりして、すごく考えながらやりましたね。

ーーそういうことも今のリリスクだからこそできたんでしょうね。『WORLD'S END』の頃とかであれば、そういう想像すらもできなかったでしょうし。

hime:たしかに。

risano:今までレコーディングは毎回バラバラで録っていたので、自分のパート以外はほとんど分からなかったんですけど。今回は私、yuu、minanちゃんが最初にレコーディングを開始して、あとからhime、hinakoが来るみたいな感じで。私を含めて最初の3人のところはずっとスタジオに入って、他の子の録り方も全部聴くようにしていました。「この子がこういうバースだから、私はこういう感じで合わせていこう」とか、そういうバランスも見ながら調整できたのは今回が初めてでした。

ーー密にはなれないけど、その代わりスタジオで他の人のレコーディングに立ち会う機会が増えたっていうことですか?

risano:そうですね。あと「Danger Treasure」では、他の子が歌っている時は本当にデンジャー感があるかとかチェックして、「いいねー!」って言ったりとか(笑)。私たちもプロデューサーと一緒に意見を言わせてもらいながら録りましたね。

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