6thアルバム『SiX』インタビュー
『しらスタ』“おしら”に聞く、Da-iCE 花村想太&大野雄大が持つ歌声の秘密 「この音域の2人が揃っているというのは奇跡」
4オクターブを誇るツインボーカルが魅力のダンス&ボーカルグループ・Da-iCE。2020年にはYouTuber・ラファエルやお笑い芸人・EXITとのコラボ、フル3DCGのオンラインライブツアーなど、アーティストとしてこれまでに例を見ない活動を見せ、世間を驚かせてきた。さらに2020年8月からは、アニメ『ONE PIECE』(フジテレビ系)のオープニングテーマにもなった「DREAMIN' ON」を第1弾として、“五感で感じるエンターテインメント”をコンセプトに6カ月連続で楽曲をリリース。1月20日にはその集大成となるオリジナルアルバム『SiX』がリリースされる。
本格的なダンスも然ることながら、Da-iCEの大きな魅力となっているのが花村想太と大野雄大のボーカル力だ。彼らの歌の魅力はどこにあるのだろうか。そこで、自身のYouTubeチャンネル『しらスタ【歌唱力向上委員会】』の登録者数が120万人を超え、Da-iCEとも親交のある大人気ボーカルトレーナーのおしら氏にDa-iCEの歌の魅力をたっぷり語ってもらった。さらに、ボーカルトレーナーとして今の音楽シーンに感じること、歌への向き合い方なども聞いた。(高橋梓)
花村想太&大野雄大、それぞれの歌声の個性
ーー以前、ご自身のチャンネルでDa-iCEの「DREAMIN' ON」を取り上げていらっしゃいましたが、どういった経緯で取り上げたのでしょうか。
おしら:もともとDa-iCEファンのしらスタ視聴者の方から、「Da-iCEを取り上げてほしい」というリクエストをたくさんもらっていました。かつ、私が『ONE PIECE』ファンだったこともあって、取り上げさせてもらいました。視聴者の方も、花村さんと大野さんがすごいことはわかってるんですよね。でも、「何がすごいのかわからないから解説してください」というニュアンスでしたね。
ーーDa-iCEの曲を上手く歌う方法が知りたいというよりも、彼らの歌のすごさが知りたいという需要だったのですね。それだけ注目を集めている花村さんと大野さんですが、おしらさんは彼らの歌の個性をどう評価されていますか。
おしら:みんなも思っている通り、それぞれ結構タイプが違いますよね。ただ、共通して言えるのは2人とも音域がバケモノ級に広くて。特にハイトーンがすごいです。2人の歌声を聞くと、花村さんのハイトーンの方が鋭く突き抜けるように聞こえて、大野さんは同じ音を出していてもハイトーンって気付かれない。聞こえ方が違うんですよね。そういった声の特性の違いにプラスしてリズムの取り方も違います。花村さんは前に切り込んでいく、タイム感の早いタイプ。海外アーティストで例えると、マイケル・ジャクソンタイプです。一方、大野さんは後ろにリズムを持ってくるタイプで、ブライアン・マックナイトみたいなイメージです。声の特性もリズムの取り方も大きく異なるボーカリスト2人ですが、Da-iCEの楽曲だと上手く調和されていますよね。2人の切り替わりが緩急になるというか。
ーー花村さんの方がハイトーンが高く聞こえるというのはなぜなのでしょうか。
おしら:音ってみんな一つの音だと思っているんですけど、1音の中にも倍音って言っていろんな音が混じっているんです。楽器も、ピアノとギターと金管系の楽器で同じ音を出しても、聞こえ方が違いますよね。それは人間の喉も同じで。花村さんと大野さんの喉の形の違いが、声の違いになっています。声帯自体は花村さんは短くて小さい、女性に近いような声帯だと思います。喉の奥の空間も、もしかしたら少し狭いかもしれませんが、そういった形は高い声が出やすくて、カツーンと高音が響きます。大野さんは、喉の奥が若干広くて、もしかすると舌のサイズも大きめかもしれません。そうすると柔らかい音色になりやすい形なんです。
ーー持っている楽器が違う、というわけですね。全く違う個性的な声を持っている2人ですが、ハモリの部分にフォーカスするとどういった見方ができそうでしょうか。
おしら:どんなハモリでも、どんなバランスでもできるんだろうなという前提の上でですが、ハモる時はお互い存在感を消しているなって思います。どちらもハモリに回ることがありますが、タイプが違うので1:1で歌うと声が喧嘩しちゃうんですよね。
ーー声質を寄せていく、と。
おしら:そうです。音量も落としていますし、個性を削って相手の歌い方に寄り添ってらっしゃいますよね。ライブ映像を見ていると、2人のパートって、ガンガン切り替わるじゃないですか。その隙間に一瞬ハモリをした後、すぐにまたメインの歌い方に戻っているので頭の中が混乱しそうだなって(笑)。私もアカペラをやっていたのでちょっと苦労がわかるんです。一瞬ハモってメインに戻るとなると、テクニック的にも気持ち的にも切り替えが大変なんですよ。花村さんも大野さんも、すごいことをサラッとやられています。しかも踊りながらですからね。長いキャリアで培われたものだと思いますが、見ている側としては意味がわからないなと(笑)。
ーーおっしゃるとおりですね(笑)。しかも、Da-iCEの楽曲は難しいものが多いと思います。20thシングル曲「image」もかなり難しいと感じました。おしらさんから見て、「image」における歌のポイントはどこだと思われますか。
おしら:先程、ハイトーンの聞こえ方が違うと話しましたが、低音も違うんですよ。「image」って下はA♭まで使っていて、花村さんはちゃんと低く聴こえるんですが、大野さんはA♭に聞こえないんです。Aメロの部分で1番が大野さん、2番が花村さんと同じ音程をたどっているんですが、聞こえ方が全く違う。Da-iCEは低音の扱いもとてもスキルフルですね(笑)。
ーー「image」は上も高いですし、音域がかなり広いですよね。
おしら:Da-iCE・工藤大輝さんのラジオ番組『TALK ABOUT』(TBSラジオ)で花村さんと直接お会いした時に言っていたのですが、3オクターブ使っているらしいんです。「本当かよ!」って思って音をたどってみたんですけど、しっかり3オクターブありました。だから、一般の方がカラオケで歌いこなすコツみたいなものは、この曲に関しては絶対に無いです(笑)。
ーー(笑)。せめて低音を綺麗に響かせるコツは……。
おしら:一般論にはなりますが、低音って胸に響かせるといいって言うんですけど、その時みんな下を向いちゃうんですよね。すると、しっかりした低音にならないのである程度顎を上げて胸を意識するといいですね。でも、A♭が出る人は普通上のキーが出ません。下が出る人は上が辛いし、上が出る人は下が辛い。特にA♭を出せる女性となると1000人に1人くらいしかいないと思います。音域って上は伸びるんですけど、下は構造上なかなか伸びない、生まれ持った才能とも言えるでしょう。なので、「image」はキーを変えても音域の幅が広くて歌うのは難しいと思います。ファンに歌わせる気がないのかも(笑)。
ーー女性が歌うなら、キーを上げて上を伸ばす努力をするしかないんですね。「DREAMIN' ON」はどうでしょうか。この曲における、花村さんと大野さんの歌い方の違いを改めておうかがいしたいです。
おしら:やっぱりリズムの捉え方が大きく違いますよね。例えば、「つ」という言葉は「T」と「U」の音を発音して初めて「つ」になるんですけど、花村さんは母音を抜いてます。子音、特にK、T、Sなどの打楽器っぽい音を強調して扱うことで、リズムを前に切り込んでいく“キレのリズム”を作っています。対して大野さんは、唇や顎を使いながらリズムを後ろに引っ張っています。NやMなどミュートする系の子音を長めに歌いながら、母音の変化とともにリズムを引っ張っる。例えば〈覚悟決めたのなら〉という歌詞を、〈覚悟きnめnたnのnなnら〉という風に歌っているイメージ。リズムを前に回転させる花村さんと、後ろに回転させる大野さんが入れ替わりながら歌っている曲ですね。