『GUNDAM SONG COVERS 2』インタビュー
森口博子が語る、ガンダムソングに込められたものと歌うことへの使命 「根底には“生きる”というメッセージが流れている」
ファンの声をモチベーションに乗り越えた自粛期間
ーー緊急事態宣言の発令やステイホーム期間を挟んでのレコーディングになったわけですが、打ち合わせはZOOMなどを使って?
森口:取材などはZOOMですけど私はアナログ人間なので思いたった時は、即電話です(笑)。音をデータでもらって、「ここをああしてほしいこうしてほしい」と電話で伝え、直してもらった音を聴いて、また電話してという繰り返しでした。とくに「月の繭」は緊急事態宣言前にレコーディングしていて、ステイホームですごく時間があったものだから、ミックスバランスにこだわりまくってしまって。ボーカルのバランスはこっちがいいとか。それで緊急事態宣言の解除後に、スタジオに持ち込んでそこからさらに仕上げていきました。生声の透明度を追求して、いろんな試行錯誤をしたので、ぜひヘッドフォンやイヤホンで細かいところまで聴いてほしいですね。
ーーそう言えば「月の繭」は、サビで民謡のようなこぶしが入っていて、あれは意識して入れたのですか?
森口:もちろんです。大好きな菅野よう子さんのメロディとアレンジはとても神がかっていて、異次元レベルで素晴らしくて。その圧倒的で神秘的な世界観は残しながら、自分らしさを入れようと思った時にそういうアイデアが生まれました。奥井亜紀さんが歌っている原曲でも、ほんの一瞬引っかけるような歌い方をしているところがあるんですけど、それを前面に押し出したものを後半で入れたら、私らしさと大陸的なアジアンテイストの世界が表現できるんじゃないかと思って。ファンのみなさんの評判もすごくいいです。
ーー発売日が3カ月延びたことは、最初はアンラッキーだったかもしれませんが、結果として制作にかける時間も増えたことでよりハイクオリティになしましたし、今の時代に向けたメッセージがより感じられるものになりましたね。
森口:そうですね。メッセージという部分を、いつも以上にみなさんが受け取ってくれたことで、音楽はその時の環境だったり精神状況によってぜんぜん違って聴こえてくるのだと実感しました。それに時間があったぶん試行錯誤して、トラックダウンもマスタリングもとことんまでこだわることができて、こんなにもぜいたくに時間をかけて制作したのは人生で初めてでした。おうち時間にきっとみなさんいろいろ感じたと思いますが、私は音楽の熟成期間として使わせていただけたので、思った以上に前向きに受け止めることができました。
ーーレコーディングやライブが延期になりましたが、やはり最初は落ち込んだり不安を感じたりしましたか?
森口:歌手なのでレコーディングやライブ本番に向けて喉の調子を整えるんですけど、いつ再開されるのかわからなくなっていたので、モチベーションや喉のコンディションのコントロールが難しく、そこに対する不安はありましたね。リモートでボイトレを続けていたんですけど、人前で表現する場がないのに整えておかないといけないのは、モチベーションの維持が大変です。いろんなところに出かけて人とのふれあい、美味しいものを食べたり、息抜きしながら仕事もして整えるのと、不安な気持ちのまま整えるのではやっぱり違いますから。それでも毎日のエゴサで、ファンのみなさんがすごく前向きでいてくれたことが、私のモチベーションになりました。先行配信した楽曲をラジオでかけた時は反響が大きく、「泣いた」や「絶対買う」といったうれしい声がたくさん届いて、その言葉に本当に背中を押してもらいました。ファンのみなさんと繋がれることが、こんなに心強いと思ったことはなかったです。
ーーまた森口さん自身は8月に35周年を迎えたわけですが、35年という年月は森口さんにとってどんなものでしたか?
森口:出逢いに恵まれ守られ、あっという間でした。デビュー間もない頃、事務所からリストラ宣告を受けて辛いこと苦しいこと、いろんなことがたくさんありましたけど、やっぱりライブやコンサートのステージに立たせていただいて、ファンのみなさんとエネルギー交換をさせていただくたびに、「このためにやってきたんだ」と思わせてくれて。その繰り返しで、35周年を迎えることができました。4歳から歌手になるという夢の中を今も生かされ、幸せです。ブレないファンのみんなや私が知らないところでもずっと支えてくださっている熱いスタッフの皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです!
ーー長くやっていくうえで、やはりいちばんの願いは1分1秒でも多くみんなの前で歌うことですか?
森口:そうですね。50代に入って、あと何分何秒歌っていられるか考えると、1回1回のステージが20代の頃とは意味が違います。1分でも1秒でも多くみんなと繋がっていたいですね。私はファンのみんなとの触れ合いが大好物なんです(笑)。ライブが生命線で、ステージで歌い終えるたびに命をいただいていると本当に実感します。音楽を通じてそのお返しをして、ファンのみなさまの生きる力に繋がれば、私が生まれてきた意味があるというものです。年齢を重ねるほど、私が歌うことの使命を感じますね。
ーー「ステージ上で死ねるなら本望だ」と、極端におっしゃる歌手の方もいますけど、森口さんもそうですか?
森口:そう思った時期もありましたけど、今はステージを最後までやり抜きたいです。やり抜いたあと、お家で余韻に浸りながら逝くのが本望です(笑)。この歌声は私だけのものではなくて、両親やご先祖さまから受け継いでいるものであり、神様からの預かりものだと思っています。神様にお返しする日まで、最後まできれいにちゃんと使い切りたいなって思います。何百回と歌っている曲でも慣れることはないし、ファンのみんなのコンディションやテンションで、私の歌も違うものになる。神がかっている時もあれば反省する時もある。無になって、何も考えず湧き出るものがファンのみんなに伝わって、「これだ!」と思う瞬間は、得も言われぬ気持ちになります。それがいつも出せればいいんですけど、そういかないのがステージの奥深いところで、だからやめられないんです。
ーー来年は、また生でコンサートができたらいいですね。
森口:本当にそうですね。2020年は、何気ない日常がこんなにも尊かったんだと、あらためて感じた年でした。その中で、音楽が本当にメッセージになるということを、このカバーアルバムを通じていつも以上に実感することもできました。夏のライブツアーや東京国際フォーラムで行われるはずだった35周年のアニバーサリーコンサートやファンのみんなとの触れ合いなど、いろいろなものが中止になったんですけど、ガンダムという私にとってとても大切な運命の作品を通じて、また新しい音楽をお届けすることができたのはとても幸せなことです。こういう環境でも制作ができて、本当に私は恵まれているなと思います。来年は延期になってしまった35周年のコンサートを実現させて、ガンダムソングの魅力しかり、オリジナル曲ももっと発信していけたらいいなと思っています。
■リリース情報
『GUNDAM SONG COVERS 2』
発売:2020年9月16日
【収録内容】
01 サイレント・ヴォイス / with 寺井尚子 (「機動戦士ガンダムZZ」オープニングテーマ)
02 銀色ドレス (「機動戦士Zガンダム」挿入歌)
03 君を見つめて -The time I’m seeing you- / with 本田雅人 (「機動戦士ガンダムF91」イメージソング)
04 いつか空に届いて / with 武部聡志 (「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」オープニングテーマ)
05 あんなに一緒だったのに / with 押尾コータロー (「機動戦士ガンダムSEED」エンディングテーマ)
06 星空のBelieve (「機動戦士Zガンダム」エンディングテーマ)
07 DREAMS (「機動新世紀ガンダムX」オープニングテーマ)
08 一千万年銀河 / with 塩谷哲 (「機動戦士ガンダムZZ」エンディングテーマ)
09 月の繭 (「∀ガンダム」エンディングテーマ)
10 MEN OF DESTINY (「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」オープニングテーマ)
-Bonus Track-
11 暁の車 (「機動戦士ガンダムSEED」挿入歌)
12 限りなき旅路 / with VOJA (「∀ガンダム」最終話エンディングテーマ)
初回製造分のみスリーブケース仕様(ことぶきつかさ描き下ろしジャケットイラスト)