森山直太朗と山崎育三郎、“歌が主役の朝ドラ”『エール』で活躍 歌と演技の合流地点で自身の表現を追求
音楽が結んだ絆は役を超えて響き合う。10月31日放送の『SONGS』(NHK総合)に森山直太朗と山崎育三郎が登場する。
2人は現在放送中のNHK連続テレビ小説『エール』(NHK総合)で共演。森山演じる藤堂清晴は小学校の教師で、主人公・古山裕一(窪田正孝)の音楽の才能を見出す。山崎が演じるのは、藤堂の教え子で裕一と小学校以来の再会を果たす歌手の佐藤久志。少年時代、両親が離婚して落ち込む久志に寄り添い、唱歌「ふるさと」を一緒に歌ったのが藤堂だった。
『エール』のモデルになっているのは作曲家の古関裕而だ。夏の甲子園の大会歌「栄冠は君に輝く」や“六甲おろし”でおなじみの「阪神タイガースの歌」は古関のペンによるもの。ドラマでは古関が実際に作曲した曲が使用されており、キャストによる歌唱場面が話題になっている。これまでに野田洋次郎、古川雄大、井上希美、小南満佑子、柿澤勇人たち歌手やミュージカル俳優が登場し、歌声や演奏を披露した。まさに“歌が主役の朝ドラ”と言っていいだろう。
「さくら(独唱)」の大ヒットで知られる森山の連続ドラマ出演は本作が3作目。森山は、2020年1~2月に放送され、高い評価を得た『心の傷を癒すということ』(NHK総合)に出演。実在の人物をモデルにした同作で、森山は主人公の兄である安智明を演じた。三人兄弟の長男として、心のケアに取り組む精神科医の弟・安和隆(柄本佑)を見守り、早世した和隆の業績を紹介するという役どころだった。
落ち着いた佇まいの中に情感をにじませる演技は、森山の音楽性にも通じる。映画『望み』の主題歌でもある最新曲「落日」は静謐さが心に沁みわたる佳曲だ。一方で「シアトリカル」と称されるライブでは音楽の枠を超えたエンターテインメントを追求し、音楽と演劇の融合した劇場公演を数度にわたって開催。舞台にも出演し、役者的な感性をふんだんに持ち合わせた森山の『エール』抜擢には必然性があった。
久志を演じる山崎は12歳で舞台デビューし初主演を飾ると、史上最年少での『レ・ミゼラブル』マリウス役や『モーツァルト!』主演を務め、またたく間にミュージカル界のスターとなった。舞台で培った演技力を武器に、山崎は映像の分野にも進出。『下町ロケット』(TBS系)やドラマ初主演の『あいの結婚相談所』(テレビ朝日系)、『私たちはどうかしている』(日本テレビ系)など話題作に出演。また、オリジナル曲とともにカバーアルバムをリリース。ミュージカル俳優ならではのアプローチで名曲に命を吹き込んでいる。
山崎の演技について、窪田は『あさイチ』(NHK総合)のインタビューに「人より見る視点が多い。役者をやっているだけでは想像しない動きやセリフ回しをする」とコメント。山崎も「流れやテンポを大事にしている」と語る。山崎の演技は一言でいえば「音楽的」であり、全方向型の才能が総合芸術と呼ばれるミュージカルの舞台で培われたことは間違いない。
『エール』でミュージカル俳優が起用される理由として、西洋音楽のバックグラウンドを持つ古関が手がけた楽曲はマーチ調の勇壮なものが多く、高い歌唱力と演技力が求められるという事情がある。また戦後、劇作家の菊田一夫とのコンビで多くの映画、演劇、ミュージカル作品の音楽を手がけたのが古関裕而その人であり、『エール』でのミュージカル俳優の起用には里帰り的な意味もある。
その他に、ミュージカル俳優がもたらす副次的な効果として、誇張された表現のおもしろさがある。セリフと動作で場面の状況を伝え、歌によって物語が進行するミュージカルでは、演者に幅広い表現力が求められる。古川雄大演じる“ミュージックティーチャー”御手洗清太郎は、おそらく『エール』全編を通じてもっともクセの強いキャラクターだろう。第13週で“プリンス”久志のライバルとして登場した御手洗と久志の対決シーンは、アドリブも交えて画面をはみ出しそうな迫力があった。