オリヴィア・ロドリゴはなぜ“たった1曲”で偉業を成し遂げられたのか? 若者の関心掴む、新たなヒットの在り方を考察

 2021年が始まってからまだ1カ月ほどしか経っていないが、すでに今年のポップシーンを彩るメインキャストの一人が確定したと言っていいだろう。数カ月前まで多くのポップリスナーがスルーしていた人物が、今では世界中の人々の羨望を集めているのだから。

 オリヴィア・ロドリゴ。ドイツ系とアイルランド系の血を引く母とフィリピン系の父のもとカリフォルニアで育った17歳の彼女は、2021年のポップシーンの話題を独占している。デビュー曲「drivers license」が全米・全英シングルチャート初登場1位という偉業を達成したのだ。

Olivia Rodrigo - drivers license (Official Video)

 さらに、Apple Musicでは全世界48の国と地域、Spotifyは31カ国のチャートで1位を記録。女性アーティストとしては史上最多となる週間グローバルストリーミング数を達成、Spotifyに至ってはわずか8日間で1億再生を突破し最速記録を更新。リリースから1カ月が経過し、この原稿を書いている今でも世界中のチャートの上位に君臨している(全英では4週連続1位)。Spotifyの再生数は未だ2位の楽曲の倍近くの再生数を叩き出しており、3億再生の大台にも到達した。これまでの歴史を振り返っても前例がないほどの大ヒットを叩き出しているのである。

 ここである疑問が浮かび上がってくる。「なぜ、ほとんどど無名にも近いアーティストのデビュー曲が、これほどの早さで成功を収めたのか?」と。

 その回答の一つとして、TikTokでのバズが挙がることが多い。確かに「drivers license」はリル・ナズ・X「Old Town Road」やロディ・リッチ「The Box」と同様に、現代のヒットパターンにおいて欠かすことの出来ないTikTokでのバイラルヒットを巻き起こした楽曲であり、楽曲中の様々なパートを用いた映像が今も数多く投稿され続けている。だが、上記の楽曲はバイラルヒットを経て総合チャートに上り詰めるまで、数週間、あるいは数カ月とある程度の期間を必要としている。TikTokは確かにヒットの起爆剤には成り得るが、それだけで「総合チャート初登場1位」を達成することは出来ないのだ。

 そう、オリヴィア・ロドリゴの絶大なヒットの背景は、決して一言で説明できるものではなく、現代のポップカルチャーを構成する様々な要因が絡み合ったものであり、その根底にはオリヴィア自身のアーティストとしての力量と「drivers license」という楽曲そのものの強い魅力があるのだ。

若くして才能を発揮したディズニースターとしてのキャリア

 「drivers license」のヒットの背景を探るためには、数年前まで遡る必要がある。元々、子役として活動していたオリヴィアは、『やりすぎ配信! ビザードバーク』(Disney Channel,)と『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』(Disney+, 、以下『HSM』)というディズニーが手掛ける番組のメインキャストとして出演するなど、役者として順調にキャリアを築いていた。

 特に重要なのはミュージカルドラマである後者だ。オリヴィアは主人公のニニ役として「自分に自信がなく、それでも高校の演劇部のオーディションを受けたところ何とメインの役柄に抜擢され、部員の元カレと今カレの三角関係に悩みながらも奮闘する」という役どころを演じている。

 『HSM』シリーズといえば、作品中で歌われる様々なポップソングが魅力の一つだが、本作を代表する感動的なポップバラードである「All I Want」は当時のオリヴィア本人が作詞・作曲した楽曲であり、全米チャート90位にランクインしている。また、この時点ですでにTikTok上でのバイラルヒットも実現しており、ドラマのファンである若年層を中心にファンベースを構築していたのだ(2020年8月時点で、オリヴィアのInstagramのフォロワーは220万人を超えている)。

Olivia Rodrigo - All I Want (Official Video)

 そして、この「All I Want』」をきっかけに、オリヴィアは2020年半ば、現在所属している<Geffen Records>と契約。レーベルのEVPとA&Rのヘッドを兼任するSam Ribackは当時を振り返り、契約の過程で「All I Want」が100%オリヴィアによって書かれたものであることを知り、そのソングライティングに圧倒されたと語っている(参照)。

 レーベルの紹介で何人かのプロデューサーを試す中、Dan Nigro(これまでコナン・グレイ、カーリー・レイ・ジェプセン、スカイ・フェレイラなどを担当)と意気投合したオリヴィアは、世界的なパンデミックの中でいよいよ本格的なアーティストデビューへ向けて制作を開始する。その中で生まれた楽曲の一つが「drivers license」であり、この曲に深く感激したチームは、これをオリヴィアのデビューシングルとしてリリースすることを決定した。前述のSamはこの曲を初めて聴いた時のことを「まさに待ち望んでいた瞬間だった」と語っている。

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