『Take Over』インタビュー

DEAN FUJIOKA、現状と向き合い到達した新境地 コロナ以降の制作スタイルについても明かす

 DEAN FUJIOKAが、最新シングル『Take Over』をリリースした。表題曲は、洗練されたフューチャーベースを基調としたフレッシュかつポップな耳心地のナンバーだ。リリックでは、これまで国外を縦断していたDEAN自身の生活がコロナ禍によって一変した日常が描かれている。例えるなら、地球を俯瞰したGoogle Earthが一気に自宅へとズームインしたかのような状況だ。「Follow Me」では時代に寄り添うチルな歌を響かせ、「Plan B」ではドープなベースミュージックの新境地へ到達。閉塞感のある状況を見つめ直し、脱却を目指すようなイメージだ。日本語・英語・中国語、3カ国語を駆使するDEAN FUJIOKAによる蓄積されたミュージシャンシップの本領が発揮された最新作の完成となった。(ふくりゅう)

DEAN FUJIOKA New SG “Take Over” Trailer

「明確にコロナ前と後で作り方が変わった」

ーー雑談から入りますけど、最近、海外の音楽シーンでシティポップや歌謡曲が注目されています。1979年にリリースされた松原みき「真夜中のドア~stay with me」が、アメリカのSpotifyランキングで連続で1位を獲得したり。DEANさんは、日本のジャーナリズムやメディアが気づく前からこういったシーンに注目されていて。

DEAN FUJIOKA(以下、DEAN):長いこと国外にいたので(笑)。それこそ先輩たちは、心血注いで音楽を作り、表現活動されていたんだと改めて思いますね。やっぱり聴き返してみると、レコーディング技術のクオリティが高いんですよ。今回の曲にも関わってくるんですけど、「Plan B」はサウンド的にはベースミュージックなので全然感じないかもしれないけど、歌謡曲を一時期聴きこんで作りましたね。井上陽水さんとか。

ーー普段、ヒップホップや海外のダンスミュージックを聴いているイメージが強いDEANさんですが、陽水さんを聴くきっかけがあったんですか。

DEAN:コロナ禍で海外へ自由に移動できなくなったことが、自分のいるロケーションとその意味を強く認識するきっかけとなりました。こんなにずっと日本にいるのは、この20年くらいの間で初めてかもしれないので。インドネシアや台湾など、やっぱり移動が多い人生だったから。せっかく日本にいるのなら、もっと文化の文脈を知ろうと思ったんです。

ーーなるほど。

DEAN:いま考えてみると、海外へ行った際、現地でいろんなことを学んできたんです。逆に、日本で生まれ育ったので日本のことを知っている気でいたけど、やっぱり知らないことがたくさんあって。それは音楽だけに限らず、自分が生まれていなかった時代、どういった社会変化を経て今に至ったのかがすっぽり抜け落ちていたんですね。親が生まれた頃とか。いろいろ掘り下げていくなかで、自分が子どものときに何気なく聴いていたポップソングとか。J-POPと呼ばれる前の歌謡曲に始まり、そこからどんどん逆算して、現代から近代へ遡って調べていきました。

ーーそんな体験がありながらも、新曲「Take Over」ではDEANさんらしさをフューチャーベースを軸に構築されています。ここでは歌謡曲というより、海外のダンスミュージックという洗練されたイメージが強くて。しかしながらリリックに耳を傾けると、まさに今のコロナの状況だからこそ生まれた曲なんですよね。

DEAN:そうですね。ネガティブをポジティブに、“Take Over”しようっていう曲なんです。歌詞は明確にコロナ前と後で作り方が変わったなという意識があります。サウンドに関しては、これだけ大きな社会の変化が起きて、ネガティブをポジティブに変えるのか、ネガティブをネガティブとして真っ向から受け止めてどこまで掘り下げるか、そのどちらかしかないと思いました。なので、「Take Over」ではポジティブな方向に変化させる。「Plan B」では、どちらかというと、とことんネガティブに掘り下げる。そんなコンセプトの作品になっていますね。

DEAN FUJIOKA - “Take Over” Live Music Video

ーー「Take Over」の歌詞にある〈息もできないね/割れたままの画面〉〈よそ見ばかり誰かのstories〉などのフレーズが、スマホやその画面に映るSNSのタイムラインに通じますよね。気がついたら、世界を画面越しに感じてコミュニケーションする時代となりました。

DEAN:情緒をどこに感じるかっていうのが変わりましたよね。コミュニケーション自体、スクリーン越しのリモートで行うことが普通になって。今までだと感じなかった情緒を、画面越しに感じるようになるなんて。こうやって時代って変わっていくんですよね。自分にとって一番リアルに響くものが、願わくばリスナーの方にも同じ時代観で届いたらいいなと思って、「Take Over」の言葉選びは、敏感かつ素直に向き合って書きました。

ーーフューチャーベースなサウンドに、シンガーソングライターらしく時代性を感じる言葉が乗っているのがDEANさんらしさですよね。

DEAN:まずスマホというものがあって、スクリーンがあって、タイムラインやストーリーがある。スクリーンは物理的にヒビも入れば汚れたりもしますけど、その中身にはOSやアプリがあって、様々な機能や名前があって......みんな、そんなところに情緒を感じるようになり始めていると思うんですよね。昔だったら、手紙とか公衆電話とか、ポケベルに対して抱いていたような感覚。緊急事態宣言のなかで、スマホを見て過ごしていたら、気づいたら外が暗くなって1日が終わっちゃったような経験をした人は、自分以外にも多いなと思ったし、そんな思いを込めた歌詞ですね。

「音楽として自分の肉体とシンクロしているかどうかが大事」

ーー歌詞には中国語の一節もありました。

DEAN:そこはどちらかというと、普遍的に変わらない人間同士の関係性を書いてますね。以前書いた「Shelly」然り、歌詞のなかの言語を切り替えることで、ストーリーテリングの距離感を変えることができるんです。ソロアーティストなので、他の人にマイクを渡せないからこそ、言語を切り替えることでスイッチを切り替えてみました。

DEAN FUJIOKA - “Shelly” Music Video

ーーDEANさんならではのアプローチですよね。ちなみに、今作「Take Over」のトラックと曲におけるクリエイティブパートナーにES-PLANTさんを起用されたのは、どんなきっかけからなんでしょうか。

DEAN:実はスタジオを3部屋押さえて、3人別のトラックメイカーの方とセッションしながら曲作りをしたんです。とにかくカッコいい曲を作るという目標で、勢いで合計10曲くらい作りました。まず考えていることを伝えながら自分のアイデアをビートに反映してもらって、それをエディットしている間に別の部屋ではトップラインを乗せて、ボーカルエディットしている間に、アレンジの詰めをやったり、違うボーカルを録ったり......。とにかくものすごい瞬発力で作ったなかで、前に進むエネルギーを持っている曲として選んだのが「Take Over」だったんです。そこから歌詞を詰め込んでいって、アレンジをしていった流れですね。

ーーでは、最初から「Take Over」がリード曲という意識ではなかったんですね。

DEAN:なかったですね。並行してたくさん曲を作っていたなかで生まれたワンポイントかな。濃い作業展開で、1日に4曲作ったりしました。これまでは逆に丁寧に音選びをしてきたんですけど、自分のなかでもこだわりって裏返しにすると怖さみたいなものでもあって。不安だからこそ、よりこだわりが強くなったりすることってあるじゃないですか。なので、1回あまり余計なことを考えないで、動物的な感覚というか、単純に体が動くかとか、鳥肌が立つかとか、生理的な反応だけで曲を作ってみたかったんです。いろんなタイプのトラックを作ったんですよ。そういう意味ではすごくアスリートっぽいというか、反射神経の勝負。研ぎ澄まされた時間でしたね。

ーー「Take Over」は、デジタライズされた世界を泳いでいくようなナンバーなんですけど、ものすごくプリミティブなところから生まれたんですね。

DEAN:そうですね。電子音楽ってアーティフィシャルな音使いを感じるけど、例えばテクノとかって、めちゃめちゃ動物的じゃないですか。意味も何もない、なんならメロディもないのに、すごくミニマルな要素で体が動いたり、なぜかわからないけど鳥肌が立ったりする。あの感覚って気をつけないと忘れちゃうというか、ついつい言葉で持っていこうとしてしまうので。もちろん言葉も表現として大切なんですけど、その前にちゃんと自分の肉体とシンクロしているかどうかが大事だと思ったんですよね。やっぱり音楽だし、小説とかポエムではないから。

ーーダンスミュージックには原始的というか、音楽発祥の源を感じますね。

DEAN:そんな競争のなかで勝ち上がってきたのが「Take Over」だった。コロナの影響ですごい閉塞感があるなかで、それを打ち破って前に突き進むようなエネルギーを持つというコンセプトとシンクロしたんです。この歌詞を乗せて、やっぱりこれでよかったなと思いましたね。

ーー「Take Over」からフレッシュな初期衝動を感じたのは間違いじゃなかったんですね。

DEAN:ええ。やっぱり頭で作っちゃダメだなって思いました(笑)。時にはそういうのもありなんですけどね。

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