Mr.Children『SOUNDTRACKS』が語りかける“今を生きる”大切さ 誰もが辿る人の一生に触れた、全10曲を聴き解く
生まれて初めて夢中になった音楽がMr.Childrenだった筆者は、「音楽=自分自身に寄り添ってくれるもの」と思っていた。他の多くのリスナーと同じように、人生の節目節目でMr.Childrenからたくさんの勇気をもらった。だが、それは当たり前のことではなかったのだと、その後気づくことになる。
「Mr.Childrenは世の中に訴えたいことやメッセージを吐き出したいバンドではなくて、聴いてくれる人たちの人生のサウンドトラックになりたいという気持ちが強い」「歌の主人公はあくまでもリスナー」(桜井和寿)ーー通算20枚目となるアルバム『SOUNDTRACKS』の初回盤CDに付属している特典映像にて、メンバーの田原健一も語っていたが、Mr.Childrenは「リスナーへの寄り添いをモットー」とするバンドである。「主人公はリスナー」と聞くと、そこに制作者の感情はないようにも思えるが、Mr.Childrenは等身大の彼ら自身を歌うことで、リスナーに寄り添ってきた。日本を代表するトップアーティストでありながら、今でも私たちリスナーに近い感覚で喜びや不安を表現する彼らだからこそ、等身大を歌うこととリスナーへの寄り添いが同居する。前々作『REFLECTION』では「リスナーの聴きたいものを全部つくろう」と23曲を収録し、前作『重力と呼吸』では「4人」のやりたいことを「4人」だけでやりきり、本作で「リスナーのため」に帰ってくるところがMr.Childrenらしい。
しかし本作は、『SOUNDTRACKS』=主人公はリスナー、とタイトルに掲げながらも、等身大・自然体のMr.Childrenが強く滲み出ていることに気づく。年を重ね、力を抜いたそのままの彼らが、ここにはいる。また、本作の曲順は「個」としての彼らの想いの推移そのもののようで、奥深い。そこで今回は曲順に沿って各曲をレビューしていく。「時間(過去・今・未来・老・終)」「愛」の2つに着目して読み進めるとわかりやすいかと思う。
『重力と呼吸』から『SOUNDTRACKS』へ
01.DANCING SHOES
〈We were born to be free〉=無様でも自由に踊れ! と叫ぶ一曲。現状を突破したいという想いが渦を巻き、まさに前作『重力と呼吸』での姿を彷彿とさせる一曲で、アルバムは幕を開ける。
02. Brand new planet
桜井は「Mr.Childrenとして28年やってきて、“目指すところ”みたいなものがなかなか見付けづらくなってる」とした上で、「それでもなお、音楽への憧れを抱えて、新しい可能性を探しに行く。つまり、ロンドンへ旅立つ我々を、我々自身が励まし、讃える歌」と語っている本曲。まさに『重力と呼吸』から『SOUNDTRACKS』に向かう間の一曲である。しかし新たな可能性を模索しながらも〈さようならを告げる詩 この世に捧げながら 絡みつく憂鬱にキスをしよう〉と、「終わり」がちらつき始める。
出会い、歩み、別れ、死を想う
03. turn over?
〈眠れないボク〉〈機嫌直してよ〉という歌詞から、喧嘩中の、出会って間もない恋人たちが浮かぶ。〈キミ〉への最愛を歌ったポップなナンバーだが、その中でも〈地球は回る 僕らとは無関係で〉と、時が前に進み始めたことを想像させる。
04. 君と重ねたモノローグ
重ねてきた「過去」を振り返る一曲。「君」は前曲の恋人のようにも、Mr.Childrenと共に歩んできたリスナーのようにも聴こえる。〈僕に翼は無いけれど 今なら自由に飛べるよ〉という歌詞は「and I love you」の〈もう一人きりじゃ飛べない 君が僕を軽くしてるから〉を彷彿とさせ、リスナーがいるからこそ自分たちがあると、伝えてくれたように感じた。〈いつしか僕も歳をとり 手足が動かなくなっても 心はそっと君を抱きしめてる〉と遺書にも似た歌詞が登場し、「老い」と、それでも変わらぬ「愛」を描いている。
05. losstime
「老い」を意識した流れから続く本曲は、愛する人を亡くし、ひとりになった老婆の物語。子供達は巣立ち、都会で離れて暮らしている。〈みんな いずれ そこに逝くからね 生きたいように 今日を生きるさ〉という歌詞は、メンバー全員が50代となったMr.Childrenの声であり、だからこそ「今」を生きるのだという決意を感じる。そして(記憶の中の)〈愛しい君をぎゅっと 抱きしめる〉と、「愛」で締めくくられる。
06. Documentary film
生きたいように今日を生きる、そう思っていても〈特別なことは何も〉ない日がある。そう始まる本曲でも〈君の笑顔にあと幾つ逢えるだろう〉と「終わり」を想う。テーブルに落ちる枯れた花びらが「終わり」の象徴として描かれているが、ここで思い出されるのが1996年発売の「花 -Mémento-Mori-」である。Mémento-Moriとは、「死を想え」という意味。〈負けないように 枯れないように 笑って咲く花になろう〉と歌っていた彼らは50代を迎え、まさに「終わり」を想い、それをアルバムの随所に散りばめた。また「花 -Mémento-Mori-」では〈やがてすべてが散り行く運命であっても〉〈手にしたい 愛・愛〉と力強く歌われていたが、本曲では〈君が笑うと 愛おしくて 泣きそうな僕を〉と歌う。愛を手にしたからこそ、その愛から離れる悲しみがあることを感じているのかもしれない。