『FLASH』インタビュー
FINLANDS 塩入冬湖が歌う、人間の本質への愛おしさ 窮屈な時代にこそ必要な“心のお守り”
「想像するくらいの自由さは持っていたい」
ーー“愛”に対して、寛容になって受け入れることができていったんだと思いますけど、「ナイトハイ」は“愛おしさ”について純度高くストレートな言葉に書き切っていますよね。この曲ができたのはどうしてだったんですか。
塩入:これは祖母のことを書いた曲なんです。これくらいわかりやすい方が自分もドキッとするし、伝わって欲しいところで伝わらないのは避けたいと思ったので、すごくストレートな表現になりましたね。
ーーストレートになったのはどうして?
塩入:「ナイトハイ」が、“出来事”をきちんと書き記したものだったからかもしれないですね。他の曲って、気持ちの暴露とか気づきを書いたようなものでしたけど、「ナイトハイ」は後悔とか愛情というよりも、自分にとって戒めみたいな気持ちで書いた曲だったので。
ーーだからこそ鮮明な言葉で書き切ったと。全体的に歌が前に出ていて、サウンド的にも「ナイトハイ」をはじめ中盤の楽曲はメロウで自由度が上がっていますけど、このあたりはバンド編成の変化が影響しているんでしょうか。
塩入:それはありましたね。一緒に制作してくれる人が変わるっていうのは、今まであまりなかったので。ずっと2人でやってきた中で、自分ひとりになったらどうなるんだろうっていう不安もあったんですけど、新体制になって一番最初の2019年のレコーディングから、一緒にやってくれているベーシストのイラミナくんがいてくれたので、すごく信頼して任せられました。彼や他のサポートメンバー2人が言ってくれることを私は素直に受け入れられて、悪い意地を張らずに人に頼ることができたかなって思います。
ーーそうした制作で、塩入さんが特に印象深いのはどの曲でしょうか?
塩入:やっぱり「Stranger」ですかね。デモを持っていった時に、イラミナくんがめちゃくちゃカッコいいって言ってくれて。サポートメンバーは同年代なんですけど、中高生の時に聴いていたような音楽に対するドキドキや興奮をみんなで持ち寄って作っていけた気がするので、すごく久しぶりにそういうバンドっぽい会話をできたなと思って嬉しかったんです。学生の時って、CD買ったらその1枚をMDに入れて無限にリピートして聴いたし、そういうのいいよなって思えたので、少し原点回帰みたいな曲だった記憶がありますね。
ーー最初のレコーディングは2019年ということですけど、今作を締め括る「まどか」は2020年3月リリースの楽曲なので、きっとその時期に制作されていますよね。この曲をアルバムの最後にしたのはどんな意図があったんですか。
塩入:2020年は「まどか」がFINLANDSにとって大切な一本柱だったから、この曲を最後にするのが一番気持ちがいいんじゃないかなって思ったんです。
ーーそう思えたのはなぜでしょう?
塩入:うーん......2020年に『まどか / HEAT』しか出してないからだと思います(笑)。
ーーたしかに(笑)。この曲ってすごく泥臭くて人間的な曲ですし、〈いかれた世紀の 途中の私達も/あり得ないような/笑えるアイデアを/くだらないイメージでも/持ったっていいだろう〉がこのアルバムで歌われることによって、ある種の安心感みたいなものを感じられます。
塩入:そうですね。この曲を作った2019年って、今後もずっと恋愛のことばっかり歌っていくわけはないなと思っていた時期で、年齢を重ねていく中で、歌うことも変わっていきたいなと思っていたんですよね。その中で「まどか」って、すごく自然にそういう場所に行けた曲で、生活の中の願いだったり、身近な人たちを守るためにはどうしたらいいだろうなっていうことをスッと書けたんです。おっしゃっていただいた人間臭さっていう意味では、きっと『FLASH』の始まりみたいな曲だと思うんですよね。
ーー本当にそう思います。コロナ禍を経ていろんな解釈ができる曲になりましたけど、〈くだらないイメージでも/持ったっていいだろう〉って自然に言えたのは、どうしてだと思いますか。
塩入:大人になればなるほど、くだらないことって面白くなってくると思うんですよ。例えば、絶対にいないとわかっていても、夜中に外を見てみたら、ゴリラとか出てこないかなってすごく想像するんです。めちゃくちゃくだらないと思うんですけど、そういう想像をすることで、自分の中にでき上がっていく世界があると思うんですよね。今ってすごく窮屈な時代ですし、何か言えばすぐ言葉の揚げ足をとられたり、自分の願いを口に出すことですら憚られる感じがしますけど、じゃあ言葉に出しちゃいけないんだったら、せめて頭の中でずっと願い続けることくらい私たちの権利としてあるわけで。口に出せれば一番いいですけど、想像するくらいの自由さは持っていたいという気持ちを込めて書いた歌詞だと思います。
ーー大人になるにつれてくだらなさを楽しめるのは、どうしてだと思いますか。
塩入:大人になる方が残酷なことが多いからじゃないですかね。
ーー残酷さの反動みたいな?
塩入:小さい時も悲しいことは悲しいし、誰かがいなくなったり死んでしまうことに対する恐怖はありましたけど、大人になるほどそれを理解するようになってきて、悲しみがトラウマのように自分の中に植え付けられていくと思うんですよ。でも、いなくなった人のことを考えて、いると思って想像するのはすごく幸せだと思うんですね。それが現実とごっちゃになってしまうのは問題ですけど、想像の中で幸せな気持ちになるのは大切なことじゃないかなって。だから、くだらないことが大切になってくるんだと思います。
ーー窮屈な世の中で残酷さを知っていくからこそ、想像が大切だと。「まどか」だけでなく、アルバム全体に“壊れる”という言葉が出てきますけど、それも自身が持つ恐怖や悲しさに紐づいているんでしょうか。
塩入:「ナイトハイ」にもつながりますけど、自分が傷つけられて壊れそうになってしまった時って、大切に育ててくれた家族からもらった愛情があることで、「私がそんなことで壊れていいわけがない」っていうストッパーになると思うんですよ。逆に、私が家族に対して持っている愛情も、家族にとってのストッパーになればいいなって思うんです。だから〈あなた〉と〈わたし〉の対比で歌詞が書いてあるんですよね。「私は壊れないよ。なぜならこういうことがあるから」っていう、自分に対してのお守りのようになっている言葉です。
ーーお守りってしっくりくる言葉ですね。「HOW」から「まどか」まで通して聴くことで、生き方や未来に対して、豊かさの気づきを提示しているような作品だと思いました。
塩入:そうですね。繰り返しながら人間が生きていく中で、たまに“FLASH(=閃き)”が発生して、それによって私たちはこれからも生きていけるんだろうなって思います。
■リリース情報
FINLANDS 3rd Full Album『FLASH』
2021年3月24日(水)発売 ¥2,500(税抜)
【収録曲】
01.HOW
02.ラヴソング
03.HEAT
04.テレパス
05.Stranger
06.ナイトハイ
07.ランデヴー
08.ひかりのうしろ
09.Silver
10.Balk
11.UNDER SONIC
12.USE
13.まどか(FLASH ver. )
■ツアー情報
『FLASH AFTER FLASH TOUR』
4月10日(土)大阪 UMEDA CLUB QUATTRO
4月17日(土)名古屋 NAGOYA CLUB QUATTRO
4月28日(水)東京 Zepp DiverCity(TOKYO)
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