Black Boboi、レコード作品から辿る音楽ルーツ アンネ・ミュラー、OPN、AURORAらに受けた影響
Julia Shortreed、Utena Kobayashi、ermhoiによるグループ・Black Boboi。メンバーはグループとしてだけでなく、Juliaはソロとして活動し、UtenaはKID FRESINOやD.A.N.などのサポート活動も行いつつ、ソロ名義としても10月から3カ月連続でコンセプト作品を発表
(『Fenghuang』、『Darkest Era』、『Pylon』)、ermhoiは常田大希率いるmillennium
paradeのボーカルを担当しており、それぞれが幅広いジャンルの音楽を消化させながら、個々でも音楽家としての才能を発揮している。
そんなBlack Boboiが、11月25日にアルバム『SILK』をリリースした。本作は、エレクトロミュージックを基盤としたメランコリックな音作りはそのままに、“シルク”のような滑らさと力強く壮大なサウンドスケープが印象的な作品だ。
今回リアルサウンドでは、Black Boboiにインタビュー。「『SILK』に影響を与えた作品」、「Black Boboiが指針にしているアーティストの作品」をテーマに、それぞれレコードを選んでもらい、彼女たちのルーツや『SILK』の制作背景に迫った。(編集部)
Utena「Black Boboiは自分だと行けない場所にいけることが尊い」
ーー現在のフィーリングに合う作品として、皆さんが最近よく聴いている作品や、現在目指している音楽に近い作品を挙げてきただきました。まずはJuliaさんのアンネ・ミュラー(Anne Müller)『Heliopause』。これはすごく納得の選出でした。
Julia:ニルス・フラームとの共演で初めて出会ったんですけど、そこからハマりました。静かな低音が好きでお風呂でよく聴いていました。彼女の音のように、身体深く浸透していくような音を作りたいと思いますね。
ーーアンネ・ミュラーは全部の楽器を自分一人でやっていますね。
Julia:ループもやられますよね。それもちょっと自分と通じるところがあって。音の選び方や響かせ方が好きです。Boboiに影響しているかはわからないですけど、このコロナ禍ではたくさん聴いてました。
ーー確かに雰囲気はすごく共通するものを感じました。Utenaさんの選んだジェイコブ・コリアー『Djesse Vol. 3』はすごく意外だったんですが、ある意味でBlack Boboiとはまったく違うタイプの音楽ですよね。
Utena:Boboiとは関係なく最近よく聴いているものということで挙げたんですけど、というか最近知って、超衝撃で。「Moon River」のカバー(1961年公開の映画『ティファニーで朝食を』で、主演のオードリー・ヘプバーンが劇中で歌った曲。アンディ・ウィリアムスのバージョンも知られる)がYouTubeにあるんですけど。
自分の声だけで5000トラックぐらい重ねて作ってるっていうのを知って、「ヤベー奴いた!」って興奮して喋ってたらすごい有名人だったんですよね(笑)。そこからよく聴いていて。私はあんまり普段音楽を聴かないので、今年発見した唯一のミュージシャンがジェイコブ・コリアー(笑)。
ーーアルバムではものすごくシャープでメリハリの効いた音楽をやってますが、もともとそういうのはお好きなんですか?
Utena:EDMはめっちゃ聴いてました。宗教音楽聴いて、プログレ聴いて、アンビエント聴いて、ノイズ聴いて、最終的にたどり着いたのがEDMっていう感じですね。スクリレックスを数年前に知って、音像にビックリしたんですよね。普通の曲のミックスとちょっと違うというか。それがすごく衝撃だったんですよ。なんだこの音楽はと思って。で、最近ジェイコブ・コリアーを知ってからは全然聴いてなかったんですけど……だから、別にどっちもなくても生きていけるというか(笑)。
ーーつまりご自分が作っている音楽と聴く音楽はまた別っていうことなんですね。
Utena:そうですね。BLACKPINKとかすごく好きですけど、別にそういう音楽がやりたいから聴くのではないですね。それよりもミックスとかがすごく気になる。どういうふうにこの音像が作られているのか、ミックスするときに参考するために音楽を聴くことが多いです。だから普段生活してて漠然と音楽を聴こうって思うことはないですね。
ーーへえ。家で一人でいるときに音楽をかけることもない?
Utena:ないですね。無音です。昔からそうですね。音楽を聴くと良い意味でも悪い意味でも影響を受けちゃうんですよね。映画とかアニメもそうで、そういうものって自分のモードが「見るぞ!」ってなっていないと見られないというか。自分の中でムラがあるんですよね。だからそういう気持ちになったときじゃないと作品に没入できないんですよね。聴くなら没入したいし。
ーーご自分が音楽を作るときは、どんなものを作ろうと心がけているんですか。
Utena:聴き手にどういうふうに思って欲しいかは結構委ねちゃいたいところですけど、今は、自分のソロは物語と曲を関連させて作っているんです。アニメとか漫画とか映画とか、ちゃんとストーリーがあって二時間の起承転結があるじゃないですか。それってちゃんと作品として作られているなって思って。自分がリリースする音楽に対して作品と思えるまで作りこみたいっていうのは、今年すごく思ったことですね。
ーー単なる寄せ集めの作品集じゃなく、アルバムとして一つの明確な流れがあって起承転結があって、まとまったもの。
Utena:そうですね。曲に対してどういうコンセプトでどういうテーマでどういう物語があるのかっていうところをしっかり自分で紐付けて納得することで、その曲に対して自分がちゃんと納得できるっていう感じですね。
ーー今回のBlack Boboiのアルバムも自分なりにコンセプチュアルなものを立ててやっていたということですか。
Utena:Black Boboiの場合3人分の要素が入るから、それって自分の確実な納得とか自分のフィーリングとかだけじゃない。でもそれを楽しむのがBlack Boboiだと思っていて。Black Boboiは自分だと行けない場所にいけることが尊いと私は思ってます。
ーーUtenaさんは、他の二人のやりたいこととかやろうとしていることを自分なりに理解した上でBlack Boboiを作っているっていう実感はあるんですか。
Utena:ないです! 二人の考えてることは全然わからないですけど。別の人間だからなぁ。何をするかわからなくて困ることももちろんありますけど、でも音楽を作る部分ではわからないっていうのはすごく良いことだと思います。
ーーおお、なるほど。例えば他の人が作ってきたトラックに自分なりに音を重ねるっていうときに、元のトラックを作った人が個人的にこだわったポイントがやっぱりあるじゃないですか。重ねることによってそれが損なわれてしまう可能性もなくはないですよね。
Utena:でもそういう瞬間は少ないかな。ある程度みんな8割ぐらいで作るというか、ここは死守したいっていうところがあればそれはソロで作ると思うんですよ。だから余白を残した作曲の仕方をしたりとか、もっとめちゃくちゃBlack Boboiを想像して自分は曲を作ることもあるけど、そういうふうにしてるから、わりと曲の変化っていうことにみんな寛容ですね。
ermhoi:まず第一条件として二人の感性を信用しているので。だから下手なことにはならないっていうか。その信用が絶対にあるので、委ねてますね。
Julia:二人に投げたときの変化が面白くもあるし、自分が作ったものがこうなるんだとか、こういうリズムになるんだとか、そういうのが毎回面白い。
ーーBlack Boboiらしさというか、これが無くなったらBlack Boboiじゃなくなっちゃうっていうようなことはありますか?
Julia:やっぱり音像な気がするな。Boboiの曲って一つの空間を端から端まで使っていろんな音が鳴っていると思うんですけど、それを作ってくれたのがUtenaがミックスをした一作目の『Agate』。今回の『SILK』はUtenaがラフミックスして、その後にジョー・タリアさんという方にミックスを投げているんです。タリアさんに投げるときに、Utenaのラフミックスを聴いてもらってこういう音像に近づけて欲しいってことをお伝えしながら、この物語はこういうことでこういう気持ちで作ったからここをすごく大事にしていて、っていう話をしました。結局基本にしてるのは『Agate』を作ったときのUtenaの音像だと思うし、共通して今後も引き継いでいきたいと思っていることです。
Utena:確かにそうだね。ミックスが違うと本当に全然違う曲になっちゃうから。
ermhoi:はっきりこれは違うっていうのをジャッジできるのは音像かな。結構自由にリズム感とかこういうテンポ、メロディもありなんだなっていうのを思いながら作るんですけど、最終的なミックスが違うとBoboiじゃないっていうのは確かにありますね。
Julia:今後もどんなふうに変わっていくかわからないんですけど、『Agate』で作った音像を軸として、大事にしていくものはあるんじゃないかなと思いますね。
ーー音楽的にはいろんなことをやるけれど、空間を感じさせるような立体的なミックスの音像がBlack Boboiのアイデンティティだってことですね。逆にその音像さえあれば何をやっても良い。
Julia:そうですね。その中であれば。
ーーライブだとどうなんですか?
Julia:ライブのときも一緒です。CDで聴ける音像をライブでも体感してもらいたいと思ってみんな作ってる。難しいけどね。CDで聴けるものをライブの音で100%体感できるとはいかないけど。
Utena:場所も毎回違うから。毎回ミックスと合わせたりとかしてたけど。 ermhoi:低音のバランスをどれくらい出すかとか、すごく細かいレベルでの調整が必要になっちゃう。
Utena:多分すごく繊細だと思う。まだ修行中です。
ーーermhoiさんはOneohtrix Point Neverの『Love In The Time Of Lexapro』。これも納得の選出なんですけど、どういうところに一番惹かれたんですか?
ermhoi:シンセサイザーの音がちょっと古いテイストでアナログシンセの。その古ぼけた感じの、他の音楽にしたらダサいかも? みたいなスレスレのラインがすごくカッコいい。別次元まで引き揚げてとんでもない音楽を作ってるなぁって毎回聴きながら思ってますね。憧れている人です。
ーー研ぎ澄まされた才能のキレを感じますよね。
ermhoi:そうですね。あとはサンプリングの仕方とか曲を途中で切ってしまう感じとか、思い切りのよさというか。しかもそれが嫌味ったらしくなく、すっごい自由でめちゃくちゃやってるんですけど、聴き心地は常に良い。アンビエントミュージックとしても聴けるかも、ぐらいの心地良さが保たれているのはすごいことだなと思います。
ーーご自分が音楽を作るときにも参考にしてることがある?
ermhoi:そうですね。最近は自分の制作よりは裏方での制作が多かったんですけど、すごく聴いているので影響を受けてるかなっていう気はします。
ーーいわゆるアンビエント系の音楽は結構聴かれるんですか。
ermhoi:コロナが流行り始めた頃にすごい聴いてたんですよ。それこそApple Musicのプレイリストをずーっと聴いてたんですけど、だんだんポッドキャストにハマってしまって。音楽じゃなくて人の話を聞くようになっていって。
ーーへえ。それはどういう変化なんですか?
ermhoi:なんなんでしょうね。自分でもわかんないんですよ。コロナ前まではずーっと音楽を聴いているような体質だったんですよ。移動中も聴いてるし家に帰っても聴いてるし仕事中も聴いてるし、何かしらの作業をしているときはずっと音楽を聴いていて。そんなに深掘りをするわけでもなく、広く浅くずっと聴いてるっていう人だったんですけど。それがコロナを経てプツッと止まった感じですね。
ーー音を聴くのに疲れたっていう感覚?
ermhoi:うーん……多分私のリズムの中に、例えば人に会う、移動する、作業する、ボーッとするっていうリズムがある生活の中では、前みたいな音楽の聴き方が合ってた。でもそれが一回止まってしまうと、多分生活がまた違うリズムになっちゃったんでしょうね。そこにどうやって音楽を組み込んでいくかがまだわかってないのかもしれないです。最近LPを聴ける環境になったので、LPを買うようにはなったんですけど、でもずっと音楽を聴いてるっていうのはなくなっちゃいましたね。
ーーでもLPは終わりがあるから、20分ぐらいたったら自分で針を上げないといけないし、ひっくり返さないといけないから、流しっぱなしにはならないですよね。だからやっぱり聴き方が変わったのかもしれないですね。
ermhoi:そうですね。ある意味で前よりも純粋な聴き方になったのかもしれないです。