藤川千愛、笑顔で噛み締めた歌を届ける喜び ソロデビュー2年の集大成見せた『HiKiKoMoRi』ワンマンレポ

 そして、本編最後の曲「誰も知らない」を前に彼女はこう語った。

「みんなもきっと感じたと思うんだけど、コロナで家でじっとしていた時に、他のみんなの時計も同じように止まっているはずなのに、自分だけ置いていかれているような錯覚になって落ち込んだりしました。そんな時に、私は歌手だから、こんな時にこそ歌にしかできないことがあるはずだと思って作った曲です。いまだに明日がどうなるかわからない毎日だけど、私の歌が、みんなの胸に灯る勇気の燃料になることを願ってます」

 〈今夜くらい希望を歌えたらな〉という歌う彼女の声はきっと、この日、集まった観客の心の中に残り、勇気の火を灯す燃料となることだろう。そのくらい、この音楽を“あなた”に届けたいんだという気持ちがひしひしと伝わってくるライブだった。

 アンコールでは、3枚のアルバムのボーナストラックに入っているロックバンドのカバー曲を連発した。クリープハイプ「オレンジ」、ASIAN KUNG-FU GENERATION「遥か彼方」で疾走感とスピード感をあげ、銀杏BOYZ「援助交際」では唱歌のような独特の節回しも見せつつ、全てのエネルギーを放出するかのように雄叫びをあげ、「東京」のイントロを挟み、この日一番と言ってもいい満面の笑顔で2周年記念ライブの幕を閉じた。

 彼女が最初に語っていたように、ソロシンガーとして活動を始めた2年の間にあった様々な事柄、喜びや悲しみ、そして、応援してくれるファンへの感謝も含んだようなステージだった。何より、喜びが増しているのがこれまでとの違いだろう。音楽を自分の好きなタイミングで、好きなように、自分らしく楽しめるようになった彼女は、ここからきっとまた変わっていくだろう。サポートバンドはロックが似合うし、観客も盛り上がりやすいが、ブラックミュージックを消化した歌謡ソウルやジャズ、シティポップなどのグルーブをもっと求めたい気持ちもある。藤川の等身大の歌詞と抜群の歌唱力という持ち味を武器に、これからどんな変化をしていくのか。12月6日から始まる初の全国Zeppツアーがその第一歩となるだろう。

■永堀アツオ
フリーライター。音楽雑誌「音楽と人」「MyGirl」、ファッション雑誌「SPRiNG」「Steady」「FINEBOYS」などでレギュラー執筆中。「リスアニ!」「mini」「DIGA」「music UP’s」「7ぴあ」「エンタメステーション 」「CINRA」「barks」「EMTG」「mu-mo」「SPICE」「DeVIEW」などでも執筆。

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