横山健が語る、ピザオブデスが培ってきた“人との向き合い方”「日常での理解の深さがすべて反映されていく」

横山健、ピザオブデスの人との向き合い方

突きつけられた現実がよっぽど改革になった

ーーバンド主導ではなく、ピザオブデスがレーベルの名前を冠して率先して旗を振るのは、実は初めてのことですよね。

横山:やっぱり今までは、レーベルの前にバンドありき、にすべきだったし、スタッフみんなもそういう前提で動いてたと思う。ただ、ピザオブデスだからこの時期こういうことをやるのは、バンドがそれぞれ単体で動きづらい時期、レーベルが主導すればひとつの形を作れる、っていう声明じゃないかな。「これは僕たちの仕事です。この時期ならではの僕たちの仕事です」っていうことなんだと思う。

ーーそう言われたら、所属バンドとして嬉しいものですか。

横山:うん。頼もしいレーベルだなと思う。たとえばKen Bandが「こういうことやりたい」って思いついても、1バンドだったらインパクトには欠けるでしょう。所属バンド、まぁSANDは今回参加しなかったけど、10バンドいて、うち9バンドが参加するっていうのはなかなかパッケージとしても祭り感が出てくるし。面白いよなぁと思った。

ーー今日の話を聞いてると、ピザオブデス代表・横山健というイメージのわりに、意外と健さんが引っ張っているわけじゃないんですね。

横山:そうです。繰り返しになっちゃうけど震災後かな。震災までは俺けっこう社長っていう意識があったんだけど、あれきっかけで「俺はいちミュージシャンに戻るよ」っていう感覚があって。スタッフの誰にも言ってないけど、もう行動でわかってくれてると思う。もちろん震災だけが理由じゃないけど。ピザオブデスって、別に会社に来ればお金が湧いてくる場所でも何でもなくて、結局自分たちでやりがいを見つけなきゃいけない。それをスタッフみんな、当たり前のように考え始めたんだと思うのね。それは俺が震災前から言ってたことで、いいタイミングで切り替われたなと思う。

ーーそういうレーベルにしたいと思ってました? 自分のものではなく、スタッフ主導のものになればいいと。

横山:うん。すごく思ってた。それはでもやっていくうちに思うようになったことで。それこそ最初にピザオブデスを作った時は自分の名声も上げたいし、「横山健がやってるレーベル!」っていうブランドも欲しいと思ってた。でも真面目にやっていくと、そんなものじゃないんだなって。

ーーというのは?

横山:まず社員を雇う段階で、その人の人生を背負ってるわけで、その人が結婚したりすることもある。そこは俺、人より責任感強いと思う。「ウチが潰れたら他所行って、まぁウチでの経験を活かしてくれればいい」とか、あんまり思わない。人の人生背負ってる以上、お金ややりがい、その人の人生がより良くなるものを、このピザオブデスで見つけていかないと。真剣に考えるとそういうことだった。

ーーそもそもピザはHi-STANDARDの『Making The Road』を出すために独立したレーベルでした。当時と今ではかなり変わっていますよね。

横山:もうまったく別の会社だと思う。ほんとに言われたとおり、最初はHi-STANDARDの作品をリリースするためにメンバー3人で興した会社だし、Hi-STANDARDを好きっていう奴らが社員として集まってきて。ただ、ある時期を境に一一もうMOGA THE ¥5やToastをリリースしだした頃か、これはバンドや社員の人生を背負ってるんだなって俺は感じ始めて。社員にも一人ひとり問うたの。「Hi-STANDARDのためだけのレーベルじゃなくなるけども、俺がレーベルをやっていく。付いてきてくれるか?」って。当時5人いた社員の3人は「話が違う」って言って辞めていったし。そうやって残ったスタッフのひとりがI.S.Oちゃんです。そこからはいろんなバンドをリリースできたし。

ーー残ったI.S.Oさんが、今『SATANIC CARNIVAL』を主催しているのは象徴的ですよね。いちバンドのためではなく、ライブハウスにいるうるさいバンド全員のために面白いことを作っていく。

横山:うん、それが今のピザオブデスだと思う。所属バンドだけ、ウチのバンドだけ、じゃなくて。パンク/ラウドって言い方は好きじゃないけど、まぁ「つるめるサウンドとアティテュードを持ってるバンドなら誰でも巻き込んでしまえ!」っていう。たとえばピザオブデスは今まで3回オムニバスを出したことがあるけど、全然ウチと関係ない、ウチから音源出す可能性がないバンドも参加してくれたり。怒髪天とかね。だから、ピザオブデスの枠だけにとらわれない感覚はあるんだろうな。

ーー面白いですね。変わらない理念はありつつ、中身は進化しているから、その時代ごとに面白い企画やアイデアが出せる。

横山:うん。たとえば10年前はよくミーティングとか会議してたの。俺が号令かけて。でもね、そんなことしてても何の打開策にもならなくて。「やってる感」が出るだけで。今はこのコロナ禍で、テレワーク、リモートワークも定着してきて、ウチの社員も半分くらいしか出社してないの。なんだけど、僕の見てないところで連絡取り合ってる。「じゃないと、こうはなってないよな」っていうのがわかる。だから俺も最初に「いやー、このコロナで弛緩してしまってねぇ」なんてふざけたことが言えるわけで。やっぱり、働くことに対しての意識を変えなきゃいけなかったし、2020年って面白い年だったんじゃないかな? 政府が掲げる働き方改革とかよりも、突きつけられた現実がよっぽど改革になったと思う。

ーーそれを面白いと言えるのがピザイズムでしょう。「エンタメ業界は大打撃です」って言い出せば、みんな白旗状態なんだから。

横山:なんだろう? もともと「一人ひとりが個人商店をやってるような気持ちでやんないと」っていう話は10何年前からしてるの。それほど大きい会社じゃない、零細企業なんだけど、それぞれの役割があって、それぞれが個人商店で。だから「それぞれが自分の仕事を作らないと」「俺からは仕事あげられないよ?」って言ってきた。そういう体質の会社に、10年くらい前からシフトしてる。でもみんな、どんな会社に所属してる人でも、自分のことは自分で何とかするって肚くくれば、そうなっていくんじゃないかな? 

一一誰かの指示を待っていても始まらない。

横山:ピザオブデスは20数年やってて、音源を作る会社ではあるけども、音源って結局人が作るもので、人を扱う会社なんだと思ってる。で、人ってもちろん思い通りにならないでしょう? 人との信用で「このバンドを出す、サポートしていく」って決めて、その人たちのペースに合わせて作品作りとかライブツアーをサポートしていく。人を扱う会社だし、間違っても音源を扱うことが第一の会社じゃない。そうなると、年間の予定だとか何年後の展望だとか、実は何も持ってないの。

一一それよりは何が大事ですか。人を扱う時に必要なもの。

横山:やっぱり一番は誠実さじゃないのかな。で、たまたま自分たちが信用して手を組んだ人間が当たらなかったら、それはもう甘んじて受け入れるしかない。さっきから話してるように細かい企画立案や日常の業務はみんながやってくれるわけだから、俺はこの居場所を、ミュージシャンと社員のために、なるべくなくさないように努力をする。それが俺の仕事なのかな、ピザオブデスの社長として。

一一社長が、スタッフを全面的に信じているんでしょうね。

横山:あのね、社長が社員をフルで信用すると、社員の動きって変わってくるから。俺はスタッフの全員に対して「こいつのせいで潰れても仕方ない」と思ってる。そうやって信用してる人間を社員として迎えてるつもりだし、これだけ信用してて横領されたら、そりゃもうしょうがないですって感じ。それくらいの気構えでいたほうがいい。大企業ならまた話は別だけど、10人未満の小さい会社だったら、お互い生きてるわけじゃない? そこで信用しきれなかったり、歯にモノ挟まった気分でいなきゃいけなかったりすると、すごく居心地悪いんじゃないかな。そこは社長の肚の括り方っていうか。

一一いい話ですね。すごくピザらしい。

横山:トップの出来が良すぎると、下は育たないよね。絶対そう思う。上が凄すぎるとダメで、「ほんとしょうがねぇな、この人」っていうくらいがいいんだと思うな(笑)。でもバンドもそうだと思うんだけど、優れたミュージシャンが集まればいいバンドになるかって言えばそうじゃなくて、結局は人の相性だったり、共通項だったり、波長とか、そういうことがものすごく大事だと思うの。くだらないお喋りも大事だし、そういう日常をシェアして、お互いの理解を深めて、それが作るものにすべて反映されていくから。会社も絶対そうだと思う。

■関連リンク
ピザオブデスレコーズ オフィシャルサイト

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