城田優、J-POPカバーアルバム『Mariage』から溢れ出す“自分の世界” その瞬間の感情が乗る歌声の深み
城田優が歌うと、その曲は、すぐに城田優の歌になる。例えそれが、世代を超えて長く愛されてきたスタンダードナンバーや数多くの人がカバーしている名曲でもあっても、彼が口を開き、あの甘くも哀感のある声を発すると、一瞬にして、それはまるで彼にしか歌えない曲であるかのように聴こえる。しかも、同じ曲であっても聴くたびに少し印象は変わる。メロディラインとテンポは変わっていない。ピッチは安定しているし、リズムも正確だが、常に“今、この瞬間”の感情が乗っかっているのだ。32歳と34歳で違う歌声になるだけでなく、昨日と今日という短いタームでも間違いなく違う響きを湛えているし、明日はまた、今日の経験を加えた昨日とは違う城田優にしか歌えない曲になる。だから、彼の歌は何度でも聴きたくなるし、彼がどんな日々を送り、どんな人に出会い、どんな作品と向き合ってきたのかも気になってくる。
日本人の父とスペイン人の母との間に生まれたダブルである城田優。彫りが深く端正な顔立ちと190センチの高身長という恵まれた見た目。そして、俳優、歌手、演出家、監督、プロデューサーと活動の幅を広げ続ける才能の豊かさから、生まれながらにもった資質を存分に活かした天性のエンターテイナーという印象を受ける人もいるかもしれない。だが、その経歴を振り返ってみると、素晴らしい作品や才能のあるクリエイターとの出会いや縁を大切に育みながら、一歩一歩、着実に歩みを進めてきたことがわかるだろう。
2003年にミュージカル『美少女戦士セーラームーン』の地場衛/タキシード仮面役(2代目)で、17歳で俳優デビューを果たした彼は、2005年には2.5次元舞台の人気に火をつけたミュージカル『テニスの王子様』に出演。2004~2008年までは若手俳優集団「D-BOYS」に所属し、ドラマ『ROOKIES』や『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』『ハケンの品格』などに出演。25歳を迎えた2010年にはミュージカル『エリザベート』に出演し、トート役で帝国劇場の舞台に立ち、芸術祭新人賞受賞。翌年の2011年にミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のロミオ役を山﨑育三郎とWキャストで出演し、同年にはU名義で歌手デビュー、2015年にはドラマ監督、2016年にはミュージカルの演出家としてデビュー。2018年には舞台『ブロードウェイと銃弾』で菊田一夫演劇賞を受賞し、同年にキャリア初となるミュージカルアルバム『a singer』を発売すると、6年半ぶりにシンガーとしての活動を再開した。
ミュージカルデビューからの15年の集大成ともいえるミュージカルアルバムから2年。2020年12月2日には、J-POPの名曲をカバーしたカバーアルバム『Mariage(マリアージュ)』をリリースした。前作が、彼がこれまでにどんな物語や役柄と出会ってきたのがわかる作品であったとするならば、本作は彼が10代の頃からどんな曲を聴き、歌ってきたのかがわかる1枚となっている。